第2章 17話 『ラスボス』
吉野裕介達が闘う少し前…
「それで?、この男はどうするの?」
雪村進一と別れた後、黒崎龍平と水本早苗はこのことについて話し合っていた。
「捕まえて、情報を聞き出す」
それが彼の答えだった。
だが…
「私は捕まるつもりはありませんよ。ですが黒崎龍平君、貴方には命を救ってもらった御恩がありますが故に一つだけ情報を差し上げましょう」
志村は冷静な口調でそう言った。
「貴方のクラスに戻りなさい…私にはそれしか言えません」
意味がわからなかった。この男はそう言って俺たちが離れた隙に逃げようと思っているのだろうか。
「ふざけないで、貴方の言うことを信じるとでも?」
水本早苗は怒りを滲ませていた。
だが、黒崎龍平は違っていた。
「おい…、志村…お前まさか…」
彼の頭の中にはある光景が浮かんでいた。
その光景は…
「龍平君、答えを言っておこう…私ではない…」
その言葉を聞くと、黒崎龍平は自分のクラスに向かって走り出した。
それを見ていた水本早苗は少し混乱していた。
「どうゆうこと?」
「彼が想像した光景がもしそうだとしたら…」
志村は意味深なことを水本早苗の耳に残した。
するとそこに一つの人影が見えた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、志村さぁ~んこれは一体どうゆうことですかぁぁぁぁ!」
そこには日本刀を持った。狂気の塊とも言える男
月影雅義が立っていた。
黒崎龍平は走っていた。
自分の限界を越えてひたすらに自分のいた場所に、もし仮に志村の言っていたことが自分が連想したあの光景だとしたら…
彼は更に急いだ。
そして彼は教室の扉の前に立った。
手が震えている。それでも自分は扉を開けなければならない…
彼は扉を開いた。
そこには…
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
そこには先ほどまで生きていた。クラスメイトの死体が幾つも転がっていた。
ある死体は四肢がバラバラにされもはや人としての形も保てておらず。
ある死体は目を切り裂かれていた。
それらは全て男の死体だった。
そして女の死体を見ると…
あるものは衣服を剥ぎ取られ、純潔の体を汚され。
また、あるものは裸でまるで十字架にくくりつけられているかの如く、黒板に体が打ち付けられていた。左腕に刀、右腕に槍、そして脚には斧といった物で打ち付けられていた。
更にその女子の首から上は教卓の上にのっていた。その女子の顔から悲惨な最後であったことが証明された。
きっと彼女達は酷い辱しめを受け、殺されたのだろう…
まだ若く、美しいその身を理不尽な者共により汚され泣きわめいても命乞いをしても誰も助けなかった…
「俺が…敵を取ってやるよ…、絶対に赦さねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
叫んでいると、死体から魂のようなものが出てきた。それはみるみるうちに人の形になった。
それらの魂はクラスメイトの姿形となり黒崎龍平の前に立った。
「みん…な…」
『どうして…助けてくれなかったの?』
それらの魂は自分を責めるために具現化したのだと黒崎龍平は自覚した。
『どうして…来てくれなかったの?』
『何でお前は俺たちを見殺しにしたんだ?、俺たちは友達だったのに…』
『みんな…貴方のことを信じて信じて待っていたのに貴方は来なかった。犯されていた女子達も貴方のことを最後まで信じていたのに…』
『何でお前が生きているんだ?、お前のせいでみんな死んだのに…お前が死ねばよかったのに』
魂は皆、黒崎龍平のことを責めた。
「すま…ない…、俺がもっと速く来ていたら」
だが、その謝罪は彼らの耳には届かなかった。
『最低だよ…お前…、死ねよ』
それを合図に彼らの魂が、連呼しだした。
『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…』
黒崎龍平の心は壊れかけていた。
もし仮にこれが本当にあったことなら…
「いい加減にしろよ…もうわかってんだよ…この光景が幻影ってことがな!」
そして彼は、
「<我が鬼よ、我が肉体に宿れ>」
彼はクラスメイト達の魂を切り裂いた。
するとその光景にヒビが入りみるみるうちに壊れていった。
音をたてて壊れていく光景、そして本当の光景が現れた。
そこには、ロープで体を縛られているクラスメイト達の姿があった。口にはガムテープがつけられており、言葉を発することができない。
だから、彼らはこの事を言えなかったのだ。
そして教室の真ん中に男が立っていた。
「俺の幻影を解くなんてお前が始めてだよ黒崎龍平」
その男は小型のナイフを持っており、そのナイフにはまだ血が一滴も付いていなかった。
「お前…何者だ?」
その男はこう答えた。
「黒月組のリーダー月影雅人と言えば分かるか?」
それだけで彼が何のためにここにいるのかが分かってしまった。
「俺を殺しに来たのか?」
「嫌、お前を殺すのは俺じゃなく弟だよ」
「じゃあ何で幻影を見せた…多分あの幻影で俺が自殺するのを待ってたんだろ?」
「どうだろうな?、まぁいい…」
そして月影雅人はその教室から姿を消した。
本当なら追って殺したいところだが、クラスメイトの安否の方が大切だと判断したため追うことは止めた。
クラスメイト一人一人のロープを切っていった。
彼らは皆、怯えており体を震わせているものもいた。
「みんな、遅れてごめん…」
彼らのロープを切り終えると黒崎龍平は謝罪をした。
「いいよ…、でもさ龍平…お前にはクラスから言わなきゃいけないことがある」
「何だ?」
すると彼らは重々しく口を開いた。
「櫻子ちゃんがあいつらにさらわれた…」
「どうゆうことだ…」
「あいつらのリーダー?みたいな奴がさっき俺たちのところに来て、櫻子ちゃんをさらったんだ」
そして彼らは詳細を語ってくれた。
河村櫻子は月影雅義にこう言われたらしい、
『貴方が私の言うことに従わないと彼らの命は保障しませんよ』
そして櫻子は連れていかれた。
恐らく…
「俺を誘うためのエサとしてか…」
すると、校舎内に放送が流れ出した。
『初めまして、黒崎龍平君』
この日、最大の闘いが始まろうとしていた。




