第4章 48話 『隠れた強者』
吉野裕介はゆっくりと老人の方に歩いて行った。
「初めまして、黒鬼討伐隊の吉野裕介と言います。失礼でなければあなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
それを聞いていた、天原美鈴は驚いていた。
吉野裕介の後ろにいる三原飛鳥でさえ、この展開を読めてはいなかった。
「最近の若いもんは礼儀がなってないと聞くが、どうやらお前さんは違うみたいじゃのう、儂の名前は北村國吉じゃよ、十鬼の中で四番目に強い四鬼をやらせてもらっておる」
北村は丁寧に自己紹介をし、お辞儀をした。
そして、北村はある提案をしてきた。
「儂はのう、お前さんみたいな若いもんを殺すのは嫌なんじゃよ、じゃからのう…そこで倒れておる女を儂に差しだしてくれんかのう?、そうすればお前さん達の命を保証してやるわい」
分かりやすい脅しだった。
美鈴を出さないと皆殺しにするという、幼稚園児でも分かる脅しだった。
実際に四鬼である、北村と闘えば恐らく吉野裕介側の被害の方が大きい。
だが、吉野裕介の答えは闘うことだった。
理由を一言で言い表すなら、彼は仲間思いの理想の上司だからだ。
「今、ここで仲間を見捨てたら…俺は、彼みたいにはなれないからな…」
独り言を呟き、そして彼は決意を固め、北村に言い放った。
「悪いけど、却下だ。さすがに部下をお前の喰い物にさせるわけにいかないから」
四鬼はその答えを聞くと、直ぐ様戦闘態勢に入った。
「残念じゃよ、お前さんは少しは賢いと思っておったのじゃがのう…まぁよい、直ぐに殺してやるわい」
そのまま四鬼は、吉野裕介の方へ突進してきた。
吉野裕介は、このまま相手にするかに思えたが、彼は後ろにいる三原飛鳥の方に向いていた。
「さて、そういう訳だからさ、みーちゃん…あいつの相手頼んだよ」
「私がですか!?、吉野君じゃなくて!?」
三原飛鳥の反応は当たり前の反応だった。
あんな啖呵を切っておきながら、実際に闘うのは後ろに立っていた、少女だ。
さすがに文句の一つや二つは出てくる。
「何で私何ですか!?、普通は吉野君が闘うんじゃないですか?」
「俺は、美鈴ちゃんにあいつの能力を教えてもらわないと駄目だからさ」
「それなら、私でもいいじゃないですか」
「だって、みーちゃん語彙力ないでしょ、前も会議であったこと説明出来てなかったでしょ?」
「そ、それは…そもそも会議をサボる吉野君が悪いんでしょ!」
「とにかく、みーちゃん頼んだよ、みーちゃんの能力なら瞬殺されるのはまずないから」
そのまま吉野裕介は、美鈴の方へと向かった。
「さて、作戦会議は終わったかのう?」
どうやら、こちら側の話しが終わるまで待ってくれていたようだ。
「私があなたの相手ですよ…」
かなり落胆した様子だった。
それもそのはずだ。四鬼と三原飛鳥の実力差はかなりのもので、普通に闘ったら敗けるのは三原飛鳥だ。
だが、三原飛鳥の能力は他の者とは少し違っていた。
「そうか…お前さんも儂好みの女じゃのう…闘った後の楽しみが増えたわい」
「吉野君のアホ!、吉野君の武器勝手に使わせてもらいますからね」
彼女の両手には、クナイのようなものが一本ずつ握られていた。
「さてと、そろそろいかせてもらうぞ」
そして、四鬼は三原飛鳥へ襲いかかってきた。
「美鈴ちゃん、大丈夫か?」
美鈴の元へ吉野裕介は近付いていた。
男に乱暴されかけたので、精神的苦痛を感じてると思い少しだけ、離れていたがその心配は不要だった。
「大丈夫ですよ!、それより、あのジジイの能力について、私が見てきたことをお話しします」
そのまま美鈴は、自身のこれまでの闘いの経緯を簡潔に話した。
「以上です。この話しでも分かる通り、あのジジイは、上野瀬菜の毒を喰らっても腕が溶けなかったし、私の糸も効かなかったので、恐らく強化型だと思いますよ」
一応筋は通っている。
強化型の能力で皮膚をかなり強めに強化すれば、毒を喰らっても溶けることはない。
「いや、多分あいつの能力はそれとは、違う気がする」
吉野裕介の直感がそう告げていた。
今までなら、強化型だと思っていただろう。
黒鬼との闘いで自分の想像とは比べ物にならない能力を目の当たりにし、彼の考えは少し変わっていた。
「まぁ、大体の予想はついたし、あっちに戻るか」
「あの、一つ聞きたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
美鈴は、そう言って吉野裕介に一つ聞いた。
「どうしたの?」
「三原飛鳥さんは、何位の方何ですか?」
