第3章 14話 『糸』
黒崎龍平は火を纏わせた刀を手に持ち、中条あゆなに斬りかかった。
「元に戻ってさっさと試験終わらせるぞ!あゆな!」
しかし、その声は彼女には聞こえてはいなかった。
黒崎龍平の刀が自身の身体に当たる寸前に雪で護り更に彼女は雪を一つに収縮し大きな氷柱を型どった。
「邪魔をするな…<氷柱よ、彼の者を刺し穿て>」
次の瞬間、氷柱が黒崎龍平の腹部にめがけて放たれた。
避けきれないので、貫通を避けるために刀の側面で氷柱の先端を自分が貫通するのは防いだが、衝撃は流しきれず先ほどの虎の衝撃よりも強い衝撃が黒崎龍平を襲い彼の身体は宙を舞った。
「<火の手よ、彼の者を掴まえよ>」
吉野裕介の回りの火は巨体な手となり黒崎龍平を掴んだ。
「ありがとうございます…ってかこれ燃え移ってますから早く離してください」
黒崎龍平は燃えかけている肩の方に眼を回した。
「ごめんごめん。今、火を消すよ
<火よ、消えろ>」
肩周りの火は消えた。
だが、現状はあまりよくはない。
「それで龍平君、さっき氷柱の攻撃を受けた時。負傷したよね?」
やはりバレていたか…
黒崎龍平は負傷している右腕を見つめながら吉野裕介に話しをした。
「さっきの氷柱の攻撃の時に衝撃が右腕に流れそのまま骨が折れました。ですが、俺の鬼の能力のおかげでほぼ完治はしております」
とは言うものの、完全に折れたのがくっついて少し、ヒビが入っている状態なので治っているとは言い難い。
あと数分で完治するだろうけど、そんなに待てない。
「さてと…困ったね。武器がちゃんとしてないやつだしそもそも俺は武器を持ってこれてないから結構ヤバイね…」
「吉野さん…あゆなが何で暴走してるのかの理由分かりますか?」
黒崎龍平はずっと疑問に思っていることを口にした。
彼女が暴走しているのは鬼の能力が強すぎるだけではない。彼女の過去が一番の理由だ。
「あんまり詳しくは知らないけど彼女の出身地で何かがあって鬼化したとしか聞いてないからね」
どうやら彼はあまりあてにはならないらしい。
すると彼女の様子は少し変わり始めた。
「どうして皆を殺したの!兄さん…貴方が憎い…」
彼女は泪を流した。
今、分かった彼女の暴走の理由が。
恐らくあゆなは…
「吉野さん…あゆなの暴走してる理由が分かりました…」
「俺も何となくは分かったよ。それで俺はどうしたらいい?」
「吉野さんには…」
黒崎龍平は吉野裕介にある指示を出し彼はそのままその場を後にした。
「あゆな!お前が暴走してる理由が分かったよ…」
その少し前…
試験が始まった時に時間は遡る。
水本早苗と雪村進一は少し距離を離しながら歩いていた。
「ねぇ早苗ちゃん何で離れて歩いてるの?」
雪村進一は少し不服そうな顔をしながら訳を聞いた。
「君のことが苦手だからだよ…さっさと試験を終わらしてペアを解消したい」
これが水本早苗の本音だ。
「早苗ちゃんの命を救ったこともあるんだけどなぁ~」
「君じゃなくて、救ってくれたのは龍平だよ」
「もしかしてさ、龍平君と殺しあわせたことまだ怒ってるの?彼はもうとっくに怒ってないのになぁ~」
嫌そうな顔をしながら歩いていると、広い空間に出た。
「試験官は誰なんだろうね早苗ちゃん」
「赤城さん以外なら誰でもいいや…正直あの人とは闘いにくいし」
すると雪村進一は少し笑いながら話しだした。
「僕は赤城さんが、いいな…彼はさ殺しがいがありそうだからね…とは言えこの試験は殺したら殺されるから手抜きしないとね。でも…この組織の人間と殺りあえるのならそれもありかもね」
こうゆう所があるから水本早苗は彼が苦手なのだ。初めて会った時から彼から不気味な何かを感じていたので正直近寄りたくはなかったのだ。
「さてと…僕らの試験官は誰かな…」
すると向こう側の通路から一人の女が歩いてきた。
「はじめまして…私が君達の試験官の天原凉音です」
天原凉音と名乗ったその人物は顔立ちが整っておりとても綺麗だった。
歳は分からないが恐らく二十歳前後。
とても綺麗な肌をしており、真っ白な雪を連想させるかのような肌をしていた。
髪も艶やかで腰よりも下らへんまであるであろう綺麗な黒髪を一つにまとめていた。
「さてと…水本早苗と雪村進一か…ふむふむ。なるけどね、さてと試験さっさと終わらせたいから始めるよ…因みに私の順位は7位だからそのつもりで」
そのまま彼女はゆっくりと歩き始めた。
少し気だるそうな顔をしていたので、試験官の仕事がめんどくさいのだろう。
「雪村…やるよ
<我が鬼よ、我が神経に大いなる力を与えよ>」
「オッケーだよ。とは言え僕の能力は強化型じゃないからしっかり頼むよ早苗ちゃん!」
と言いながらガッツポーズをしてきた。
自分の方が強いくせに…
不満ながらも水本早苗は天原凉音に向かって走り出した。
「さっさと終わらせたいから瞬殺するね…
<我が鬼よ、我が意思の元において糸を紡ぎだせ>」
透き通るような綺麗な声で彼女は鬼に自身の意思を聞かせた。
