第2章 15話 『味方』
最悪、それは字の如く最も悪いと言う。黒崎龍平の人生において最悪の日は中学校の卒業式の日。
坂本葵が死んだ日だ。そして今、彼は最悪の状況に陥っている。
「爺さん、こんなガキにやられるなんてさちょっと詰めが甘いじゃねぇーの」
その男は志村よりも一回り若く、筋肉質の身体には至るところに傷が刻まれており。彼の人生がどのようなものだったのか想像できた。
「私も歳なんだよ。少しは労ってくれ」
志村は少し笑いながらそう言うと、
「どこがだよ。まぁいい、とにかくあのガキを殺せばいいんだろ?」
「まぁそうなるな」
そして男は人差し指を黒崎龍平に向け、
「んじゃ、さっさと殺してやるよ。
<剣よ、彼の者を穿て>」
すると、剣の破片が黒崎龍平に向かって突き刺さろうとしてきた。間一髪それを避けたが、
「無駄だよ、もう一つあるからな」
もう一つの破片が黒崎龍平の腹部に突き刺さった。
「はぁ…はぁ…、ヤバいぞこれは目が…」
彼は焦っていた。血を失い過ぎたのか少しばかり体がふらつく、さらに眼まで霞んできた。
このままでは死んでしまう。鬼の力も失った血はそう簡単には修復できないらしい。
「粘るねぇーまぁ無意味だがな」
その瞬間、無数の剣の破片が襲いかかってきた。
四方八方からとてつもない速度で自分の方に向かってくる。さすがに捌ききれないので致命傷になりそうな物だけを防ぎ、あとは全て体を貫通した。貫通したところから血が流れ、更に体がふらつく。正直立っているだけでも辛い。
「冥土の土産に俺の能力を教えてやるよ。俺の能力は触れたモノを自由自在に操れるんだ。移動速度を最高速にした剣で楽に死なせてやるよ。
<剣よ、彼の者を穿て>」
先程よりも速い剣が向かってくる。だが、黒崎龍平は刀を鞘に納めた。諦めたからではない。
自分が闘う必要が無くなったからだ。
「遅いよ、どんだけ待たせんだよ…」
すると自分に襲いかかってきた剣の破片が全て斬り落とされていた。
「ごめんごめん、遅くなちゃったよ。道に迷ってさ」
そこには、白色の髪をしている美少年雪村進一が立っていた。
「で、これはどうゆう状況?、まぁ見た感じ龍平君と早苗ちゃんが殺されかけてるってことは分かるけど…」
「黒月組が俺を殺すために学校を襲ってきたんだよ」
それからことごまかなことを説明した。
「なるほどね。事情は分かったよ、とりあえずあの二人を殺せばいいんだね?」
笑顔で彼はそう言った。少し恐ろしいが今は気にしないことにした。
「そうゆうことだ。頼むぞ雪村、正直立ってるだけでも辛いから」
「オッケー、じゃあ前のお詫びを兼ねて彼らを始末してやるよ」
そして雪村進一は歩きだした。
「へぇー、俺たちを始末するんだとよ、なぁ爺さん笑っちまうよな」
男は少し笑っていたが志村の表情は青ざめていた。
「若僧…大人しく撤退するぞ…」
「は?、何でだよ!もしかしてあいつが恐いのか?」
「お前はあの小僧の鬼の波動を感じないのか?とてつもない程強大で…禍々しい…」
志村は少し脅えていた。
「爺さんもボケちまったな…、まぁいい…あのガキは俺が殺してやるよ。
<剣よ、彼の者を穿て>」
そして雪村進一に無数の破片が襲いかかろうとしてきたが、彼は笑っていた。
「この程度で僕を殺すつもり?、拍子抜けしたよ…
<大地よ、我が身を護れ>」
すると彼の回りの壁が彼を護るように彼に覆い被さった。そのお陰で雪村進一には傷がつかなかった。
「さてと…次は僕の番だね…」
そして彼は男に向かって走り出した。
「なんだ…あのガキ!、もういい…
<剣よ、彼の者を穿て>」
最高速で迫ってきたが、それでも雪村進一は笑顔を崩さなかった。
彼は手に持っていた刀を一振りし、破片を更に粉々にした。
「な…嘘だろ…」
男はかなり驚愕していた。
その光景を見ると男はすぐに雪村進一に背を向け走り出した。
「逃がさないよ…」
雪村進一は地面から無数の手を造り、男に放った。その手が男を掴むと雪村進一は歩きだした。
「さてと…、最後に言い残すことある?」
相変わらずの笑顔だった。
「頼む…殺さないでくれ…」
男は少し涙を滲ませていた。
恐らく人生初の命乞いだ。だが、雪村進一は
「嫌だね…僕は人を殺すのが好きなんだよ。僕の楽しみを奪わないでくれよ…」
その言葉を言い終えると、
雪村進一は手に持っていた刀を男の首元に向け、
「じゃあね…バイバイ…」
それが男が聞いた人生最後の言葉だった。




