第3章 12話 『試験開始』
その日の夜…
黒崎龍平は夢の中で鬼と対話していた。
『よぉ…何でよばれたか分かってるよな…』
何もない真っ白な世界…
そこに自分の意識と黒い靄、あの日と同じ光景。
でも、今の自分にはあの日と同じ憎悪がなかった。
「俺の中に憎悪がないからだろ…」
薄々は気づいていた。
自分の中から殺意と憎悪が無くなっていくことに、けれどそれは止めようがなかった。
『そうだよ…河村櫻子のせいでお前は腑抜けたんだよ…』
「そうか…」
嬉しいような嬉しくないような複雑な気分だった。
『今のお前だと目的を果たすどころか師団の誰かに殺されて終わりだ…』
そんな腑抜けた自分を鬼は赦してはくれなかった。
「どうしたらいいんだ…」
藁の代わりに鬼にすがることにした。
『櫻子を殺せ…そうしたらこの世への未練が葵の復讐しかなくなるからな』
「それは出来ない…」
『まぁいい…お前このままだと…もう一人の奴に乗っ取られるぞ…』
するととても黒く不気味な腕が自身の身体にまとわりついてきた。
「何だ…これは」
そのまま腕は自身の身体の中に入ってきた。
自分の大切な何かを犯すために…
その事に気づいたとき彼の眼は片方が赤く、もう片方が紫になっていた…
「やらせねぇよ…」
すぐさま腕を掴んで自身の身体から引っこ抜いた。
「<消えろ…>」
すると腕はすぐさま消滅した。
『さてと…黒崎龍平今からお前には夢の中で特訓をしてもらう…俺とお前の願いの為に…』
そして鬼との特訓は始まった。
朝を迎えた。
黒崎龍平は身体を起こすと、自分の中にある力を感じていた。
「これなら…」
昨日よりも強い憎悪がみなぎっていた。
「さてと、学校に行くか…」
そのまま準備を済ませ、学校に行くことにした。
時は流れ、遂に試験日になった。
黒崎龍平は学校からすぐに基地に向かった。
基地に着くと、既に何人かは訓練場でペアとの最終確認を済ませていた。
「おはよう龍平!今日は頑張ろう!」
後ろから中条あゆなが元気に挨拶をしてきた。
「そうだな…俺たちは誰と闘うんだろうな…」
すると清水遥が現れ全体に向け、話しだした。
『こんにちは皆さん…今から~試験会場に案内しまぁ~すねぇ~』
そう言った後、10人程の名前を呼んだ。
その中には黒崎龍平と中条あゆな、そして水本早苗と雪村進一の名前があった。
『この10人はAグループです。それでは行きますよぉ~』
幾つかのグループに分けて試験を行うらしい。
歩いている途中に水本早苗と話しをした。
「なぁ水本…もしかしかしてさお前のペアってさ」
「そのもしかしてよ…私のペアは雪村進一…もう最悪よ」
そんな会話をしていると雪村進一は会話に加わってきた。
「酷いな早苗ちゃんは…僕が君の命を助けたことだってあるのになぁー」
耳が痛いな…黒崎龍平と水本早苗は耳に触れながらそう思った。
そんな無駄話をしていると試験会場に着いていた。
目の前には5つの扉があった。
「さてと皆さんには試験の説明をしますねぇ~
この扉を入ってからぁ~少ししたらサッカーコートの半分ぐらいのぉ~場所があるんですよぉ~そこで試験官と闘ってくだぁ~さい」
分かりにくい説明だが、一応は理解した。
「それでは好きなところに入ってくださぁ~い。それが皆さんの運命を分ける扉ですから…」
最後だけは真剣な表情でそう言った。
俺たちは最後に余った扉を選ぶことにした。
理由は余り物には福があるからだ。
そして、それぞれが扉の前に立ったところで扉は静かにゆっくりと開いた。
「それでは試験開始でぇ~すよぉ~」
その合図とともに俺たちは扉の中へと入っていった。