その事が、美鈴の中で一番の疑問だった。
少なくとも、1位から10位の中に彼女がいないのは確実だった。
「分かんないよ、彼女そもそも目立つのがあんまり好きじゃないからね。順位は多分下から数えた方が早いよ」
吉野裕介の答えは意外なものだった。
だが、それよりも美鈴が驚いていたのは…
「そ、それなのに…どうしてあの男を圧倒してるんですか!?」
そう、それは誰が見ても、四鬼の方が勝つと思われていた闘いだった。
だが、実際は三原飛鳥が四鬼を圧倒していた。
少しだけ、時間を巻き戻そう。
四鬼と三原飛鳥の闘いが始まった所から。
四鬼は、丸太のように太い腕を振り上げ三原飛鳥に殴りがかった。
「お前さんでは防げんよ」
確かに、その通りだ。
四鬼の攻撃の速度は、龍平ですら、見切るのが困難な程速かった。
だが、三原飛鳥は他とは少し違っていた。
「先に謝っておきます、痛くしてごめんなさい」
向かってくる拳を、彼女はいとも簡単に避けた。
更に、がら空きになっている、左の脇腹にクナイを突き刺した。
刺されたことに気付いたのは、三原飛鳥の姿が見えなくなってから、およそ一秒後のことだった。
「な、なぜ、儂の身体が傷を負っておるのじゃ、儂の能力なら」
「ご、ごめんなさい、背中も少し痛いですよ」
そう言われた後、四鬼の背中から血が流れ始めた。
「あ、あの一瞬で傷をつけたじゃと…」
四鬼は、かなり驚いていた。
だが、直ぐに落ち着き、再度殴りかかった。
「もう油断せんよ、これならどうじゃ!」
四鬼は、今度は両腕を使って連打し始めた。
高速のパンチが次から次へと三原飛鳥に繰り出されていたが、彼女はそれを全てかわしていた。
かわしている内に、彼女はクナイを四鬼の額に向かって投げた。
そのことに気付いた四鬼は、クナイを避けたが、その一瞬、目を離した隙に、四鬼の背後に回り、投げたクナイを手に取り背中に突き刺した。
「な、なんじゃと…あ、ありえん…こんなことが…あってたまるか!」
四鬼は、腕を背中に回し、三原飛鳥に当てようとしたが、腕が当たる寸前、身を捻り、それをかわした。
「なるほどのう、お前さんの能力が分かったわい…お前さん…儂の心を読んでおるじゃろ…じゃから儂の攻撃を避けれるのか…」
「ち、違いますよ」
三原飛鳥は否定したが、四鬼の中では既に答えは確定していた。
そして、そのまま四鬼は三原飛鳥から離れ始めた。
「何をする気なのかな」
遠巻きで見ていた美鈴と吉野裕介はそう思っていた。
数秒後、四鬼の声が聞こえた。
「お前さんの能力には、驚いたわい、じゃがのう、心が読めていても反応出来なくては無意味じゃのう。今までコケにされた分を味わえ!」
すると、石の塊のようなものが無数に投げつけられ始めた。
最初は前から、次に右から、次に後ろから、最後に左から石の塊は投げられた。
その光景を見ていた、吉野裕介は笑っていた。
「その程度でみーちゃんの能力を攻略したとは思わない方がいいよ」
石の塊を三原飛鳥は正面から来るものを幾つか捌き、更に、右から来るものも右手で捌いた。
その際、少し負傷したが、鬼化した人間ならすぐに癒えてしまう軽い負傷で済んだ。
だが、左から来るものと後ろから来るものは捌けない、四鬼はそう思っていたが、結果はそうはならなかった。
死角からやってくる石の塊も、まるでそこに来るのが分かっていたかのように避けていた。
左からやって来る物は身を反らし、右からやって来る石の塊をぶつけ幾らか減らしてから自身の手で捌いた。
「もう勘弁してくださいよ」
石の塊を捌き切った後、彼女はそう言った。
その間、彼女は多少は負傷したが、その負傷も直ぐに癒える範囲内だったので、結果は無傷だった。
その光景を見ていた、四鬼は驚きの表情だった。
「そ、そんな馬鹿な、あれを無傷じゃと…あ、ありえん…ありえん…」
遠くから見ていた美鈴も驚いていた。
吉野裕介は、微塵も驚いてはいなかった。
こうなることが既に分かっていたからだ。
「吉野さん、彼女の能力って…一体何なんですか?」
その質問を待っていたかのような表情を見せ、彼は答えた。
「彼女の能力は、自分に向かってくる人や物体の動きを感知し、更に、それに対処出来る動きをすることが出来る能力。感知と反応かな」
それが、三原飛鳥の能力だった。
更に、吉野裕介はこのことを付け加えた。
「まぁ、それだけじゃないけどね」
四鬼との闘いは終わりに近付いていったかに思われていたが、
「しょうがないわい、アレを使うしかないのう」
そして、四鬼はあるものを使った。
すると、彼の姿形は人間の物とは異なり始めた。




