第3章 13話 『試験官』
扉の中に入ると、一本道が続いていた。
周りは鉄のような物で出来ており恐らくは鬼鉱石なのだろうと少し感心をしていた。
しかし、黒崎龍平の機嫌は少し悪かった。
「どうしたの龍平?」
彼の機嫌の悪さに中条あゆなは気付き訳を聞いた。
「ここに入る前にさ、博士から君たちは丸腰だとどうせ勝てないのでこれを渡しますって言われて貰ったこれさ…俺たちのこと舐めてんのかな」
黒崎龍平は手に持っている、これに眼を回した。
「確かにこれは酷いよね」
彼らが持たされているものは刃と峰を逆にした日本刀だった。
「何の漫画だよ!ってかこんなもん渡すぐらいならそのまんまでいいだろうがよ!」
「確かに…」
そんなことを思いながら歩いていると目的地は見えてきた。
「ねぇあそこ…広い空間があるね!」
「そうだな…さてと俺たちの試験官は誰だろうな」
彼らは広い空間に足を踏み入れると突然、彼らの背後から火が燃え盛りだした。
「なるほどね…俺たちの試験官はあんたかよ…」
この火を見た瞬間、黒崎龍平は試験官が誰なのかが分かってしまった。
するの目の前からその試験官は歩いてきた。
「まさか俺の試験官としての最初の仕事が君の相手とはね龍平君…」
唯一その場の空気が読めていない中条あゆなは空気に乗るために質問をしてきた。
「ねぇ龍平…あの人誰?」
黒崎龍平は息を吸い、目の前の人物と闘う覚悟を決めた。
「この組織で2番目に強い男…吉野裕介さんだよ…」
吉野裕介は笑いながらこちらに微笑んできた。
「さてと無駄話は嫌いだからさっさとやろうよ、
言っとくけど俺は優しくないからね。
<火の鳥よ、彼の者達を燃やし尽くせ>」
吉野裕介から4羽の火の鳥が現れこちらに放たれた。
「いきなりかよ!」
黒崎龍平と中条あゆなの声は見事に揃った。
「やれやれ…さてとやるぜ!
<我が鬼よ、我が身に宿れ>」
そのまま彼は向かってくる火の鳥を3羽切り落とした。
「ごめん!1羽逃がしたからそっちいく」
「いいよ別に…
<雪鬼よ、我が意思に従え>」
その瞬間、彼女の身の回りで雪が吹雪き始めた。
そのまま彼女の身の回りの雪は火の鳥を覆い凍らせた。
「それがお前の本当の能力なのか…」
以前見せてもらった物とは違うことに黒崎龍平は困惑していた。
「ごめん…嘘ついてた」
「お前の能力凄い!、お前の能力ってさ雪を生み出して操る能力なんだろ?」
中条あゆなは驚いていた。自分のことを責める訳でもなく自分の能力を急に褒めてきた彼の対応に。
「そんな感じかな…怒ってないの?」
「何で怒る必要があるんだよ、さてとさっさとあの人倒して試験合格するぞ!」
その時、彼女の胸の中に何かが溜まった。
「やれやれめんどくさい能力だな…これ絶対俺に充てただろ。
<火の虎よ、彼の者達に食らいつけ>」
今度は火の虎が二頭現れた。
そのまま火の虎は黒崎龍平と中条あゆな別々に襲いかかってきた。
「めんどくせぇな…こんな虎ぶったぎってやる!」
自分の持っている刀に鬼の力を上乗せし、身体を捻った勢いでそのまま斬ろうとしたが、虎は鳥とは違い簡単には斬れなかった。
「嘘だろ…」
虎は彼の刀を口でくわえ、自身が斬られるのを阻止した。
そのまま黒崎龍平から刀を奪い取り、自身の身体を突進させてきた。
「やべぇ…」
力を流しきれず、そのまま壁に叩き付けられた。
そこから立ち上がるまでに時間はそれほど要さなかった。
叩き付けられ、その衝撃になれるまでに3秒そして起き上がるのに2秒、合計5秒程で復帰出来たが、その間に虎は消滅していた。
中条あゆなの方に向かってきた虎に対し彼女はこんなことを思っていた。
「どうやって殺そうかな…よし!決めた…
<雪よ、巨大なる手となり彼の猛獣を殴れ>」
彼女の身の回りの雪は巨大な手を形成した。
そのまま巨体な手は、虎に向かって拳を放った。
衝撃に耐えきれず虎は消滅した。
次の瞬間、黒崎龍平は壁に叩き付けられた。
「しょうがないな…
<雪よ、握り潰せ>」
巨体な手はもう一頭の虎に向かい、虎を捕まえ握り潰した。
「へぇ~結構強いな…俺も少し本気を出そうかな」
吉野裕介は感心していた。
自分の作った虎をこんなに早く潰されたのは初めてだったからだ。
「<我が熱よ、焔となり拳に纏え>」
吉野裕介の拳の周りは焔で覆われ始めた。
「さてと、先にあゆなちゃんからかな…」
前もって作っていた翼を使い、一気に中条あゆなとの距離を詰め彼女の腹部を殴ろうとしたが。
「私に触らないで…」
吉野裕介は雪の塊のような物を頭部に当てられ、その衝撃に耐えきれずふっとんでしまった。
「あゆな…?おい!大丈夫か!」
中条あゆなは段々と様子がおかしくなっていった。
まず彼女の身の回りの雪の量が徐々に増え最終的にこの空間全てを覆い尽くす程までになった。
更に彼女の髪が段々と雪のように白くなっていったのだ。彼女の肌もそれに反応して段々と白さを増していった。
「兄を殺す…じゃないとみんなが…みんなが!」
突如叫びだし、渦巻く雪の速さが上がっていった。
「これはヤバイね…」
吉野裕介は焦り始めた。
黒崎龍平達の試験会場の今の気温はマイナス10度に達していた。
この季節なら有り得ない気温だ。
吐く息が白くなり始めた。
手足が震える。
「兄を殺すために…試験に合格しなくちゃね…」
辛うじてある意識を取り戻し、中条あゆなは渦巻く雪を止めた。
それのせいで辺り一面雪に覆われた。
「さぁ~てと、手っ取り早く皆殺しちゃえ…
<雪よ、彼の者達を封じ込めろ>」
すると黒崎龍平と吉野裕介の足元の雪が、身体にまとわりついてきた。
「嘘だろ…おい…あゆな!」
黒崎龍平は彼女の意識が正常なのかを確認した。
「あはははははははは…さっさと殺さなきゃね
あの人でなしの兄を…」
どうやら彼女の意識はないらしい。
恐らく彼女が本当の能力を使わなかった理由がこれなのだ。
彼女の能力は強い反面、使いすぎると暴走するというリスクを抱えているのだ。
「龍平君…試験どころじゃないから。今から彼女を止めるよ」
「どうやってですか?」
「分からない…とりあえず俺の能力で君の刀に火を纏わせるから何とかしよう!」
最終的に丸投げされた。
だが、確かに今のところそうするしかないのは目に見えている。
「分かりました…彼女を正常に戻します」
そして黒崎龍平の刀に火が纏わり始めた。




