第2章 1話 『入学式』
4月7日、今日は黒崎龍平の通う高等学校の入学式の日だ。
この日まで龍平は何もしていなかった…
救えなかったあの日の光景を何度も何度も夢の中で繰り返していた。
夜は眠れず、日に日に黒鬼への怒りと憎悪が増していた。
この日、龍平の家には河村櫻子が来ていた。
「おはよう龍平!」
彼女は相変わらず元気そうに見えた。
「おはよう櫻子…」
少し無愛想な返事をしてしまった…
櫻子はあの日のことを知らない、だから俺の痛みを知らないのだ。
「ねぇ龍平…、やっぱりあの日…何かあったんだよね?」
とても真剣な眼差しだった。
一点の曇りもなく、透き通るような目を向けられていた。
「何でもない…」
だが、その目から逃げることを選んでしまった…
理由は色々ある。
例えば、この闘いに巻き込みたくない。
真実を知られたくない。などだ。
一番の理由は後者だ。単純に自分の恥と情けないところを見せたくない男特有の意地だった…
そこから櫻子は何も聞いてこなかった。
そして彼らは学校へ向かった。
彼らの通う学校は歩いて20分程かかる場所に建っていた。
彼らは無言で歩いていた…
口に出してしまうと何かが壊れてしまいそうな気がしたからだ。
学校に着くと、二人は自分のクラスを確認した。
二人は同じクラスだった。
4階建ての学校の4階まで階段で上がり、教室の場所を確かめ指定された席に座った。
数分後、体育館で行われる入学式が始まった。
校長の長話を聞き、どうでもいい来賓紹介を終え入学式は終わった。
教室に戻り、担任の挨拶と行事の説明を聞いていた。
「ねぇねぇ…黒崎君?、あってるかな?」
後ろから声がしたので振り替えると、その声の主は驚いていた。
「あってんだ!、よろしくね黒崎君、私の名前は
小林彩。一年間仲良くしてね」
「よろしく…」
それだけしか返さなかった。
どうせ仲良くなることもない…
なぜなら彼は高校では友達を作ることを考えていなかったからだ。
しばらくして担任の話も終わり、彼は帰ろうとしていた。
「待って!、龍平!」
そう叫ぶ櫻子に彼は止められた。
「ねぇ…、何でそんな冷たいの?、やっぱり何かあったんでしょ?。話してよ龍平!」
やっぱり女は恐ろしい…
そんなくだらないことが思いついてしまった。
「何でもねぇよ、早く帰ろうぜ」
話を終わらせようとしたが、それを彼女は許してはくれなかった。
「嘘だよ…、おかしい!。葵が死んでから龍平はおかしいよ…、それに!、最近家に行ってもいない…。龍平は何か知ってるでしょ!。葵が死んだ本当の理由。お願い教えて…」
今にも消えそうな声だった。
それとたくさんの涙が彼女の目から流れていた。
ずっと心配してくれていたのだろうか…
そんな彼女の想いを踏みにじってまで俺は…
人殺しになるのだ…
しばらくしてから俺は、本当のことを話した。
あの日に起こったこと、そして黒鬼や鬼の力のことも。何もかもを話した。
「そんなことがあったんだね…」
彼女は泣いていた。
友達の本当の死の理由を知り、悲しんでいた。
そして二人はゆっくりと家に向かった。




