第3章 16話 『実力』
場面は水本早苗達に戻る…
『そろそろ弱った頃だしとどめをさしますね』
水本早苗達は彼女の毒により、身体に力が入らなくなっていた。
「まずいな…」
指先に力が込められず、歩くこともままならない。そんな状況だった。
「しょうがないな…水本、雪村…今すぐ入口に戻りなさい」
天原凉音は後輩達を逃がそうとしていた。
自分が身を睹して逃げる時間を稼げれば、増援がやってくるからだ。
「嫌です!…最後まで天原さんと闘います」
しかし、水本早苗は彼女の命令を聞き入れることは出来なかった。
「分かったよ…全力でいく…
<糸よ、我が意思の元…我が肉体を操れ>」
彼女の指先にある糸は彼女の背中の方に回って行き、彼女の身体の内部に入り込んだ。
『何をしたの?』
「これから分かるよ…<糸よ、剣を紡ぎだせ>」
指先の糸が複雑に絡み合い、一本の剣となった。
その事に白い狐のお面を被った彼女は驚いていた。
『指に力が入らない状態なのにどうやってそれを持ってるの…まさか…』
あり得ない話しだが、今起きている現象を説明するにはこれしかあり得ない。
「私は自分自身を自分の糸で操っているのよ…
私がイメージしたことはそのまま私の肉体が再現してくれる…とは言えかなり辛いから早く終わらせるから」
そのまま天原凉音は目の前に飛び出し剣を刺そうとしたが、現実は甘くはなかった。
『確かに貴方が万全の状態でそれをやっていたら変わっていたかもしれないけど…忘れたの?私が毒を操る能力者ってことを』
彼女はそのまま手を差し出し、掌から紫色の大きな球体を造り出した。
『致死性の猛毒…当たったら死ぬから避けてね…』
そのまま、その球体を天原凉音の方に放った。
しかし天原凉音は避けることが出来なかった。
もし、避けてしまうと後ろに控えている水本早苗か雪村進一に当たってしまうのだ。
恐らく敵もこの事を見越していたのだろう。
「このクソ女…呪ってやる…」
自身の命の終わりを感じとり、天原凉音は諦めた。せめて後輩達は逃がしてやりたかったが生憎今の自分にはそんな力が残っていないのだ。
そんな自分の弱さを憎んだ。
しかし、憎んでいても結果は変わらない…
あと数秒程で毒の球は天原凉音を直撃する。
「ごめんね…」
諦めの言葉を溢したその時だった。
突然、毒の球は真っ二つに分かれたのだ。
「なぜ…」
自分の死から助かったことに驚きを隠せなかった。
後ろに振り向くと、彼はそこに立っていた。
真紅の髪の色をした剣士、赤城隼人が。
「遅くなってごめんね…僕が来たからもう大丈夫だよ」
彼は優しく天原凉音に微笑んだ。
その事にとても安堵をしたが、今起こっていることの説明をしなければならない。
「赤城さん七人衆が…」
今起こっていることを懸命に赤城隼人に説明をした。
「なるほどね…恐らく龍平君とあゆなちゃんが目的だね。そして彼らの試験会場には中条彰がいるだろうね。早く彼女を倒して駆けつけないと」
しかし、事はそう簡単には終わらなかった。
『話しは終わったのかな?』
こちらの話しが終わるのを待っていたようだ。
少しムカつくがありがたいので堪えることにした。
「終わったよ。待たせて悪かったね…普段は女性を待たせるようなことをしないんだけどね。
さてと、早く可愛い後輩達を助けたいから君を今から殺すよ」
雪村進一とは違った。狂気を彼は持っていた。
恐らく彼らは育った環境がおかしかったのだろう。
『あの時、みたいに逃がしてはくれないんですね…』
「残念だよ。女性を斬るのは避けたいけど…君はやり過ぎた」
『はぁ…まぁいいですよ。
<毒よ、煙となり彼の者を覆え>』
すると彼女の回りから紫色の煙が放たれた。
先ほどの球体とほとんど似ている色をしていたので恐らく猛毒なのだろう。
「やれやれ…めんどくさい女性だ。
<鬼よ、我が刀に纏え>」
すると、鬼の波動が静かに赤城隼人の刀を覆った。そこから放たれている鬼の波動は他のものとは圧倒的に違っていた。
