第4章49話『目覚めた後で』
また、夢を見ていた。
辺り一面に咲き誇る美しい花、そしてそれを軽く凌駕する少女の容姿に龍平は見とれていた。
龍平が見とれていると、少女はこちらに近付いてきた。
「久しぶりだね、今の状態の龍平に会うのは」
今回は先ほどとは違い、声を発することが出来たので彼は彼女との会話を始めた。
「あの…貴方は一体何者ですか?」
本当は、心の奥底では彼女が何者かは分かっていた。だが、自身の答えが合っているか定かではなかった。
すると、少女は少し困った様な感じを出していた。
前回同様、顔は曇っており、表情は判別出来なかったが、彼女が困っていることはすぐに理解した。
「私は二階堂有栖、そっか、君にとって私と会うのは初めてなんだね」
二階堂有栖…
その名を聞いたとき、どこか懐かしくもなり、そして悲しくもなった。
それが何故なのかは分からなかった。
「俺は、貴方と前に会ったことがあるんですか?」
「勿論だよ、でも酷いなぁ~こんな美少女を忘れるなんて、言っとくけど、人に忘れられたの今回が初めてだから!」
「ご、ごめんなさい」
「素直に謝ったから許しましょう。と言っても君が私を忘れるのも無理ないか」
彼女はため息をつき、少し哀しげな表情を浮かべていた。
その時だった、龍平達がいる空間に少しずつひびが入り始めたのは。
「こ、これは…」
その事に龍平は困惑していたが、二階堂有栖は動じてはいなかった。
「そろそろ時間みたいだね、さて、龍平、私を忘れた罰として君にお願いしたいことがあるの」
「何でしょうか?」
「巫女を護って」
最後にその言葉を残し、龍平の目の前から何もかもが消えた。
8月7日午後9時32分
「あ!、龍平!、ようやく起きた!」
龍平はゆっくりと眼を開くと、そこには櫻子の顔がすぐ近くにあった。
「さ、櫻子か、悪い…急に倒れちまって」
「別にいいよ…龍平が無事ならね」
だが、龍平には自分が何故倒れたのかの記憶がなかった。最後に覚えているのは黒鬼十師団の二番である、ミゼルを退けたところまでだ。
いや、そもそもミゼルを退けた理由を覚えていない。
「そ、そうか、それはそうとさ俺、もしかして膝枕されてる感じか?」
龍平からは櫻子の顔は反対向きに映っており、更に後頭部に柔らかい物を感じており、恐らく太ももの上に頭を乗せられてるのだろう。
「その通りだよ、龍平全然起きないから、心優しい私が固い地べたは可哀想だなって思ったから膝枕してあげてるの」
そう言いながら彼女は少し笑っていた。
本当ならもう少し堪能したいところもあるが、時折、爆破の音や、何かを壊したような音が至るところから聞こえるので、どうやら闘いはまだ終わってはいなかった。
急いで龍平は立ち上がると、エリアEへの入口へと向かった。
「櫻子…ありがとな」
「別にいいよ…その代わり、終わったらステーキ奢ってもらうから」
最後にとんでもない約束をさせられ、龍平達はエリアEへと向かった。
場面は美鈴たちへと戻る。
北村は、至るところを膨張させ破裂、膨張させ破裂と自身の肉体で数回それを繰り返していた。
普通の人間なら死ぬであろうその行いを数回繰り返し、彼は嗤っていた。
そして、膨張と破裂をし終えると北村の姿は変わっていた。
「嘘でしょ…そんなの有り得ない…」
最初にそう言ったのは美鈴だった。
そして次に同じ様なことを言ったのは三原飛鳥だった。
「これはどう見ても若返ってるとしか思えないね」
全員が思っていることを代表して言ったのは吉野裕介だった。
「やっぱり、肉体が若い方が動きやすくていい。それに殺しあいはお互いが全力を出すから楽しいしな」
北村の顔は十代後半程の若々しい顔になっており、大柄の筋肉質ではなく、少し小柄になっていた。
「さて、俺の身体に傷をつけてくれたそこの女から殺してやるよ」
北村は三原飛鳥の元まで走り出した。
彼女は既に能力を発動しており、敵を迎え撃つつもりでいた。
「みーちゃん、そろそろ選手交代だ」
それを聞いた、北村の動きは止まった。
「もしかして、俺の相手はお前になるのか?、吉野裕介」
「あぁ、年寄りを痛め付けるのは嫌だったけどお前みたいな若いやつなら痛め付けても俺の良心は痛まないからな」
「そうか、それは楽しそうな勝負になりそうだが、生憎別の仕事が入ってしまってな、今から向かわねばならない、この勝負は御預けだ」
北村は懐から煙玉を出し、床に叩きつけ、煙を辺り一面に放ち、姿を消した。
「せっかく、やる気出したのにこれはあんまりだよ」
吉野裕介はため息をつき、そして負傷していた美鈴の事を思いだし、追跡するのは止めた。
8月7日午後9時43分
エリアEのとあるスペースにて。
その女は静かにゆっくりと歩いていた。
自分の愛した男を殺した憎い相手に向かってゆっくりと、そして一歩一歩踏みながら思い出していた。彼との思い出や彼との未来、何かもがある日突然奪われたことを、そして憎しみの炎は燃え上がっていた。
その人物までの距離は約五メートル。
敵は当然気付いていた。
『まさか、最初に貴方が来るとは…てっきり吉野裕介か黒崎龍平が来るかと思っていましたが』
「最初のお客が私じゃ不十分かな?、でも、私がお前の人生の最後の客よ!」
『それは恐いな。でも、貴方みたいな美人が相手だと嬉しいですよ』
「黒鬼…お前を殺す」
上野瀬菜は、毒のナイフを手に持ち、黒鬼の前に立った。
「刺し違えてでも、殺してやる」
あの日、奪われた全てを取り戻すため。
彼女の復讐が始まろうとしていた。




