第4章 12話 『悪女の正体』
残り時間3秒の時点で、龍平の拳は悪女の白い狐のお面に当たっていた。
後は、力を込めるだけだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
白い狐のお面にヒビが入ったと同時に悪女の身体を壁にめり込ませた。
その時、凄まじい音が鳴り響いた。
能力で聴力を強化している彼にはかなり辛かった。
彼女を殴り終えた後、直ぐ様彼はタイマーの方に視線を向けた。
残り時間あと1秒の所でタイマーは止まっていた。
つまり、間一髪だった。
ギリギリの所で悪女を仕留めることが出来たのだ。
安堵していると、どこからか笑い声が聞こえた。
『はは…はっはっはっはっ…あっはっはっはっはっ…』
その声は今は聞きたくはなかった。
先程、壁にめり込ませた悪女の身体は既になく工場の真ん中に立っていた。
『助けられたって思った?。残念でした…闘いがどうなろうと、タイマーは1秒の所でちょっとだけ止まるようにしといたんだよ』
「この…クズ野郎が!」
彼女は龍平と櫻子に希望を見せつけ、それを奪ったのだ。
助けられたと思っていたが彼女の言葉通りだとすると、
「まさか…」
『それは君の目で確かめてきなよ…今なら入っていいよ』
それはもう、確かめる必要はないことだった。
だけど、それでも彼はこの現実から目を背けようとはしなかった。
刀を鞘に納め、龍平は櫻子のいる部屋に向かった。
龍平が部屋に入ると、その光景は広がっていた。
自分の視線の先には安らかに眠っている櫻子の両親の姿が写っていた。
龍平にとっても彼らは親の様なものだったのだ。
そして部屋の隅にいる櫻子を彼は直視出来なかった。
「パパ…ママ…、こんなの…あんまりだよ…」
彼女の瞳から大量の涙が溢れていた。
一番彼が見たくなかったものがそこにはあった。
守りたかったものも守れない…
せめて、奴を葬ることぐらいはしないと彼らに申し訳ない。
それと、最低の仕掛けを施した悪女への怒りを晴らさないといけなかった。
『どうだったの?、死んでたかな?』
ヒビの入ったお面越しからでも分かるほど彼女は楽しそうだった。
「何で…殺したんだよ…」
『私の計画の為の必要な犠牲だよ…、貴方にも譲れない物があるように私にも譲れない物があるから』
「そうかよ…」
全くもって理解出来ない。
彼女の目的は人を殺さないと達成出来ないものらしい。
「なぁ…何であんなことをしたんだよ…」
『櫻子ちゃんの両親を殺したことかな?』
「それもだけどよ…何で…あの部屋に櫻子の両親がいないんだよ…」
龍平が先程部屋に入った時、彼は違和感を覚えた。マジックミラーに見えた物を試しに壊してみるとそこに広がった光景は工場の外の光景だった。
「つまり、お前は…櫻子の両親を別の場所に監禁してたんだろ。時間になったら映像が映るようにしといてな。どうせ、勝敗に関わらずあの二人は殺してたんだろ…」
『正解だよ…櫻子ちゃんの両親は彼女のいる部屋の隣にいたんだけどなぁ~気づかなかったのかな?』
「なぁ…答えろよ…俺が勝ってたらあの二人は助かってたのか…」
『助かってないよ…どっちにしろ私の能力で殺してたから。何で君たちにチャンスを与えないと駄目なの?、私の目的の為にはあの二人を殺さないと意味なかったんだからさ、まぁ…あの二人を生かしておいた理由を強いて挙げるなら君達二人の必死こいてる様が見物だったってところかな…』
「黙ってろよ…」
彼の我慢の限界だった。
直ぐ様、鬼の能力を使用し彼女に飛びかかった。
納めていた刀を直ぐ様抜刀し、そのままの勢いで斬りかかった。
『さっきよりかは速いね…』
彼女はナイフ2本を駆使し、刀の動きを止めた。
そのままナイフを自身の身体らへんに引き寄せ、龍平の動きが少し崩れたのを見計らって蹴りを入れた。
流すことが出来ず、彼はそのまま壁の方に吹っ飛んでしまった。
この時、彼の肋骨が数ヶ所折れた。
更に腕の負傷が完治しておらず、ヒビが入ってしまった。
「最悪だな…」
すると、畳み掛けるように悪女は攻撃を加えてきた。
『もっと、最悪にしてあげるよ。
<毒よ、矢となり彼の物を打て>』
彼女の周りに数本の毒の矢が生まれた。
それは、一本一本に猛毒が込められかすっただけで命取りになってしまうほどだ。
『大体どれ喰らっても死ぬから…まぁ違いを言うならドロドロになるかグチャグチャになるかだよ』
龍平は自身の死を覚悟した。
それと同時に彼の嗅覚はある匂いを嗅ぎとった。
やっぱり…そうゆうことかよ…
ずっと疑問に思っていたことが今、解き明かされた。
『最後に言い残す言葉は?、特別に聞いてあげるよ』
御言葉に甘えて彼は最後の抵抗をすることにした。
「お前の…正体が分かったよ…」
『やっと気づいてくれたの?』
「お前が残してくれた匂いに気づかなかったよ。
いや…気づかないふりをしてたのかもしれないな、だってそうだろ…もしその通りなら俺は…お前を殺さないといけないもんな…」
そして、彼は一呼吸してから悪女の正体を告げた。
「そうだろ…上野瀬菜…お前が毒女の正体だ…」
彼女は何の抵抗もすることなく、白い狐のお面を取り外した。
そこには教室で見る彼女とはまるで別人の者が立っていた。
「いつから気付いていたの?、私の正体に…」
「匂いだよ…、お前がしてる香水はさ、ずっと一緒だったからな。最初はまぐれだって思ってたけど、まさかこうなるとはな…」
「龍平君がもし、その時倒しておけばこうならなかったのにね。君ってホントに甘いよね!」
本当にその通りだ。自分が奴の正体に気づいたときに見てみぬふりをせず、ちゃんと向き合っていれば櫻子の両親は死ななかったかもしれない。
「黒崎龍平…君の甘さで君自身が死ぬなんてね…本当に笑えるよ…。それじゃあバイバイ…」
そして、彼女は龍平に向かって矢を放った。




