第4章 46話 『美鈴の仕掛け』
巨大な柱が倒れてくる仕掛けを前もって説明しておこう。
美鈴は、瀬菜と闘う前に前もって幾つか仕掛けを周りに仕込んでいた。
中でも、今回の柱は先程とは少し違っていた。
まず、柱の頂点辺りに自身の能力の糸を一週させておく。
同じように、下の所にも糸を一週させておく。
二つの糸を近くの柱に結んでおく。
それで、仕掛けは完了していた。
瀬菜が、辺り周辺の糸を斬った時、近くの柱に繋がっていた糸が切れ、その瞬間、美鈴の能力が発動した。
切れた糸を先端に戻るように仕掛けておき、糸は物凄いスピードで、先端に戻り始める。
その時、柱は、糸の摩擦により、切り込みを入れられ切断される。
最後に美鈴が糸を放ち、瀬菜の方に柱を倒した。
以上だ。
「この仕掛けをするのは、少し大変だったよ」
瀬菜に目掛けて巨大な柱を彼女は放った。
普通の人間なら、ここで大慌てをし、冷静な判断が出来なくなるのだが、上野瀬菜は違っていた。
「はぁ…めんどくさいな…毒で溶かすには時間が足りないしな…さて、どうしようかな」
巨大な柱が瀬菜に当たるまで、残り数秒だった。
この僅かな時間で柱を自分が死なない程度に溶かすのは時間的に不可能だった。
なので、彼女は避けることにした。
「<毒よ、翼を型どれ>」
瀬菜の背中から紫色の翼が生え始めた。
そのまま、地面を一蹴りし、翼を使って宙に浮き、柱が届かない所にまで移動した。
「残念だったね、柱が当たらなくて」
そう言い放った後、瀬菜を潰す為に切り取られた柱は、凄まじい爆音をたてながら粉々に崩れ去った。
その光景を見ていた美鈴の表情は一点の曇りもなかった。
「まさか…ここまで予定通りに事が運ぶなんてね」
どうゆう意味なのかは理解出来なかったが、数秒後に瀬菜はその意味を理解することになる。
翼を消し、床に着地するその時だった。
瀬菜は床に足を着けた瞬間、滑ってしまった。
何とか態勢を崩すことはなかったが、妙だった。
自分が転びかける原因となった液体が周りにもあったからだ。
その液体の匂いを嗅いだ瞬間、美鈴の言葉の意味を理解した。
「まさか…この液体は…油?」
「正解!、まぁ、正しくは灯油だけど」
「まさか、これって…」
「どうなるかは身をもって味わうといいよ」
美鈴は、自分の指から放っていた糸にライターの火を近付けた。
すると、火は瞬く間に糸に伝わっていき、瀬菜の周りに張られていた糸は燃え始めた。
瀬菜の周りにある柱に前もって糸を仕掛けておいていたのだ。
「こうなることを予想してたの?」
瀬菜は、美鈴がこうなることを分かっていたと確信していたが、時間稼ぎの為に美鈴に質問をした。
「前もって貴方が行きそうなエリアにこの仕掛けをしておいただけ。あと、周りに張られてる糸はある所が出発点なんだけどどこか分かる?」
そんなこと、改めて聞く必要は全くなかった。
「答えはこうなる。<糸よ、縮め>」
糸は、灯油の液体が張られている所を目掛けて縮み始めた。
ほんの数秒で、糸は灯油に触れ、激しい炎が溢れだした。
すかさず瀬菜は毒の翼を使い天井近くまで飛んだ。
「それも計算通り…これで終わりよ」
美鈴は、指を鳴らした。
すると、瀬菜に目掛けてあるものが放たれた。
それは、美鈴が瀬菜を倒すために仕掛けておいた無数の刃だった。
それが瀬菜に突き刺さり、この闘いは終わるはずだった。
だが、ここで美鈴にとって計算外のことが起こった。
それは、瀬菜にとっても想定外の出来事だった。
瀬菜の胸を貫いていたのは、美鈴が仕掛けていた刃ではなく、人の腕だった。
「な、何が…」
瀬菜を貫いていた人物は、かなりの歳を召された老人だった。
だが、かなりの筋肉の持ち主で、そこら辺の若者とは比べ物にならない。
「やれやれ、やっとお前さんを仕留めることが出来たわい」
老人は、静かにそう言い放った。