すると、彼女の両方の手の指の先端から細長い糸のようなものが姿を現した。
三本の糸が水本早苗に襲いかかってきた。
「三本とも切り裂いてやる」
三本とも別の方向から来ていたが、それを避け。
三本の糸が一点に集中したのを見て、斬ろうとしたが突然身体が動かなくなってしまった。
「何で…どうゆうこと…」
まるで自分が糸に絡められているような感覚を味わいながら考えていると、その答えはすぐに出てきた。
天原凉音の右の方の手の指の先端から四本自分の身体に巻き付いていた。
つまりさっき操っていたのは左の手の指の三本だった。
しかも右の方の四本を見えないように透明にしており視神経を強化している水本早苗が眼を凝らしてようやく見える程透明なのだ。
「さてと…あと一本使ってと…
<我が糸よ、彼の者の神経に絡みつけ>」
右の手の小指の先端から放たれた糸が水本早苗の方に向かってきた。
「これで貴方の神経系を乗っ取ってちょっと弄って気絶させるね…」
つまりは、あの糸が自分の神経に到達した瞬間。試験不合格となってしまうのだ。
「そんなのは嫌…こんな糸ぶったぎってやる!」
しかし四本の糸にがんじがらめにされており身動きがとれなかった。
そして、糸があと数センチのところに差し掛かった時、耳元で声がした。
「早苗ちゃん…貸し一つだよ」
すると自分に放たれていた糸を雪村進一は切り裂いた。そのまま水本早苗の回りについている糸を鮮やかな動きで切りほどいた。
「さてと…大体の能力は分かったからあとは僕に任せてよ」
「まさか…あの人の能力を知るために私を一人で行かせたの!?」
少し怒りを滲ませながら問い質した。
「うん!そうだよ!ありがと早苗ちゃん…君のおかげであの人の能力が分かったんだよ」
「天原さんの能力?」
「そうだよ…さてと天原さん…」
雪村進一は天原凉音に視線を向けた。
「何かな?私のスリーサイズとかは教えないよ」
「そんなことはどうでもいいですけど…壁に糸を流し込むのは止めてくださいよ。僕の能力が使いにくいじゃないですか」
すると天原凉音は驚いたような顔をした。
「何のことかな?」
「惚けないでくださいよ…壁の至るところに自分の身体から出した無数の糸を流し込んでいるでしょ?しかも無茶苦茶透明にしてるからぶっちゃけ見えにくいけど至るところから鬼の波動を感じますから…」
その事を言われ、水本早苗は自分の眼を凝らして辺りを見回していると。天原凉音の身体の至るところから無数の糸が放たれており、確かにこの空間の至るところに張り巡らされていた。
そのまま雪村進一は続けた。
「恐らくですけど貴方の能力は、手から放たれる糸は人を操れて。手以外の所から放たれた糸は物を操れるんじゃないですか?」
すると天原凉音は少し笑った。
まるで、隠し事が親にバレていないことにホッとしている無邪気な子供のように。
「う~ん大体は合ってるけど…少し足りないな」
すると、突然地面が揺らいだ。
そのまま地面から二体の鬼鉱石で出来た人型の人形が現れた。
身長は天原凉音と同じくらいのものだ。
「なるほど…そうゆうことか。
貴方の能力は糸を伝って自身のイメージを送れるのかな?」
「それも少し惜しいかな…私は糸で操った物を自由自在に形を変えれるの。とは言え形が大きいとそれに見合った分の材料がいるから中々大変だよ」
そのまま人形は雪村進一の方に向かっていった。
スピードはかなり速く、逃げ切れるものではなかった。
「やれやれ…この刀が刃と峰が逆じゃなかったら斬れたのにな…ガッカリだよ
<大地よ、僕の意思に従え>」
すると地面から鬼鉱石で出来た四頭のライオンの様な物が現れた。
「貴方も私と似たような能力なの?」
「少し違いますね」
四頭のライオンはそれぞれ二頭ずつに分かれ、二体の人形を噛み砕いた。
水本早苗はそれぞれの物が産まれた所の足場を見ていた。
するの幾つか穴が空いていた。
恐らくあの分の穴が今回の造形に使用された鬼鉱石の分なのだ。
お互いの近くの足場に少し大きめの穴が空いていた。
「う~ん、これは結構めんどくさいね…次で決めようかな」
天原凉音の表情は先程とは変わり、真剣な表情をしていた。
「そうですね…」
雪村進一は刀を構え、何時でも対応出来るようにしていた。
しかし…
『ごめんなさい…今回ここの試験は合格者は出ません』
天原凉音は後ろに振り向くと、自分がやって来た方の通路から人がやって来たことに驚いていた。
「いつの間に…」
その人物は白い狐のお面を被っていたので。
「七人衆が何故?こんなところに…」
『はぁ…三対一はめんどくさいな…』
するとその人物は既に血に染まったナイフを向け水本早苗の方に向かいこう言った。
『お久しぶりですね水本さん…あの工場での傷は癒えましたか?』
あの時の毒の使い手だと彼女はすぐに気付いた。
『さてと…仕事しなくちゃね。はぁ…』
その人物は少しめんどくさそうにしながらナイフを持つ手に力を込めた。




