第4章 43話 『Dブロックの勝者』
人は何故、人を好きになるのだろう。
かつて、黒崎龍平はその答えを探していた。
結局、彼がその答えを見つけることはなかった。
答えは出ない、理由も分からないが、それでも彼は、二階堂有栖の為に刀を振るった。
そして今、二人の男の闘いが終わろうとしていた。
『はぁ…はぁ…はぁ…、まさか…この僕がこんな様になるとはね…』
ミゼルは、壁に打ち付けられている自分の現状を見て、そう呟いた。
ミゼル程の実力者が、こうなることは余程の事がない限り有り得ないのだ。
「僕の眠りを妨げるだけじゃなく、二階堂有栖のことを侮辱するなんてね、ほんとうに罪深いね…」
龍平は壁に打ち付けた、ミゼルの所まで静かに歩いていた。
その足音が近付いてくる度にミゼルは、自身の死が近いことを痛感していた。
『黒鬼様の為に…こんなところで敗けるわけにはいかない!』
「二階堂有栖の名誉の為に…お前を殺すよ…」
龍平は、ミゼルの頭上から刀を振り降ろした。
ミゼルは、間一髪で後ろに下がり、致命傷は避けたが、度重なるダメージに遂にお面が耐えきれず、鬼のお面は粉々になった。
「へぇ~、結構美形だね」
お面がなくなり、ミゼルは、その素顔を晒していた。
顔立ちはかなり整っており、髪もふわふわの金髪をしており、肌も色白だ。
その名の通り、日本人の顔立ちではなかった。
両目は、鮮やかな青色でとても美しかった。
その両目に映っている龍平の表情は、いつもの彼の表情とは違っていた。
「黒崎…龍平…君は一体何者なんだ?」
「何者何だろうね…僕も分からない。けど、お前は殺さないといけないことは分かるよ」
龍平は、そのまま刀を後ろに引いた、勢いをつけミゼルの胸に突き刺す為に。
この時、ミゼルは、既に諦めていた。
骨は数本折れ、内臓も幾つか損傷しており、闘える状態ではなかった。
最後に彼が出来ることは、一秒でも長く、龍平をこの場に引き留めておくことだけだ。
「最後に言い残すことはあるか?」
龍平は、刀を構えた状態でそう聞いた。
「何もない…」
「謝罪するなら、楽に殺してあげたのに。残念だよ」
そのまま龍平が、刀を突き刺す寸前だった。
『そうは、させない!』
突如、何者かの声がした後、龍平の真横に猛スピードで突進してくる何があった。
そのまま龍平に蹴りを喰らわせた。
あまりの勢いと威力により、龍平は、数十メートル横に吹っ飛んだ。
ミゼルのピンチを救ったのは、黒い法衣を纏い、鬼のお面を着けた、十師団の者だった。
『大丈夫ですか?、二番様…』
「君は、多分…九番かな…礼を言うよ、ありがとう。君のおかげで助かったよ」
九番と呼ばれた者の登場により、ミゼルは、辛うじて命を拾った。
だが、吹き飛ばされた龍平の波動は弱まることはなく、むしろ先程よりも、邪悪に禍々しく強くなっていた。
「ミゼル…お前は、可哀想だね…そいつのせいで苦しむことになるんだからさ…」
龍平の表情は、とても歪んでいた。
この世の者とは思えない嗤い方だった。
それに屈することなく、九番はミゼルの前に立った。
『そうはさせない…お前は私が倒す』
「お前も、鬼化してるなら分かるよね?、僕には絶対に勝てないってことを」
『かもしれないな、だが、ここで私が死んだとしても、二番様が生きてさえいればそれでいい…』
「なるほどね…殺しがいがあるよ」
一気に龍平は、九番との距離を縮め、そのまま首を斬ろうと刀を振るった。
『<我が身に迫る脅威を、落とせ>』
九番の首に刀の刃が当たる寸前、龍平は何かに押し潰されたかのように、その場に沈んだ。
そのまま、龍平を中心に辺りは、少しずつ少しずつ窪み始めた。
「なるほどね、お前の能力は重力を操る能力か…ミゼルと似た能力だ…」
そう言ってる間も、少しずつ少しずつ窪みが広がっていた。
敵の狙いは、このまま自分を重力の力で押し潰すことなのだと、龍平は察していた。
『悪いが、このまま押し潰す…悪く思うなよ』
今度こそ、龍平の苦痛に歪める顔を拝むことが出来ると九番は思っていた。
だが、龍平の表情は先程といっさい変わっていなかった。
「さてと…そろそろお前を殺す…<消滅せよ>」
次の瞬間、龍平にかけられていた重力の全てが一瞬で消え去った。
『一体、どうゆうことだ…能力を無効化した…のか…』
九番は、数秒間だけ動揺した。
直ぐに落ち着きを取り戻し、能力をかけ直そうとしたが。
「遅いよ…」
僅かの隙を突かれ、九番は背後に自分の敵がいるという最悪の状況にされてしまった。
『な、いつの間に…』
「さて、また重力をかけられたら堪ったもんじゃないからな。消させてもらうよ」
そして、軽く息を吸い込み、こう言った。
「<浄化せよ>」
右手を九番の首に置き、そう呟いた。
その瞬間、九番は突然叫びだした。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……』
暫くの間、のたうち回った後、九番に異常事態が発生した。
「お、鬼の波動が消えてる…」
最初にその変化に気付いたのはミゼルだった。
突然、九番から発せられていた強い鬼の波動が消えてしまっていた。
鬼の波動が消えているということは、能力を使っていないか若しくは能力が消えたということを表しているのだ。
