第2章 16話 『傍観者達の闘い』
男の首を切断し終えると雪村進一はその首を持ち、笑顔で歩いてきた。
「はいこれ、お土産」
と手に持っていた首を渡そうとしてきた。
「いらない…、それよりお前の能力…まさか大地を操る能力か?」
少し驚きながら黒崎龍平は聞いた。
「う~ん少し違うけど大体そんな感じだよ」
「ふ~ん、あなたこんな凄い能力持ってたのに何で遅れたの?」
不満があるのか、水本早苗の口調は少し苛立っていた。
「ごめんよ。道に迷ってさ、もう一人が方向音痴で変なところに行っちゃたんだよ」
「もう一人いるのか?」
「いるけど、ここに来てないってことは別のところで闘ってると思うよ」
すると志村は怯えながら聞いてきた。
「お前さん、もしかしてあの…」
「僕がどうかしたの?お爺さん、そうだ!忘れるところだったよ。お爺さんを殺すのを」
すると彼は刀を抜いた。そして志村に向け、
「バイバイ…」
刀を振りかざし志村の体を切り裂いた…
と思われたが、間一髪黒崎龍平の刀がそれを阻止した。
「何で止めるの?」
雪村進一は少し苛立っていた。
いつも笑顔だった彼の顔は冷酷な殺人者の顔となっていた。
「これ以上、無駄な死者を出すな。彼はもう降参している」
「ふ~ん、案外優しいんだね…」
そう言うと、彼は刀を鞘に納めた。
「まぁいいよ…いつかそれが仇とならなきゃいいけど…」
そして彼は、残党を殺すと言ってその場を後にした。
その光景を見ていた三つの人影があった。
『あ~あ、まさか黒崎龍平じゃなく雪村進一が殺すとはね、彼には拍子抜けしたよ』
黒い法衣を着ていた人物は少し残念そうに言った。
『そうですね。ですがまぁよろしいのでは雪村進一は死を司る神。死神なんですから…』
もう一人の人物は納得したかのように頷いた。
『そうだね…彼は死神だもんね。まぁいい黒崎龍平の実力は後で分かるからね…』
すると、最後の人影が話しに入ってきた。
「あのさぁ~そろそろ闘いたいんだけど」
イキイキしながらそう言い放った。
『そうだね、僕も君とは闘ってみたいと思ってたんだよ。吉野裕介君…』
そう言われると彼は被っていたフードを取り顔をさらけ出した。
その顔はとても穏やかで整っており、見る人全てに安らぎを与えるそんな顔だった。身長は180㎝程の長身だった。髪は前髪の長さを均等にしており、はっきりと目が見える。全体的に見るとそんなに長くはなく、長くても首の半分程だった。
「あ~あ、やっぱり俺のこと知ってるんだ…」
『当たり前だよ。君はあの赤城隼人よりも強いんだろ?』
するともう一人の人物が驚いたような仕草を見せた。
「まぁ~そうなるかな。俺の順位ってあいつよりも高いからな」
そして彼は拳を構えた。
「さてと、お前らは今から俺が灰にしてやるよ」
先ほどまでの穏やかな口調ではなくなっていた。
『やれやれ…君は恐ろしいなぁ~普通黒鬼十師団が二人もいたら逃げると思うけどなぁ』
「関係ないよ。さてとどっちから灰になりたい?」
すると二人は、
『僕の能力だと相性悪いからな彼と、ここは影君に任せるよ』
『分かりました。それではあの任務を為し遂げてください』
そして一人がビルの屋上から学校に向かって飛び降りた。
それを追いかけるように、飛ぼうとしたが急に体が動かなくなった。
「な…何で?、体が急に…」
吉野裕介は自分の体の足元を見た、するとその光景は広がっていた。
影君と呼ばれていた人物の影から自分の影を捕まえるかのように四本の手が伸びていた。
「お前の能力は…」
『私の能力は自分の影を操る能力だ…、さてと吉野裕介。お前には悪いがさっさと死んでもらおう』
すると彼の影の一部分が尖っていった。
恐らくあれに刺さると自分は死んでしまうなと直感的に感じ取った吉野裕介は能力を使うことにした。
「やれやれ…めんどくさいな…
<熱よ、鳥となり大空を駆けよ>」
すると吉野裕介の正面から突然、鳥の形をした火の塊が現れた。そしてその鳥が自分の所へ突っ込んできた。
すぐさま、吉野裕介を縛っていた影を自分のところに戻し、それを使って防御した。
『この能力は…まさか!貴方の能力は…』
「俺の能力は熱を操る能力だよ。俺の回りの熱を操って発火さしたんだよ」
すると吉野裕介の回りには多数の火の鳥が翔んでいた。
「さてと、降参するなら今のうちだぞ」
『やれやれ、めんどくさいな』
吉野裕介は指を鳴らし、
「<鳥よ、彼のものを燃やせ>」
そしてその人物の方に多数の火の鳥が襲いかかってきた。
『<我が影よ、虎となり地を駆けろ>』
すると彼の影は虎のようなものとなりこの地上に現れ、多数の火の鳥を噛み砕いた。
「なるほどね、そう簡単にはいかないよね
<熱よ、竜となり彼の虎を仕留めよ>」
今度は竜となり虎を襲った。
『これは流石に無理ですね…』
すると彼は虎に股がりビルから飛び降りた。
「逃がさないよ
<熱よ、我が肉体に大空を駆ける翼を与えよ>」
吉野裕介の背中から火で出来た翼が生えてきた。
そしてそのまま追いかけようとしたが、
「あ~あ、やられた」
するとそこには既に人影がなかった。恐らく奴の能力は他の影の中に入れるのだろう。それのせいなのか奴はビルの影に身を潜め姿を消した。
「しょうがない、急いで後輩君達の学校に向かおう」
吉野裕介は学校に向かうことにした。
それと同時刻、学校の体育館で黒崎龍平は地に伏せていた。




