第3章 22話 『雪の少女』
氷の壁から産まれたその少女は人と呼べる程の肌の色をしてはいなかった。
美肌と呼ぶにはあまりにも白く、また彼女から発せられる冷気は触れるもの全てを凍らせる程だった。
そのまま彼女は手を天に向け、こう呟いた。
『雪よ、降り積もれ…』
すると、鼠色の雲が徐々に現れそこから雪が降り始めた。
「嘘だろ…」
その能力を見たとき、黒崎龍平は驚きを隠せなかった。
能力も凄いが、彼女の鬼の波動が周りの物とは次元が違っていた。
『やっと…自由になれたは。嬉しい…』
「俺も嬉しいよ、伝説の『雪鬼』が目の前にいるからね!」
中条彰は珍しく興奮していたらしい。
その目は憧れの物を見つめる少年のような目をしていた。
『あなた…さっき私の肉体を傷つけようとしたわよね?』
「貴方の復活の為です…御許しください」
そのまま膝を地につけ敬服していた。
『そう…まぁいい…。許してあげる…私はだけど…』
彼女が気になる発言をしたその直後、階段の方から二つの人影が飛び出した。
「何あれ!?。あゆなちゃん?」
「今は龍平君を助けるよ」
水本早苗と雪村進一だった。
早苗は龍平の方に向かい、進一は彰の方へと回った。
「なるほど…二人で俺の相手をするんじゃなく強い奴がするって戦法か。面白い…あの死神が相手してくれるなら悪くはないな」
中条彰はそのまま雪村進一と対峙した。
「よくも僕の獲物を横取りしてくれたね…僕は今苛ついているんだ。楽には死なせないよ…」
鞘に納めていた刀を抜き、首を切断しようとしたが直ぐ様中条彰は氷の壁を形成し自身の身を守った。
雪村進一と中条彰が闘いを始めたのを見計らい、水本早苗は黒崎龍平の元へと駆け寄った。
「龍平!大丈夫?」
「そんなにかな…早く枷を外してくれ」
それを聞くと、彼女は枷を刀で壊してくれた。
「ありがとう…」
「別にいいよ…はい!これ!」
そう言ってから彼女は刀を渡してくれた。
「これは…」
「龍平が使ってる刀…持つの大変だったから帰ったら何か奢ってね」
「分かったよ」
すると、一人の少女が近付いてきた。
人と呼べるかが曖昧なその物体はこちらに話しかけてきた。
『そこの殿方…何故貴方に夜叉がいるの?』
黒崎龍平に指を指しながら少女はそう聞いてきた。
「夜叉?、何のことだ?」
何のことか分からず質問を質問で返した。
『何故貴方が『始まりの鬼』を持っているの?』
「え…、俺の鬼が『始まりの鬼』…?」
突然のことに彼は対処仕切れなかった。
俺の鬼が『始まりの鬼』?
どうゆうことだ…
『貴方…夜叉に何も聞かされてないのね。まぁ彼は昔からそうゆう鬼だからね。彼に会ったら言っといて頂戴。貴方の言うとおり人間は狂ってるって』
そう言いながら、彼女は色っぽく笑った。
「今度会ったら言っとくよ、ところでお前は何者だ?」
いずれ聞こうと思っていたことだ。
答えなど聞かなくとも分かっているが…
『私は回りからは雪鬼と呼ばれてる者よ。貴方が私たちの村のことを聞いてるなら知ってると思うけど、私は『始まりの鬼』の血を飲んでこうなった。更に妹を殺した最低の姉よ』
この村の伝説は正しかったらしい。
「そうか…」
『そろそろ約束を果たさないとね…』
「約束って何なんだ?」
その部分だけが伝説では語られてはいなかった。
中条家の人でさえこの約束については誰も知らなかったのだ。
『すぐに分かるよ。そんな事より、そろそろ君の仲間の所に行かなくていいの?。彼の強さなら死ぬことはないだろうけど…』
その言葉を聞き、雪村進一と中条彰の方を見るとその闘いは激しさを増していた。
「はぁ…はぁ…結構強いな」
息を切らしながら、雪村進一は自分が闘っている敵の強さを再確認していた。
「お前も強いよ。流石だな死神…俺が刀を鞘から抜くことなんてそんなにないぜ」
そう言いながら中条彰は、自身の腰に掛けている刀を抜いていた。
その刀は銀色と言うより、薄い青色をしていた。
「この刀は俺の能力で作った氷と鬼鉱石を混ぜ合わせて造った物でな、切れ味は半端ないよ」
