第4章 13話 『暴風』
龍平に矢が放たれる少し前…
その少女は真っ白な世界にいた。
辺り一面が真っ白で自分以外には何も存在していない。そんな世界だった。
訳もなく歩き回っていると、それは突然起こった。
何もない筈の世界で彼女は風を感じた。
自分の皮膚を撫でるようにその風はやって来た。
風はそのまま一ヶ所に集まり、凝縮していき、一つの身体となった。
と言っても、ちゃんとした姿形はなく、唯一分かることは頭部に角らしい物があることだけだ。
『やっと会えたね…櫻子ちゃん』
その風は櫻子に話しかけてきた。
その風の声はどこかで聞いたことがある気がしたが思い出そうにも櫻子は思い出せなかった。
「貴方は…ひょっとして『鬼』?」
自分の身に起きている事態についていくために彼女は必死で情報を集めることにした。
『その通りだよ…僕は君達からは『鬼』と呼ばれている。櫻子ちゃんの憎しみと絶望が僕を呼び覚ましたんだよ』
あの時、私は両親を失い…自分の無力さを知ってしまい。ただ、強くなりたい…
自分の弱さが憎かったのだ。
「貴方は私に力をくれるの?」
『当たり前でしょ…僕は君の為に生まれてきたような物だからね』
「私の為?」
『正確には君の一族の為かな…詳しいことは後で話すよ。早くしないと君の大好きな人が死んじゃうよ…』
その言葉の後、自分の身体に力がみなぎってくるのを感じて、彼女はそのまま意識を戻した。
龍平に数本の毒の矢が放たれた。
彼の身体はもう、限界を迎えていた。
酸素不足と目眩と身体中の痺れ、恐らく彼女が酸素を減らしていたのと同時に何らかの毒を放出していたのだろう。
「まだ…諦めねぇぞ…」
刀を手に取り、鞘から引き抜き応戦しようとしたが、最早彼の身体には刀を握る力さえ残ってはいなかった。
毒の矢の先端が龍平に刺さろうとしていた時だった、突如強い突風が吹き荒れ矢が方向を変え別の所に刺さったのだ。
瀬菜は最初まぐれかと思い、もう一回毒の矢を放ったがまたしても防がれたので、彼女はもう一人敵がいることに気づいた。
「はぁ…誰なの…私の邪魔をするのは…」
足音が聞こえたので、龍平と瀬菜は足音のする方に振り向くとその少女は立っていた。
「私だよ…瀬菜ちゃん…」
そこには河村櫻子がいた。
龍平と瀬菜は彼女から発せられている鬼の波動を感じ、彼女が『鬼化』したことを理解した。
「しかも『赤鬼』か…本当にめんどくさいな…」
「どうして…瀬菜ちゃんが…」
櫻子のどうしてには色々な複雑なものがあったに違いない。
しかし、今はそれを考えている時間などないのだ。
「どうしてって、理由何ているの?。それを話したら理解してくれるの?」
瀬菜は隠すことなく、自身の本性をさらけだしていた。
「本当に、あの瀬菜ちゃんはもうここにはいないんだね…」
「そうだよ…さてと、そろそろ邪魔だから龍平君も櫻子ちゃんも殺すね。
<毒よ、矢を放て>」
櫻子と龍平、同時に矢が放たれた。
「悲しいよ…<風よ、矢を弾け>」
すると、櫻子と龍平の身体の周りに小さな風が逆巻いた。
毒の矢はそれに触れると、どこか別の方向に向けられそのままそこに刺さってしまった。
「なるほど…櫻子ちゃんの能力は風を操る能力か…」
「ここからだよ…<風よ、暴風となり吹き荒れろ>」
ここから、彼女の能力の恐ろしさを彼らは知ることになる。




