第4章 10話 『悪女の計画』
7月6日
その日は学校が休みだったので黒崎龍平と河村櫻子は少し長めに睡眠を取ることにした。
彼らが起きたのは午前10時の針を短針が触れた頃だった。
「おはよう…」
龍平からだった。
お互いに寝惚けながら洗面所に向かい顔を洗った。
その後、軽い朝食を済ませ櫻子を家に送る準備をすることにした。
「なぁ…何で俺が付いていく必要があるんだよ…」
せっかくの休日なのだから休ませて欲しい。
彼は翌日の日曜日には基地に行かなくてはならないので今日を逃せば当分休める日は訪れないかもしれない。
「別にいいじゃん…私と龍平の家は歩いても10分位しかかからないんだから」
「分かったよ…」
結局、龍平の方が折れ櫻子に付いていくことにした。
出掛ける時に玄関に置いてある竹刀袋を手に持った。
毎回彼は外に出る時はこれを持ち歩いているようにしている。
おかげで警察に怯えながら道を歩く羽目になってしまった。
櫻子の家に着くまで彼らは終始無言だった。
数分後…
河村家のあるマンションに着いた。
彼女の家はマンションの四階の真ん中らへんにあるのだ。
四階に着き、彼女の家の玄関の前に着いた。
「送ってくれてありがとう…」
彼女が鍵を使って自宅に入るのを見届けて彼は帰ることにした。
だが…
突然、大きな物音がした。
何かただごとではないと思い、急いで彼はドアを開き、櫻子の家にお邪魔した。
そこにあった光景は以前の物とはまるで異なっていた。
至るところに陶器の破片があったり、物が乱雑していた。
とにかくそれはひどい光景だった。
そしてもう一つ、これが一番ひどい物だった。
それは壁にある文字が刻まれていた。
『櫻子ちゃんへ
あなたの両親は私が預かりました。
あなたが私の要求を飲まないと彼らの命の保証
はいたしません。
と言ってもそれは簡単だよ。
黒崎龍平を連れてくること、彼にこの事を伝え
るのはオッケーだよ。
龍平君へ
君にも幾つか要求があるから書いておくね。
まず、君は刀を持ってきてもいいよ。
その代わり、赤城隼人や吉野裕介とかに連絡す
るのは禁止します。
破ったら彼らは殺します。
以上 』
それらの文字は全て血で書かれていた。
「どうしよう…、ママとパパが…」
現実に起きていることに彼女は対処しきれていなかった。
この誘拐は恐らく、龍平を殺そうとしている奴の仕業だと言うことも彼女理解していた。
龍平を連れていけば間違いなく彼が酷い目にあってしまう。
かと言って、彼を連れていかないと両親が殺されてしまう。
「櫻子…俺は行くよ…おばさん達を助けに」
櫻子は何も言わなかった。
床に置かれていた1枚の紙に地図があった。
ある1ヶ所に星印がされていた。
彼らはそこに向かうことにした。
そこは、何かの工場だった。
人の気配はなく、手入れもされていないので恐らくは倒産したのだろう。
工場の真ん中に進んで歩いていくとその人物は立っていた。
龍平はその人物が誰なのかを何となくは分かっていた。
『やっと来たね…待つのめんどくさかったよ』
白い狐のお面を着けたその人物は以前彼が闘ったことのある人物だった。
「やっぱお前か…」
『何で分かったの?』
「お前が拉致った現場にナイフを置いていたからだ」
どうせ、自分の正体を彼に教える為に置いていたのだろう。
「パパとママは無事なの…」
消えそうな弱々しい声で尋ねた。
『無事だけど…これからの龍平君しだいだね…』
つまりはこれからの自分次第なのだ。
彼らの命が助かるかは。
「俺は何をすればいいんだ?」
『簡単だよ。今からルール説明をするね。まず、あの部屋に櫻子ちゃんの両親がいるよ』
その人物が指差した方には扉が設置されていた。
『あの部屋に入っていいのは櫻子ちゃんだけ、龍平君が入ったら私の能力で殺すよ…』
「他は?」
『龍平君が私を倒せたら能力を使えないから君の勝ちだよ。制限時間は5分。それで決着をつけなかったら櫻子ちゃんの両親は死ぬよ…』
最悪のルールだ。
つまりは自分が奴を殺さないと櫻子の両親は救えないのだ。
唯一部屋に入れる櫻子が助けられればいいのだが、多分無理だ。
奴がそんな抜け目を用意しているはずはない。
本当に最悪だ…
「他には俺らの勝利条件はないのか?」
『ないよ…櫻子ちゃんが部屋に入ったら5分測るよ』
櫻子は既に部屋に向かっていた。
部屋までの距離は少しあったからこいつに聞くことにした。
「お前の目的は何だ?」
『さぁ…と言っても近々分かると思うよ』
その言葉の後、櫻子が扉を開く音が聴こえた。
『じゃあ、スタート…』
工場のど真ん中に置かれたタイマーが動き始めた。




