第4章 1話 『葬式』
雪鬼村での闘いを終え、黒崎龍平達は近くの病院に入院していた。
医者には完治するのにかなりの時間を要すると言われていたが、既に人ではない彼らには関係のないことだった。
7月3日
龍平達は退院した後、自宅に戻り服を着替えた。
数週間ぶりに袖を通した制服に龍平は少し懐かしさを感じた。
懐かしさの余韻に浸るのを堪え、彼は基地へと向かった。
今日は清々しい程晴れており、太陽の光が龍平の肌を焦がそうとしていた。
夏の暑さに少し鬱陶しさを感じたが基地に入るとその感情は無くなっていた。
基地に入ると背中に悪寒を感じるほど寒かった。
冷房がついている訳ではない、この基地に漂う雰囲気が異常な程冷たかったからだ。
そのまま彼は試験の説明を受けた会場へと足を運んだ。
会場に入ると辺り一面に人が溢れていた。
その人々の集団の先頭付近に一つの棺が置かれている。その棺の真上には満面の笑みを浮かべた一人の少女の写真が貼られていた。
しばらくすると、喪服を着用した一人の女性が現れた。
「今日…私達はこのような晴れ渡る青空の下、彼女を…天原凉音を…天国へと旅立つ彼女を見送れることを感謝します」
そう…今日は天原凉音の葬式なのだ。
龍平達がヘリコプターへと向かう途中、彼らは天原凉音が倒れているのを発見したのだ。
だが、駆け寄った時には既に遅く彼女の身体は蘇生出来ない状態にまでなってしまっていた。
それと、赤城隼人が瀕死の重傷で倒れていた。
彼には何とか応急措置を施すことが出来たので大丈夫だったが、天原凉音は遅かった。
彼女の死因は心臓麻痺だった。
恐らくは黒崎龍平と闘った黒鬼十師団の最強の一番の能力によるものだとされている。
しかし、一番の能力は解明されておらず何故心臓の鼓動を止めれたのかは不明だ。
葬式は着々と進んでいき終わった。
終わった後は何人かはその場から去っていった。
「俺のせいで…死なせてしまった…」
龍平は自分の力のなさが悔しかった。
試験の日に、俺が奴を殺せていれば彼女は死ぬことはなかったんだ…
「何でだよ…」
怒りも感じる…
悔しさも感じる…
だが、
悲しみだけは感じなかった…
現に先ほど水本早苗を見たとき、彼女は泣いていた。泣いている彼女を雪村進一が慰めていたのだ。
「俺…あの人が俺のせいで死んだのに…全く悲しくないんだよな…」
一番と闘ったとき、触れてはいけない何かに彼は触れ。その代償に感情が無くなってしまったような気がしている。
鬼化してから能力を使う度に彼は何か大事な物が無くなっている感覚を味わっているのだ。
「もう帰るか…」
式も終わり、龍平…帰路につこうとしたが目の前に中条あゆなが立っていた。
「どうした?」
あゆなの表情は重々しい表情だった。
「ねぇ…大丈夫?」
「何が?」
「凉音さんのことで、何か悩んでるかなって思ってさ」
悩んでいることは多いが今は考えられなかった。
とりあえず今は休息をとりたい。
精神的にも肉体的にも今の自分の疲労は計り知れないものだからだ。
「何でもないよ…」
そう言い残し龍平は基地から外へ出た。




