第4章 9話 『騒動の始まり』
その日の昼休み…
クラスの何人かが教室で昼食をとっている時に上野瀬菜は帰って来た。
「あっ!、瀬菜ちゃん!」
それにいち早く反応したのは龍平の隣で食事をしている櫻子だった。
「櫻子ちゃん…ただいま」
少し弱々しい声だった。
きっとあの後、色んな事を言われたり咎められたりしたのだろう。
あまりその辺の事は聞くつもりはなかったが瀬菜の方から話してきた。
「あの後さ、先生達から誰との子だとか、おろしなさいとか、しまいには退学を薦めてくる人もいてさ…本当にもう…疲れた」
そう言われてしまい、言葉を返すことは出来なかった。
だが、櫻子は違っていた。
「別にさ…気にしないでいいと思うよ。最終的には全部瀬菜ちゃんが決める事なんだから。私は瀬菜ちゃんの味方だから」
こう言った事を言える彼女が羨ましい。
そんな事を思いつつも、彼の心中の中にはもう一つ別の物があった。
何で…あの匂いがするんだ…
深くは考えないようにした。
その日の放課後…
タクシーで帰っていく瀬菜を見送ってから龍平と櫻子は帰宅していた。
「私もさ、いつかはあんな風にお母さんになる日が来るのかな?」
空を見上げながら彼女はそう呟いた。
「櫻子は、いいお母さんになれると思う。お前は料理出来るしな」
少し違っている気もするが、彼なりの答えだった。
「ありがとう…龍平も、いいお父さんになれると思うよ!」
「ありがとうな、でもその前にいい嫁さん貰わねぇとな」
「ここにいるじゃないですか!。優しくて可愛くて家事万能、こんな優良物件があるというのに」
「はいはい、そうだな」
笑いながら彼らはそんな話しをしていた。
途中で櫻子がふて腐れていたのをジュースを買って機嫌を良くさせたのはまた別の話だ。
そんなこんなで家に着く頃、櫻子の携帯に一通のメールが届いた。
「お母さんからだ…ふむふむ」
「おばさんから何てきたんだ?」
「えっとねぇ…旅行に飽きてきたから少し早いけど明日の昼頃には帰ってくるから櫻子もいったん帰っておいでだってさ」
この知らせはとてもありがたい。
龍平はここ最近寝不足で少々しんどいのだ。
寝不足の主な原因が取り除かれるのはありがたいことだ。
「と言うわけで、明日の昼頃になったら一回家に帰るよ」
出来ることなら当分泊まりには来てほしくないけど。
「分かった。とりあえず、あと1日だけ俺ん家に泊まるってことだよな?」
「うん…そうなるね。寂しい?」
「全然寂しくないな」
そう言うと、彼女に弱い力で何回か叩かれた。
その仕草が可愛くて少しだけ、顔が赤くなってしまった。
そして彼らは龍平の家に着き、夕飯の用意を始めた。
この頃、悪女の計画も動き始めていた。
同時刻…
櫻子が住んでいるマンションの一室に、血に染まったナイフを持つ、白い狐のお面を着けた人物がいた。
その傍らには二人の男女の身体が横たわっていた。
『さてと、始めますか…』
ナイフを壁に向け、何かを彫り始めた。
数分でそれは終わり、彼女は目的地に向かうことにした。
『はぁ…これを一人でするのはめんどくさいな』
両腕に二人の男女の身体を抱え、姿を消した。




