第4章 47話 『人形』
その老人は、瀬菜を貫いたまま話し出した。
「全く…お前さんを殺すのは長々面倒じゃと思っておったが、意外と呆気なかったのう」
「あ、貴方は…何…者…なの…」
口から血を吹き出しながら、瀬菜は自身の胸を貫いた老人に問い掛けた。
会話が出来るだけでも彼女は、凄いのだが、更にもう1つ凄いことがあった。
「十鬼の一人じゃよ、お前さんには少し驚かされるのう、まさか、この状態で能力を使うとはの」
瀬菜は、胸を貫いている老人の腕を溶かすべく、能力を使っていたのだ。
普通の鬼化した者なら、傷の治癒か逃げるかのどちらかをするのだ。
だが、いくら瀬菜が能力を使っていても一向に腕が溶ける気配はない。
最初は、自分の能力が弱っているからだと思っていたが、それでもある程度は溶けるはずの腕が少しも溶けないことに違和感を感じていた。
「な、何で溶けないの…」
「残念じゃな、お前さんの能力は儂と相性が悪かったみたいじゃのう」
「そ、そんな…」
自分の能力が通用しない相手との遭遇は瀬菜にとっては初めてのことだった。
普通なら、能力が通用しなくとも何とかなるのだが、状況が最悪だった。
自分自身の胸を貫かれていてはどうすることも出来ない。
「安心するといい、お前さんはまだここでは殺さんよ。捕まえて『本』の在処を喋ってもらわんとな」
一瞬だけ、老人は邪悪な笑みを浮かべた。
「お断りよ、死んでも話さない…」
瀬菜は、断固拒否した。
これが、老人のイカれた性格のスイッチを押してしまった。
「36人…この数字は何の数字じゃと思う?」
瀬菜と会話を聞いている美鈴の頭に?マークが浮かんだ。
老人の答えは最悪なものだった。
「お前さんみたいな気が強くて顔立ちの整ったいい女を喰った人数じゃよ」
更に、聞くに耐えない下劣な嗤い声をあげた。
この嗤いが意味するのは、36人もの女性に性的暴行を加えたということだ。
「さ、最低ね…」
瀬菜と美鈴、二人の意見だった。
だが、老人の嗤いは止まらなかった。
「よく言われるわい、だがな、お前さんみたいな気の強い女は大抵生きてる間を屈服せんのじゃよ。だからのう、殺してから堪能するんじゃよ」
最早、人間のすることではなかった。
痛めるだけ痛め付けて殺す。
更に、殺した後で辱しめる。
その人の全てを否定する最低な行いだ。
「わ、私を…殺したら…『本』の在処は分からなくなる…」
「そんなもの、どうとでもなるわい。さて、早いとこお前さんに堪能したいからのう…」
次の瞬間、老人は瀬菜の心臓を握り潰した。
そのまま瀬菜は、身体を支える力を失い倒れてしまった。
「また儂のコレクションが増えてしまったのう」
勝利の笑みを浮かべて始めたその時だった。
死んだ瀬菜の身体にある異変が起こっていた。
エリアEにいる一人の女のポケットに入ってある携帯が震え始めた。
直ぐ様、女は携帯を取り耳に当てた。
「もしもし…どうしたの?」
『もしもし…人形が壊れちゃった。造り直そうか?』
「壊れたなら造り直そなくていいよ。それにあれ造るのめんどくさいし」
『りょうか~い、じゃあ私、安全な所に隠れるから後は頑張ってね、瀬菜ちゃん』
そして、通話は切れた。
そのまま瀬菜は、自分の目的地まで急いで向かった。
場面は、美鈴に戻る。
死体となった瀬菜の身体が突如、溶け始め、中から一人の女が出てきた。
女は、胸を貫かれており既に絶命していた。
恐らく、老人の腕によるものだろう。
だが、そんなことより、この状況の解明のほうが急務だった。
「ど、どうゆうことじゃ…まさか、儂は毒を喰らっておったのか…」
美鈴は、自身の頭をフル回転させていた。
自分達が彼女の何らかの毒を受けてる可能性や、瀬菜に仲間がいる可能性など、とにかく色々な可能性を探しだし、一つの推測がたった。
その推測は、答えそのものだった。
そして、それは自分が最初から瀬菜に負けていたことを表していた。
「私は、最初から上野瀬菜に負けていた…」
膝をつき、美鈴は自分の敗北を噛み締めていた。
頭脳なら私の方が上だと、思っていたが、それも違っていた。
全てにおいて美鈴は瀬菜に敗けていた。
「お前さんは、分かったのか?、何がどうなってるのか…」
老人が美鈴にそう尋ねてきた。
普通なら、このような老人と会話などしたくはないのだが、渋々答えることにした。
「一応は、多分ですけど、上野瀬菜には仲間がいました。そして、その人の能力は『人を別の人に変える』といったものだと思います。その能力でそちらに倒れている女性を上野瀬菜に変え、私たちの気を引くために放ったのだと思います」
美鈴の解答は、満点のものだった。
瀬菜は、仲間の能力を使い、自分に化けさせ周りの気を引くためにそうしたのだ。
説明し終えると、老人は、少しガッカリしていた。
「なるほどのう。しかし、残念じゃ、あんな上玉滅多にお目にかかれんからのう」
残念そうな老人の表情は、美鈴を見た瞬間、変わった。
そのことに美鈴が気付いたときには既に遅かった。
「お前さんも、かなりの上玉じゃのう。この際お前さんでも構わんわ、寧ろお前さんなら生きたまま味わえそうじゃのう」
老人は、美鈴との距離を一気に跳躍し縮めた。
急な展開に追い付けず、美鈴は首もとを老人に掴まれ床に叩き付けられた。
「あ、あう…」
「お前さんは、いい声をあげてくれると信じておるぞ、安心するといい、儂は今まで何人もの女を極楽に誘った男じゃからのう」
気持ち悪い!
美鈴の中でこの老人は既に生理的に触れてほしくない男に入っていた。
この男に触れられるぐらいならゴキブリの方がましだ。
「<糸よ、彼の者を締め上げろ>」
美鈴は指から糸を放ち老人の肉体を締め上げた。
普通なら、ここで悲鳴をあげるはずなのだが、この老人は数秒たってもあげることはなかった。
「残念じゃったの、お前さんの能力も儂と相性が悪かったみたいじゃのう。さて、味あわせてもらおうかのう」
老人の手が美鈴の大事な所に触れる寸前だった。
「させないよ」
その声が聞こえた次の瞬間だった。
老人の顔に何かが当たった。
更に、それは急に燃え始め老人の顔の周りで爆発した。
爆発の衝撃で、美鈴の身体の上から老人はぶっ飛び、美鈴は直ぐ様立ち上がった。
「もう大丈夫だから、俺が来たからにはもう安心だよ」
そこには、黒鬼討伐隊所属。
第2位の吉野裕介が立っていた。




