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復讐鬼  作者: 中村淳
第4章 『黒鬼討伐』
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第4章 11話 『親と子』

タイマーが動き始めたと同時に彼は能力を使った。


「<我が鬼よ、我が身に宿れ>」


そのまま跳躍し、彼女の仮面に刀を入れようとしたが、


『無駄なのにな…』


すると、彼女の掌から毒霧が発せられた。

以前の自分なら、成す術なくやられていたかもしれないが今は違っていた。


「そっちがな」


鞘に納めていた刀を抜き、左手に持ち、霧に向かって刀を振るった。

すると、霧は一瞬で払われた。

とは言え、直ぐに戻ってくるので彼は更に身体を捻って、刀の威力を増加させた。

刀の刃が彼女の身体に触れる寸前、甲高い音がした。それは彼女がナイフで刀を防いだからだ。

そのまま彼女が空いている手にナイフを持ち、龍平に向かって投げた。

龍平はそれを別の方に蹴飛ばし何とかかわした。


『はぁ…、あの時殺しておけばよかったな』


悪女は少し残念そうだった。



櫻子が部屋に入ると、中には鎖で繋がれている両親の姿があった。


「パパ!、ママ!」


急いで鎖をほどこうとしたが、彼らの元へ向かう途中に何かの障害物に当たってしまった。

それは部屋の真ん中にあり、部屋を二つに分けるために存在していた。

お互いの姿は見えるのに向こう側には行けない。


「マジックミラーか…」


櫻子は直ぐにそれを割ろうとしたが、自分の力で割れる物ではなかった。


「櫻子…無事か?」


マジックミラーを割ろうとしていると、父の声が聴こえた。

自分たちの安全でさえ、ままならないのに自分の心配をしてくれているのだ。

櫻子は少し泣きそうになったが、何とか堪えた。


「大丈夫だよ…パパの方こそ大丈夫なの?」


「あぁ…大丈夫だ。それに龍平君が助けてくれるだろうからね」


すると彼は、ドアの外側に視線を向けた。

櫻子のいる部屋は防音らしく、外からの音は何も聴こえなかった。

櫻子はタイマーの方に眼を向けた。

すると、タイマーは既に1分30秒を過ぎようとしていた。



「はぁ…はぁ…、何で当たらねぇんだよ…」


少し息を切らしながら、龍平は自分の攻撃が当たらない理由を考えていた。

色々な攻撃方法を行っているがその全てを彼女は防いでいたのだ。

更に彼女は、攻撃を防ぐと一定の距離をとるのだ。


「ふざけやがって…」


なぜ彼女が距離をとりながら闘うのかは簡単だった。まず、自分の能力で強い毒を作るためなのと、時間切れを狙っているからだ。

龍平がタイマーの方に眼を向けると、既に2分経過しようとしていた。


『可哀想だから、チャンスをあげるよ。

<毒よ、我が身の翼となれ>』


すると、彼女の背中辺りに紫色の羽が現れた。

次の瞬間、今度は彼女の方からこちらへと接近してきたのだ。

彼女は右手にナイフを持ち、それをこちら側に向けて突進してきたのだ。

スピードが速すぎて彼は咄嗟に彼女の進路方向を変えた。

横っ腹に蹴りを入れて左側へと向きを変えた。

その時に足にきた衝撃が強く、右足の骨にひびが入った。


「はぁ…はぁ…、痛いな…」


病院から退院したてなのに、もう早速けがをしているのだ。


「保険に入るか…」


少し笑いながらふざけた事を言った。

笑ってないとこの息苦しさを緩和出来そうにないからだ。


『やっぱり気づいているよね、龍平君の周りに毒を放ってることに、早くしないと龍平君も死ぬよ』


彼女はこの闘いが始まったと同時に毒を放ち始めたのだ。

効果は龍平の辺り一帯から酸素を少しずつ奪う毒だ。


「中条彰より、お前は…悪人だな…」


そう言い終えると、彼は動き始めた。

まず、地面に落ちている彼女のナイフを手に持った。


「お前のナイフ、使わせてもらうぞ…」


『どうぞ…お好きに』


言われると彼は、三本のナイフを彼女に向かって投げた。


『なるほど、私の視線をこれで奪ってどこかから奇襲でもするのかな…』


三本とも、ナイフで叩き落とした。

すると、彼女は頭上に大きな影が見えたので上を向くと、そこには龍平の姿があった。


「お前の言うとおりだよ!、これで死んどけ!」


彼は刀を振り下ろし、彼女の身体に叩きつけた。

急いで彼女は毒の膜を張ったが、遅かった。

轟音と共に彼女は地面へと叩き付けられた。

残り時間1分…



