第3章 21話 『儀式』
中条彰が昔話を語り終えた後、彼は直ぐに黒崎龍平達の元へと戻っていた。
「あゆ…そろそろ儀式を始めるよ」
その言葉を聞くと、中条あゆなはその場を後にした。
「君も参加してもらおう」
すると、足の枷を壊し。少しだけ動けるようにした。
「何で俺を儀式に参加させるんだ?」
疑問に思い、聞くことにした。
「単純にその方が面白いからだ」
そのまま、中条彰は乱暴に黒崎龍平を外へと連れ出した。
外に出るとそこには、神社が建てられており看板らしき物には『雪鬼神社』と彫られていた。
だが、そんな事よりも猛烈な寒さが自分の身体に襲いかかって来ており、かなり辛い状態だった。
神社の本堂らしき建物の近くに謎の文字で書かれた円陣があった。
「これは何だ?。『儀式』ってこんな中二病くさいことすんのかよ」
端から見たら、中二病の集まりが円陣書いてお祈りしているような地獄絵図だ。
「黒崎龍平…お前が想像しているような物ではないからな。見たら分かる」
その言葉を発した後、巫女装束を纏った中条あゆながやって来た。
その姿はとても美しく、坂本葵と河村櫻子以外に女性を美しいとは思っていなかった自分が少し恥ずかしかった。
「おいおい見とれるのは分かるけど俺の妹だからな、手を出したら殺す」
と低めに脅された。
「兄さん…何をするの?」
いつもの明るさはなく、淡々としていた。
表情はとても暗く、そこには中条あゆなの魂がないように思える程だった。
「あの円陣の真ん中に立ってくれたらそれでいい」
言われるがままに彼女は円陣の真ん中に立った。
『儀式』と言うからにはもう少し複雑な物だと思っていた。
しかし、『儀式』はここからが本当の始まりだった。
「さぁ…始めるか」
すると、彼は自分の手をナイフで切りつけ。そこから垂れてくる血を円陣に当てていった。
すると円陣に書かれていた文字は白く発光しだした。
「準備完了…あとは仕上げだけ」
そのまま中条彰はあゆなの元に歩いた。
「あゆ…これから痛い思いをするけど我慢してほしい…」
中条彰は、自身の能力を使い氷の剣を産み出した。
そして、何かを決心したかのような顔つきをした。
「<雪鬼よ、彼の者の命を生け贄とし蘇れ>」
手に持っていた氷の剣を中条あゆなの心臓に突き刺した。
「あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
心臓を刺されたことによる激痛が彼女の身体全体に駆け巡った。
「あゆ…あの時、黒崎龍平を刺したのは俺を殺す機会がほしかったからだろ?。今、その機会をやるよ」
その場を立ち去ろうとしたが、中条あゆなに肩を掴まれた。
「必ず…お前を殺してやる!」
「期待してるよ…」
次の瞬間、中条あゆなの周りをとても分厚い氷が覆った。まるで産まれてくる命を護るための壁としてそれは立ちはだかっていた。
「てめぇ…何やってんだよ?」
その光景を目の当たりにし、黒崎龍平の怒りは最大限に高まっていた。
「妹の心臓を刺したんだよ、それ以外に何かしたかい?」
その答え方にも怒りを感じた。
「お前がやってんのは、『儀式』じゃなくて殺人だろうがよ!」
「その殺人を見過ごしたお前が口を挟むな、負け犬は大人しくしてろ。それに…『儀式』は今から始まるんだ」
その言葉の意味が分からなかった。
既に『儀式』を行うための器が死んでしまっているのにどうやってするのかが分からない。
「どうゆうことだ?」
「お前は勘違いをしている。まず、この『儀式』の目的はあゆの中にいる『雪鬼』を引っこ抜くものではなく、あゆの中にいる『雪鬼』とあゆを一体化させようとしてるんだよ。分かりやすく例を挙げるなら、お前の『鬼宿し』と似たような物だ。まぁ、お前は鬼に対して主導権を握れるが、あゆは握れない…この差だな」
つまりは、彼女の肉体そのものを鬼にしようとしているのだ。
『雪鬼』と呼ばれる伝説のためにこの男は、家族を殺したのだ。
「やっぱり、お前は屑人間だな…中条彰!。
あゆなからお前があいつの故郷を滅ぼした時の話を聞いたよ。その時、俺は疑問に思ったんだよ。後継者は誰か分からないのにお前はあゆな以外の人間を皆殺しにした。何故お前がこんなに簡単に殺せたのかの理由は、既に何らかの方法であゆなが後継者ってことを知ってたからだ。
つまりお前は…自分の快楽のためにあゆなの故郷を滅ぼしたんだろ!この外道が!」
喉が潰れてしまいそうになるほどの声量が彼は自分の怒りをぶつけた。
「正解だよ…この村の村長には後継者を知ることが出来るらしくてな。滅ぼした時の村長の前の村長に聞いていたから既に知ってたんだよ。
あれは本当に楽しかったよ!」
やはりこいつは悪魔だ。
人の皮を被った、醜い化け物だ。
黒鬼の次に殺してやりたいと思う。
「あと少ししたら、あゆは完全に鬼と一体化する…」
それまでに何とかしてあの氷を砕かなければ、しかし能力が使えないので何もすることが出来ないのだ。
「やっぱり、お前は負け犬だな!」
すると、それ起こった。
中条彰本人でさえ、全く予期していなかったことだ。
突如、氷にひびが入った。そこからひびは広がり最終的にはそれは粉々になった。
粉々になった氷の中心地に一人。いや、一体の鬼が佇んでいた。
先ほどまでの黒い髪ではなく、雪よりも白い髪の毛。雪よりも白い肌を持つ、常識を超えた存在が現れた。
「何故…早すぎる…」
このことに中条彰は動揺した。
そして静かに彼女は手を空に向けた。




