第4章 45話 『瀬菜対美鈴』
上野瀬菜が構えた先には一人の少女が立っていた。
彼女が、ここに立っていた理由は、単純な物だった。
「貴方を捕らえるのが私の任務だから…悪いけど捕まってもらいますよ、上野瀬菜さん」
この状況にかなりうんざりしながら、上野瀬菜は溜め息をついた。
「はぁ…めんどくさいな。まさか、初っぱなから第5位と闘うことになるなんてね」
そう言いながら、目の前の敵である天原美鈴を見つめていた。
かつて、上野瀬菜は彼女の姉である天原凉音と闘ったことがあった。
その時は、大して苦戦を強いられはしなかったが、今回は別だった。
目の前にいる妹の方は姉より順位が二つも上なのだ。
赤城隼人の一つ下の順位だ。
かなりの強者だと上野瀬菜は用心することにした。
「私も自分のくじ運の悪さを初めて呪いましたよ、まさか、元七人衆の貴方に出会うなんて…本当に運が悪いですよ」
そうは言いつつも天原美鈴には不安の表情は微塵もなかった。
「でも、私は貴方を捕らえますよ上野瀬菜…」
ナイフを構えていた上野瀬菜は、余裕の笑みを浮かべていた。
自分が、こんな女に負ける筈がないという強者の驕りだった。
そんな彼女の笑みを無視して天原美鈴は、能力を使い始めた。
「<糸よ、彼の者を縛り上げろ>」
すると、天原美鈴の右手の人差し指から一本の糸が放出された。
そのままその糸は、上野瀬菜の周りを囲い縛り上げた。
「なるほどね、姉と似たような能力か…どうやらこの糸に能力を封じる込める力はないみたいね」
糸で捕まりながらも上野瀬菜は、冷静に状況を分析していた。
「このまま貴方を締め上げて気絶させる」
その言葉通り、糸の力は強くなっていき、上野瀬菜の身体を圧迫していた。
「確かに、このままはちょっと辛いかな。でも、そろそろかな」
すると、糸が突然溶け始めたのだ。
その答えは、簡単だった。
上野瀬菜は、最初に毒の膜を身の周りに薄く貼っておいたのだ。
その毒は強い酸性を持つものにしておき、自身に触れられた時の対応策にしていた。
そして、それは見事に成功し、上野瀬菜は、自身を締め上げていた糸をドロドロに溶かすことが出来たのだ。
「今度は、こっちの番」
ドロドロになった糸をナイフで切り裂き、目の前の天原美鈴の所まで、一気に距離を縮めた。
天原美鈴の顔にナイフが刺さる寸前の距離まで近付いたが、
「<糸よ、縮め>」
次の瞬間、彼女の姿は上野瀬菜の視界から消えてしまった。
その事に一瞬だけ驚き隙が生まれてしまった。
その隙を天原美鈴は見逃さなかった。
「<糸よ、彼の者を縛り上げろ>」
今回の縛り方は、先程とはかなり違っていた。
糸は上野瀬菜の地面から現れ、彼女を床に縫い付けるように、交互に動き、彼女を床に押し付けることに成功した。
そして、最後に逃げられないように彼女の身体の急所を避け、身体と地面を密接し繋げた。
上野瀬菜は、身体に幾つもの穴が空いたにも関わらず、悲鳴をあげることはなかった。
「これで捕獲完了だね、地面ごと持っていくのは少し手間だけど」
「な、何でこの糸は溶けないの?」
上野瀬菜は、糸に縛られた瞬間から、糸を溶こうとしているが、いまだに少しも溶かせてはいなかった。
「さっきの糸と違って、今回の糸は特別製だからだよ。今回の糸は、私の能力の糸とワイヤーと鬼鉱石と私の血を混ぜた、私専用の武器だからね」
今回、彼女が使った糸は清水博士が造った天原美鈴専用の武器だった。
天原美鈴は、姉の天原凉音と似たように糸を身体から放つことが出来るが、姉の能力と大きく違っていたのが、人や物を操れなかったのだ。
糸の動きは操れたが、その糸で他の人や物に入り込み、操作することが不可能な能力だった。
姉の能力の劣化版として、彼女は他の者に嗤わながら、過ごしていた。
だが、清水博士は天原美鈴の能力に眼をつけ、彼女の為に専用武器を造ったのだ。
その武器と美鈴の努力の末、彼女は今の順位となった。
「なるほどね、その手袋みたいな物からこの糸を出してるんだ」
上野瀬菜は、美鈴の方を見ながらそう言った。
美鈴の専用武器は、他の者とは少し造りが違っていた。
美鈴は、両手に鬼鉱石で出来た、手袋のような物をはめていた。
だが、普通の手袋ではなく、鉄より硬い手袋だった。
彼女の動きの妨げにならないように、自動で彼女の指のサイズに合うように調整される機能があった。
そして、両手の指先の所に空けられた穴から糸を放つ。
それが、彼女の武器の特徴だった。
「正解だよ。このまま清水博士の所まで、貴方を持っていこうかな」
だが、そう易々とやられる女ではないことを美鈴はこの時まで知らなかった。
その隙を上野瀬菜は狙っていた。
美鈴が一瞬気を緩めた瞬間、上野瀬菜の身の周りから紫色の刃が無数に放たれた。
放たれた刃の数があまりにも多く、糸はそれに耐えきれず、千切れてしまった。
「油断したよ。でも、もう油断しない。それに貴方の能力も分かったしね」
美鈴の方を見ながら、上野瀬菜は彼女の能力を明かし始めた。
「貴方の能力は、糸の動きと長さを操る能力でしょ?、さっきの瞬間移動の仕掛けも、やっと理解したよ」
先程の美鈴の瞬間移動の仕掛けは、まず予め糸を幾つか周りの柱に結ばせておきある程度の長さにしておく、そして、上野瀬菜のナイフが刺さるギリギリで、自分の能力を発動する。
美鈴の能力は、上野瀬菜が言った通りの物で、糸の長さを好きなように変えれるのだ。
糸の先端を柱の所に置いておき、その先端との長さを縮めれば移動することが可能だ。
だが、これはかなり計算に長けていなければ難しかった。
長さによって出せるスピードが違うのだ。
短すぎれば、出しすぎたスピードのせいで柱に衝突してしまう。
逆に長過ぎれば、スピードは出せるものの、敵に気付かれてしまう。
つまり、敵に気付かれず、素早く移動するための距離を計算しなければならない。
纏めると、美鈴の能力は賢さと度胸がなければ使いこなせない、使い勝手の悪い能力だった。
「八割は合ってるよ」
「じゃあ、早く残りの二割を埋めなきゃね」
上野瀬菜は、手始めに周りに紫色の粉を放った。
それによってある物が見えていた。
その見えた物をナイフで全て切り裂いた。
「これで、貴方の瞬間移動の仕掛けは全部破壊したよ」
それが、上野瀬菜の目的だった。
美鈴の瞬間移動の仕掛けである、糸は透明で眼を凝らしても見ることが出来なかったので、色を付けることにした。
周りに紫色の粉を放ち、それで糸を見えるようにした。
「これで、終わりかな。貴方、近距離戦が弱いんでしょ?、もう、終わりかな」
「そうね、貴方の終わりかな」
美鈴はそう言い切った後、指を鳴らした。
すると、それは上野瀬菜に襲いかかってきた。
「どうゆうこと…貴方…もしかして…」
その疑問に美鈴が答えることはなく、ただただ笑顔だった。
そして、巨大な柱は、瀬菜を目掛けて倒れてきた。