「何とかしてパパとママを助けなくちゃ…」


先程から櫻子はマジックミラーに向かって殴りかかっていた。

何時かは割れることを信じて彼女は殴り続けたが、先に彼女の拳の方が限界を迎えた。


「お願いだから櫻子、もう止めて!」


母の言葉に彼女は冷静さを取り戻した。

それと同時に右の拳から発せられる尋常じゃない痛みを味わった。

彼女の右の拳は既に血塗れで、見ていられないほど痛々しかった。


「大丈夫…だから」


そのまま殴るのを再開しようとしたが、両親に止められてしまった。


「大丈夫だ!櫻子、龍平君がきっと助けてくれるよ」


「そうよ、龍平君なら私たちを助けてくれるは」


櫻子とて、龍平を信じていない訳ではない。

だが、


「あと1分じゃ無理かもしれないよ!」


タイマーはあと1分程しかなく、今から間に合うのは現実的に見て不可能だった。


「櫻子…あまり龍平君を責めたら駄目だよ」


父からそんな言葉が出てきた。

彼らは間に合うとは考えていなかったのだ。


「櫻子…龍平君に迷惑をかけたら駄目よ。女の子はおしとやかじゃないと男の子に嫌われちゃうから」


「やめ…てよ…、パパも!ママも!諦めないでよ!」


自分の無力さと、理不尽な現実に向かって叫んだ。


「いいんだ櫻子…これが僕らの一族の運命だったかもしれないんだから…」


父は不思議な言葉を言った。


「僕らの一族って何なの?」


「僕と母さんの一族は、『反対派』だからこうなったのかもしれないね」


父の言っていることが、この時の櫻子には理解出来なかった。

残り時間30秒…



残り時間が30秒を下回り、彼の瞳には焦りが現れた。


『最後に絶望をあげる…<毒よ、渦巻け>』


彼女の両手の掌から、とんでもない量の毒の霧が噴出された。

勢いがあまりにも強く、下手に突っ込むことは出来なかった。


「あの時、頚を斬れていたら…」


彼女の地面に叩きつけた時、そのまま頚を切断しようとしたが、彼女に毒を噴出され、怯んだ隙に距離をとられてしまったのだ。


「最悪だな…」


残り時間20秒…

彼は博打に出ることにした。


「いくぜ…失敗したら終わりだな…」


彼は神に祈った。

そして、刀を霧の中に向かって投げた。

投擲の構えをとり、ボールを投げる要領で刀を悪女に向かって放った。

刀は狙い通り霧を抜けていった。


『何にも打つ手なしかな…えっ!、嘘でしょ…』


彼女は霧から出てくる刀に気づくには少し遅すぎた。

何とか避けようとしたが、刀の速度が速すぎて左肩に突き刺さってしまい、そのまま勢いで壁に縫い付けられてしまった。

刀が突き刺さったと同時に霧が止まった。

それを狙っていたかの様に、龍平は両足に力を込め、跳躍した。


「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


龍平は白い狐のお面に向かって拳を放った。

残り時間5秒…



櫻子のいる部屋のタイマーはあと15秒を指していた。


「もう無理なのかな…龍平…」


頼みの綱の彼の名前を呟いた。

彼が最後の希望なのだから。


「櫻子…笑って頂戴…」


泣きそうになっていた。

もう助かるか分からないのだから、助からない可能性の方が大きいのだから。


これがあの日…龍平が味わったものなんだね…


初めて彼の気持ちが分かった様な気がした。

結局の所、自分は味わったことがないから彼に向かって言っている言葉には重みがないのだ。

今なら分かる。

あの日の彼の悔しさが…


「ごめん…パパ。ごめん…ママ…助けられなくてごめん。今までこんなに育ててくれたのに何の恩も返せなくてごめん…」


残り時間あと8秒…


「気にしなくていいよ、櫻子のお陰で僕らの人生は最高に楽しかったからさ…」


「龍平君と幸せになりなさいよ…」


櫻子の瞳には涙が溜まり始めていた。


「櫻子…貴方のことをずっと愛してる…」


父と母が同時にそう言った。

二人を失いたくないから、彼女は手を伸ばした。

届く筈のない手、彼らもそれに応じて手を伸ばしてくれた。

重なることはないけど、櫻子は両親の温かみを感じた。

残り時間あと5秒…



龍平の拳が求めたものは目の前の敵を殺すこと…


櫻子の手が求めたものは両親の愛…


この二つは皮肉にも同じタイミングに伸ばされたのだ。

冷たいものと温かいもの、まるで正反対のものを求めた二つの手が手に入れたものは…

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