そのまま、煙の方へと駆け抜けていった。
「僕に斬れない物はないよ…煙りでも例外なく斬る…」
手に持っていた刀で目にも留まらぬ早業で煙を切り裂いた。
その勢いで彼女の頸を斬ろうとしたが、その寸前彼女が持っていたナイフで防がれ横に一発蹴りを入れられてしまった。
『残念でしたね…赤城先輩』
「そうだね…僕のことを知っているのかい?」
先輩と呼ばれ彼は一瞬耳を疑った。
もし知り合いなら彼女が何者なのかすぐに特定出来るからだ。
『そうですね…以前お会いしたことはありますよ』
「そうか…話しが逸れそうだから早く君を斬るよ」
話を終わらせ、赤城隼人は彼女に斬りかかった。
しかし、またナイフで防がれてしまった。
『赤城先輩…この距離なら私の毒避けれないですよ…』
そのまま毒を放とうとした時、赤城隼人は笑った。
「言った筈だよ僕に斬れない物はないってさ」
すると、防いでいたナイフがそのまま綺麗に斬られてしまった。
このままでは刀が当たってしまうので後方へ飛ぼうとしたが、その動きは読まれており。飛ぼうとした瞬間、足をかけられ体勢を崩してしまった。
「右足を貰うよ…」
崩れた瞬間、赤城隼人の刀の切れ味を味わいながら右足を切断された。
切断される瞬間。直ぐ様、痛みを和らげる毒を使い切断された痛みを和らげるそのまま止血した。
『はぁ…はぁ…中々乱暴なことをするんですね?』
右足を斬られ、今では片足で立っている状態なのでまるでカカシだ。
「そうだね…それにしても君の足は綺麗だねすらっとしてて細い」
『気持ち悪いですね先輩…何時までも女性の足を触り続けるのはセクハラで訴えますよ…』
毒で形成した、銃弾を向け口にした。
もし、足を取り返せたなら鬼の力でくっつけることは可能なのだ。止血したとは言え流石に流れた血の量が多すぎた。
「足…返してほしいのかな?」
『そうですね…早く返してくださいよ』
我慢が限界を迎えたので毒の銃弾を放つことにした。
赤城隼人は避けることが出来ないので、そのまま全部を切り落とした。
「そんなに膝から下の足無くなったのが辛いのかい?」
『そうですね…もういいや今からこの空間に猛毒の気体を放ちますね。流石の赤城先輩も目に見えない物は斬れませんよね?』
そのまま放とうとしたが、突然隣の壁が凍り始めた。徐々に凍りつき、やがて砕けた。
「遅くなったな…さてと目的は達成したから退くぞ。ん?お前足を斬られたのか?」
砕けた壁からは中条彰が姿を現した。
彼の片腕には腹部から血を流している黒崎龍平が抱き抱えられていた。
「龍平君!どうゆうことだ…」
今起こっていることに対処出来なかった。
唯一分かっていることは黒崎龍平が連れていかれようとしていることだ。
「さてと…赤城隼人今すぐ彼女の足を返せさもないとこいつを殺す」
中条彰は抱えている黒崎龍平の方に眼を向けた。
渋々彼は、彼女に足を返した。
足が戻ってくると直ぐ様、鬼の力を使いくっつけた。
「よし…撤退するぞ」
すると、五頭の火の虎が中条彰に襲いかかってきた。
「兄さんは殺させない…
<凍りつけ、そして砕けろ>」
襲いかかってきた虎を前に、中条あゆなは彰を庇うように前に立ち虎を凍らせ粉々にした。
その光景に吉野裕介と赤城隼人は驚きを隠せなかった。
「どうゆうことだい?あゆなちゃん…君はまさか…最初から…」
その続きの言葉を赤城隼人は言えなかった。
いや、言いたくなかったのだ。
目の前で起こっていることに目を背けたかったからだ。
「龍平君を返してもらうよ中条彰…
<火の鳥よ、彼の者を燃やし尽くせ>」
十羽の火の鳥が放たれたが直ぐ様、中条彰の能力により無力化された。
「それでは皆さんさようなら…」
中条彰は上野瀬菜が放った毒の煙幕を利用しその場から姿を眩ました。
「龍平…嘘でしょ…」
水本早苗は何も出来なかった自分を憎んだ。
雪村進一は自分の獲物を奪った彼らに怒りを感じていた。
「取り戻すよ…黒崎龍平君を」
雪村進一が放ったその言葉にこの場に居たもの全員が賛同した。




