第4章 2話 『帰宅』
重い足をあげながら黒崎龍平は自分が生まれ育った我が家を目指していた。
「はぁ…はぁ…ってか何でこれを渡すんだよ…」
そう言いながら彼は竹刀袋に入れた自分の刀に目を向けた。
葬式の後、清水博士から護身用にと持たされたのだ。
「迷惑な話だな…」
雪鬼村の闘いのせいで赤城隼人は現在入院していた。吉野裕介も怪我がまだ完治しておらず入院していた。
「上位が負傷してんのに俺らは負傷してないって…笑えねぇな」
本当に笑っている場合ではないのだ。
もし、この状態で基地が襲撃されたら太刀打ち出来るかどうか怪しいのだ。
「あ~あ、そう言えば俺の試験の結果ってどうなったんだろうな…」
試験中に拉致られたのだから、せめて再試験してもらわないと困る。
龍平は先ほどからこうして下らないことを考えてばかりだった。
こうでもしないと自分自身が壊れてしまいそうだから…
基地から歩くこと数分、龍平は目的地の我が家へ遂に到着したのだ。
彼はポケットにいれている鍵を取りだしドアノブの鍵穴に挿し込み左に捻った。
ガチャリと音が聞こえ、そのままドアを開いた。
「ただいま…」
そう言うと彼はそのまま玄関で倒れてしまった。
今までに蓄積された疲れが一気に溢れだしたのだ。
次に彼が目を覚ましたのは翌日の夜だった。
目を覚ますと彼は柔らかな物の上に横たわっていた。
直ぐにそれが我が家の布団であることに気づいたが彼は疑問に思った。
「誰がここまで…」
頭の中にそんな疑問が生まれたが直ぐ様答えを知ることが出来た。
一階の台所から何やら良い匂いが漂ってきたのだ。その匂いに釣られ彼は階段を軽やかに降りるとそこには彼女がいた。
「櫻子…」
彼の目の前には数週間ぶりに目にした河村櫻子がカレーを作っていた。
櫻子はこちらに気づいていないのか、さっきからずっと鍋の方を見つめているだけだった。
彼女は心配してくれていたのだろうか…
もしそうなら申し訳なくなってしまう。
意を決して彼は櫻子に話しかけることにした。
「なぁ櫻子…何をお前に言えば言いのかわかんねぇからさ、とりあえず俺が言いたいことを言うよ。
ただいま…」
特に着飾ることもないシンプルな言葉だった。
今の彼に伝えられるのはこのぐらいしかないのだ。
櫻子はガスの火を止めこちらに振り向いた。
そして、少し悲しげな笑顔で龍平の帰宅を出迎えた。
「お帰りなさい…」
彼女の表情を見た限りでは、櫻子は心配してくれていたらしい。
「カレー…まだか?」
彼女のカレーの匂いのせいで龍平は空腹に陥ってしまった。
「あともう少しだから…」
彼女はまた煮込み始めた。
窓の外へ目を向けると日が沈みかけており、やっと夜になろうとしていたのだ。
ここから彼らの夜は始まった。
長い長い夜…