そのまま中条彰は雪村進一との距離を詰め、喉元に自分の刀を突き刺そうとした。
それを自分の刀で防ぐと、彼は能力を使った。
「<大地よ、彼の者を捕らえよ>」
すると、地面から土のような物で出来た腕が二つ現れた。二つの腕は中条彰を捕まるため、動き始めた。
「<凍りつけ>」
彼は自分の周りを凍りつかせた。腕と一緒に周りの土地まで凍らせたのだ。
「僕の能力を封じ込めるためか…」
能力を封じられた事に少しだけ焦っていると、中条彰は一気に距離を詰めてきた。
「終わりにしてやるよ、お前の伝説をな!」
刀で胴体を切り裂こうとしてきたが辛うじて鞘で刀を防いだが、その隙に中条彰は彼の右頬に拳を入れた。
拳の威力を流しきれず、彼はそのまま吹っ飛んでしまった。
「さてと、止めをさしてやる」
中条彰は倒れている雪村進一に止めをさそうとしたが、彼は足を止めた。
「気づくの早いよ」
中条彰が自分の仕掛けた罠に掛からなかったのがかなり悔しかった。
「お前が吹っ飛んだ所は俺の氷が覆ってないところだからな、俺が近づいた瞬間にお前の能力で動きを封じ込めようとしたんだろ?」
バレていたのは想定外だったが、彼は笑っていた。
「良かったよ、貴方が僕の本命に気づかなくて」
すると、中条彰は真横からやってくる投石物に気付き身体を捻ってそれをかわした。
投石物がやって来た方を見ると、自分が氷で覆っていない部分の地面から小さな腕が出来ていた。
「なるほど…これがお前の本命か。あまり効果は無かったようだけど」
視線を雪村進一に戻したとき、中条彰は眼を疑った。先ほどまでいた雪村進一がその場にはいなかったのだ。
「どこだ…」
雪村進一の姿を探していると、自身の背後から声が聞こえた。
「ここだよ…」
声の方に振り向いた時には遅かった。
雪村進一が振るった刀の刃が自身の胴体に当たり、そのまま彼は中条彰の胴体を切断した。
この瞬間、雪村進一は自分の勝ちを信じたが現実は違った。
胴体を切断した瞬間、彼の身体にヒビが入りそのまま粉々になっていった。
その光景を目の当たりにしていると、自分の背後の視線を感じたが遅かった。
背中に蹴りを入れられ、雪村進一は境内の建物の壁に激突した。
直ぐに反撃に移ろうとしたが、背中から少しずつ周りが凍りついていき、彼はその場から動けなくなった。
「卑怯だな…、氷の人形を使うなんて」
「相手が伝説の死神ならこうするしかなかったんでな、伝説に敬意を込めて殺さなかったんだから感謝して頂きたい」
「あの程度で僕は殺せないよ」
「でも今、お前は動けないだろ?」
雪村進一は何も返すことが出来なかった。
「後は、『雪鬼』の力を試すだけだ」
中条彰はあゆな達の所へと戻ろうとしたが、途中で自分の行く道に立ちはだかっている二つの人影に戻るのを阻止されたのだ。
「よぉ…元気にしてたか?」
「この通り元気だよ、龍平君は?」
二つの人影の一つの黒崎龍平はこう返した。
「元気になるには、てめぇを殺さねぇとな!」
龍平は自身に沸き上がってくる激しい怒りを感じていた。
「そうね、私も殺さないと元気になれないよ」
隣に立っていた、水本早苗もそう答えた。
その光景に中条彰は笑みを浮かべた。
「俺に勝てるわけないだろ!」
彼は無数の氷柱を形成し、彼らに向かって放った。
向かってくる氷柱を見て、彼はこう言った。
「確かに俺らじゃお前に勝てねぇかもな、でも勘違いすんなよ。お前を殺すのは俺たちじゃねぇからな…そうだろ、あゆな!」
次の瞬間、彼らに襲いかかってきた氷柱は粉々になった。そして、彼らの前に一人の少女が立っていた。
「そうだね…これは私がやるべきことだから。
中条彰…貴方を殺す。残念だよ兄さん…」
自分の名前を呼ばれ、中条彰は戸惑っていた。
「どうゆうことだ?」
外見は先ほどとは何も変わっておらず、白いままだった。違うことは1つだけ、彼女の肉体から『雪鬼』が消えたことだけだ。
「私たちの先祖の約束を今ここで果たす…」
中条あゆなはそのまま走り出した。




