第4章 6話 『狙撃』
彼がそれに気付いたのはそれが放たれてから数秒後のことだった。
視線を櫻子から周りに変えたときに偶然、彼はそれの存在を知った。
自分の頭を狙って射たれたそれはそのまま彼の頭を貫く筈だったが彼は掛けていた竹刀袋でそれが頭に当たるのを防いだ。
「嘘だろ…」
それの正体を知るため直ぐ様当たった所に視線を向けるとそれは弾丸だった。
触れてみると憎悪が少しみなぎってきたので彼はこれが『鬼鉱石』であると確信した。
龍平が今いる所は人が多い駅の周辺のコンビニなのだ。
つまり…
「櫻子…逃げるぞ」
そして彼はそのまま彼女の手を掴み走り出した。
普通なら男女共に憧れるかもしれないことなのだが事情が事情なのだならそんな事を言っている場合ではない。
その時の彼らは自分たちの事を見ている視線に気付かなかった。
その少年の眼には何か暗い物が灯った瞬間だった。
櫻子の手を掴み走り出してから数分が経過した。
走りながら彼は考えていた。
何で俺は櫻子と一緒に走ってるんだろう?
明らかに狙われてるのは俺だからな、なのにどうして…
そう考えていると彼女が声をかけてきた。
「龍平、何時まで走るの?」
彼女の声からは疲労も感じとることが出来た。
確かに彼女の言うとおりだ、そろそろ目的地の我が家に着く頃だから歩いても構わないのだ。
「一旦歩くか」
そして彼らは減速した。
「はぁ…はぁ…龍平…何で急に走り出したの?」
どうやら彼女に何の説明もせずにこんなことをさせてしまったらしい。
とりあえず彼は今自分たちの周りで起こっていることを説明した。
とは言え、そんなに複雑なことでもなく簡潔に述べるなら、自分が何者かによって狙われている。
これだけで済む。
「なるほどね…でもさ、何で私の手を掴んだの?」
「え?」
彼女の質問の意味が分からず聞き返してしまった。
「だってさ、私がいなかったら龍平もさ、足手まといがいなくて闘い安かったのかなって」
その時の彼女の顔は悲しそうな表情をしていた。
無力な自分が辛いのだ。
そんな経験を何度もしている彼にはそれがどんなに辛いかよく分かる。
そう本当に何度も…
「櫻子がさ、狙われた時に俺が近くにいたら護れるから櫻子の手を掴んだんだよ。それとさ足手まとい何かじゃないから。お前はいっつも俺の事を支えてくれてるだろ、お前がいないとダメなんだよ」
葵にも言ったことのない恥ずかしいことを彼は彼女に伝えた。
その時の自分の表情は分からないけど恐らく赤いと思う。
彼女の瞳に写った自分が少し赤くなっていたからだ、それと櫻子の顔も赤かった。
「そっか…何か嬉しいなこんな時だけど」
彼らの周りに幸せな何かが込み上げてきたがそれを堪能することは出来なかった。
龍平の右足に目掛けて弾丸が放たれた見事にそれを喰らってしまったのだ。
「<我が鬼よ、我が身に宿れ>」
直ぐに鬼の能力を使用することにした。
そして彼は五感を集中させ狙撃手の場所を特定することにした。
彼の家の周辺には大きなビルや建物が幾つかあった。
鬼の能力が『強化型』なら飛び移ることなど造作もないことなのだ。
現に狙撃手の位置は毎回変わるのでとても厄介だった。
彼が能力を使い始めてから数秒後に弾丸は自身の後頭部に目掛けて放たれた。
それを感知し彼は身を捻りそのまま手に持っていた刀で弾丸を切断した。
「やっと見つけた…」
自分の真後ろに建てられているビルから弾丸は放たれていた。
「逃がさねぇぞ!」
直ぐ様走り出したが、何者かによって突然足止めを喰らうことになった。
「させない…」
その声が聞こえた後、自身の身体に衝撃的な物を喰らってしまった。
衝撃が来た方に眼を向けると一人の少女が立っていた。
その少女はこちらに視線を合わせるとこう言った。
「久し振りだね…そしてさよならかな」
この出来事がまだ後に起こる激闘の始まりのですらなかったことに彼らはまだ知るよしもなかった。