そして、現在の状況は後者だった。
『黒崎…龍平…何をした!』
「お前の負の塊を綺麗にしただけだよ」
『な、何だと…』
「それとさ、右腕見てみなよ」
すると、そこにあるべきはずの物が九番から消えていた。
九番の右腕は、切断されていた。
今度は、叫ぶことはなかった。
だが、最悪だった。
「お前には、鬼の能力がもうないからね、右腕をくっ付けることは出来ないね。まぁ、木っ端微塵にしたから、くっ付けるのは無理だったけどね」
九番は、直ぐに切断面から流れている血を止血した。
追い討ちをかけるように、龍平は、九番のお面を拳で破壊した。
「はぁ…はぁ…、殺すなら早く殺せ…」
そこには、とても可愛らしい少女がいた。
歳は龍平より、二つか三つ上だろう。
黒髪でショートヘアーだった。
その両目はとても綺麗な黒色をしていた。
「まだ、殺さないよ…」
龍平は、九番の首元を掴み強引に引っ張った。
ミゼルの前まで持っていき、乱暴に床に叩きつけた。
そして、再び首元を掴み顔を上げさせ、自分の刀の刃を首元に当てた。
「最後に言い残すことはあるか?」
いわば、死刑宣告のようなものだった。
最早、覆ることのない運命が待っていた。
「ちょっと待って!」
そこに待ったをかけたのは櫻子だった。
龍平の変貌に戸惑い、今の今まで何も出来なかったが、これ以上は見てはいられなかった。
「何?」
「殺さなくてもいいんじゃないかな?、能力は消したんでしょ?、だったらそのままにしておくのは…」
以前の龍平なら、能力を消したなら命までは取らない、そんな男だった。
敵にまで甘い龍平の優しさが櫻子は好きなのだ。
今、ここで止めなければ、もう二度と会えない気がしてしまった。
「優しいね櫻子は…でも、彼らは殺すよ…僕の眠りを邪魔した大罪人だからね」
「そ、そんなに…眠りたいなら、もう一度寝れば済むんじゃないかな?」
そう言った櫻子に返って来た物は意外な物だった。
それは、自分を殺す用ではなく、黙らせるために投げられたのだと、彼女は直ぐに理解した。
櫻子の鳩尾に龍平は、刀を納める鞘を投げていた。
それが見事に櫻子の鳩尾に入り、彼女は息が出来なくなっていた。
「そ、そんな…ど、どうして…」
「大罪人を庇うからだよ…後でたっぷりお仕置きしてあげるよ…」
「り、龍平…」
既に手遅れだった。
今ならまだ戻せると彼女は思っていたが、現実は甘くはなかった。
そして、最悪の結末を迎えようとしていた。
「さてと、最後に言い残すことは考えたかな?」
再び、九番の首元に刀の刃を当てた。
今度は、頭をしっかり掴んでいた。
「二番様…貴方様に助けられたあの日から、私は貴方様のことが、好きでした…わた…」
続きを言おうとした、その瞬間。
無情な知らせを行った。
「時間切れです、サヨナラ」
そのまま龍平は、首を切断した。
彼女が伝えたかった想いは、想い人に全てが伝わることはなかった。
支える力を無くした身体は、ゆっくりと地面に倒れていった。
「案外軽いね…人の頭って」
そして、最後の仕上げとして、龍平は手に掴んでいた頭を握り潰した。
それが、きっかけとなった。
「くろさきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…りゅうへいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…」
ミゼルは、全身の力を振り絞り、大鎌を龍平に叩きつけようとした。
だが、龍平はそれを平気で刀で受け止めた。
「<重くなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……>」
一気に重くし、龍平を潰そうとした。
「<消滅せよ>」
だが、そんなミゼルの奮闘も虚しく、能力は無効化されてしまった。
そして、龍平は力強く刀を振るった。
ミゼルは、即死を避けるべく、大鎌で防いだが、衝撃がかなりのもので、そのせいでミゼルの大鎌は粉々になってしまった。
「な、何故こうなった…」
ミゼルは、こうなってしまった原因を探していたが、それは直ぐに見つかった。
坂本葵との記憶を消したからこうなった。
それは、明らかだった。
つまり、それさえ戻したら何とかなるかもしれない。
記憶を急いで戻そうとした。
「大罪人…これで、終わりだ…」
龍平が、ミゼルの首を切断しようとした、その時だった。
間一髪で、ミゼルの方が速かった。
「<記憶よ、全ての者に蘇れ>」
首に触れかけていた、刀の動きが突如、止まった。
「あ、あ、記憶が戻った…あ、葵…」
一筋の涙を彼は、流した。
そのまま龍平は、その場に倒れた。
あとは、先程の闘いの記憶を消せばいいのだが、ミゼルの負傷も激しく、次、誰かに襲われては少しマズイので、ミゼルは、撤退することにした。
「黒崎…龍平…いつか…殺すよ…」
最後にそう言い残し、彼はその場を去った。
この時点で作戦開始から既に一時間半は過ぎていた。
櫻子は、急いで龍平の元に駆け寄った。
この工場での戦いは、どちらが勝者かは、分からなかった。
それだけ、双方に深い傷を残していった。




