第2章 21話 『選択と本心』
月影雅義は笑いながらこう言った。
「彼女達の首に爆弾を着けた。解除したいならこの赤いボタンを押せばいい。だが、押したらこの学校に仕掛けている爆弾が作動する。
そうだな…破壊の規模は恐らく校舎が粉々になるほどの威力だ」
「てめぇ!、今すぐ両方解除しやがれ!」
黒崎龍平は激怒した。自分達ならまだしも無関係の櫻子やその他の生徒達にまで危害を加える。
そのことに彼は怒りがこみ上げてきた。
「無理だよ、この爆弾は能力で作った物だからね、解除は能力者しか出来ない。
もっともこの能力者は既に死んでいるがな」
そう言われた。つまり…
「どちらかを選ぶしかねぇのかよ!」
「そうなるね、因みに彼女達の解除ボタンを押さなかったら校舎に着けてある爆弾は起動しないよ。でも、彼女達の爆弾は起動するからね。
破壊の規模は大体首から上が吹っ飛ぶ程度だよ」
「あと何分だ?」
「あと、10分…、最後の時間を楽しみたまえ。校舎には200人の生存者がいるからね」
最後の説明を聞くと、黒崎龍平は舞台の方へと走り出した。
一方、吉野裕介は…
「なるほど…そりゃ結構ヤバイな…」
彼は説明を聞いて少し焦っていた。
自分なら恐らく200人を助ける。その方が助かる人の数が多いから。
だが…
「龍平君は少し甘いからな…」
そう彼は危惧していた。
『余所見をしないでくださいよ。
<影よ、蛇となり彼の者に絡みつけ>』
するとその人物の影は蛇となり自分の方へと向かってきた。
「鬱陶しいな…
<熱よ、我が拳に焔を纏わせろ>」
そして、吉野裕介の拳の周りが発火し焔となり彼の拳に纏われた。
「これで終わりにするよ…」
吉野裕介は走り出し、影の蛇に向かって自分の拳を当てた。すると影は拳の焔が移り燃え始めた。
他の影にも同様、自分の拳を当て消滅させた。
そのまま、影を操っていた人物の鬼のお面に拳を入れようとしたが。
『やれやれ…、強すぎますよ』
その人物は影の中に入り姿を消してしまった。
「ズルいな…」
天井を見上げて吉野裕介はそう言った。
黒崎龍平は悩んでいた。
「櫻子…」
彼女達にどんな言葉をかければいいのか。
それが分からなかった。
すると、
「龍平…こんなの迷うことなんてないよ…さっき水本さんと話したんだけどさ。
龍平、解除ボタンは押さないで」
それが彼女達の答えだった。
「それで…いいのかよ…」
「うん…いいよ…」
言葉が見つからない…
「水本も…それでいいのか…」
「別にいいよ…黒鬼を殺す役目は君に譲るよ」
すると、河村櫻子は話し出した。
「ねぇ龍平…、時間あとどのくらいあるの?」
「あと…8分…」
「そっか…、じゃあ少しだけ昔話でもする?」
彼女は相変わらずの笑顔だった。
こんな時ぐらい泣いたり怒ったりすればいいのに…
「そうだな…そうするか…」
彼らは昔のことを少し話した。
そして3分過ぎた。
残り時間はあと5分…
「なぁ櫻子…」
「どうしたの…」
恐らく彼女は分かっているのだと思う。
これから自分が言うことを…
「やっぱり俺…お前らを選ぶよ…」
「ダメだよ…私たちのせいで200人死ぬのはダメだよ」
「俺にとって…顔も名前も知らない200人はどうでもいいんだよ…」
「どうでもよくないよ…ちゃんと…200人を選んでよ…」
彼女から少し怒りの色が見えた。
「葵が死んで…その上…お前まで死んじまったらどうすりゃいいんだよ…」
「龍平なら…大丈夫だよ…」
「大丈夫何かじゃねぇよ!、お前には生きててほしいんだよ!」
「何でよ!、何で私たちを選ぶのよ!200人の命を救いなよ!」
初めて彼女が怒っているところを見た。
今はそんなことはどうでもいい。
「いい加減、良い子ちゃんぶるのはやめろよ!
お前の本心を言えよ!」
「これが私の本心よ!」
「嘘ついてんじゃねぇよ!、お前が嘘ついてることぐらい分かるんだよ!」
「うるさい!!、このバカ!」
「バカはお前だろ!」
それぞれの本音がぶつかり合った。
「お前はいっつも人優先じゃねぇか、こんな時ぐらい素直になれよ。誰もお前を責めたりしないよ」
「龍平だって、いっつも葵優先だったじゃない」
「それとこれとは関係ねぇよ!」
「とにかく、ボタンは押しちゃだめ!」
「絶対に押してやる!お前が本心言わねぇかぎりな」
すると櫻子は少し黙ってしまった。
両目の涙を堪えながら。
「じゃあ…今から本心叫ぶから…」
そして彼女は息を吸って、話し出した。
「私だって…生きたい!、こんなところで死にたくない!」
更に彼女は続けてこう言った。
「だって…私…龍平のことが…好きだから…。
葵が死んだとき…私…最低だけど少しだけ喜んじゃった。これで龍平は私の物だって。最低だよね…こんな女の子…でも龍平は葵のために闘うことを選んだから…結局私は…葵に勝てない…」
櫻子は堪えていた涙を流していた。
「これが…私の本心だよ…」
「だったらなおさらボタンを押してやる!」
黒崎龍平は突然の告白で驚いていたが、彼の答えは変わらなかった。
「なっ…約束と違う!」
「じゃあお前は、俺の返事が聞きたくないのかよ!」
「そ…それはずるい!、だったら今聞かせてよ!」
「絶対に嫌だね…とにかく俺はボタンを押す!」
「やめてよ!、私…龍平の前ぐらい良い子で可愛らしい女の子にならしてよ…」
「既に本心ぶちまけてる時点で良い子は無理だよ諦めろ!」
「あなたが強要してきたのに!」
そんな言い合いを続けていたせいもあり、
残り時間は30秒程だった。
「本当にボタンを押すの?」
「押すよ…」
黒崎龍平の決意は既に揺るがぬ物となっていた。
「分かったよ…その代わり龍平が背負う罪は私が背負うよ…」
そして残り時間があと10秒となっていた
10…9…8…7…6…
「名前も知らない200人のみんなごめんな」
「私たちのせいで…本当にごめんなさい」
5…4…3…2…1…
そして彼らはボタンを押した。




