第4章 40話 『博士の目的』
龍平とミゼルの闘いを彼女は、ホテルの一室で見ていた。
予め、幾つか仕掛けていた監視カメラで彼らの闘いを眺めていたのだ。
「やっとですねぇ~、龍平君、貴方が私が追い求めている真実を知っているはずですよねぇ~」
そのまま彼女は答えを知るべく、彼らの闘いの行く末を見守っていた。
ミゼルは、驚愕していた。
彼ほどの実力者なら、余程でない限り、相手の動きが捉えられないことなどないのだ。
しかし、龍平の動きを捉えることは出来なかった。
いや、龍平の動きは最早、人の動きではなかった。
「へぇ~、師団の人の腕って簡単に切断できるんだね」
『あ、ありえない…』
「このまま殺しても面白くないから、大サービスで腕を返してあげるよ」
龍平は、手に持っていたミゼルの右腕をミゼルに返した。
直ぐ様、ミゼルは右腕を傷口の所に合わせて、接着させた。
繋ぎ終わった後、ミゼルから発せられる波動は更に強くなっていた。
『もう油断しない…次は、全て喰らい尽くす。
<番人よ、全ての記憶を喰らい尽くせ>』
また、龍平の記憶を奪うべく、時の番人は龍平の懐に腕を伸ばした。
次に触れられれば、龍平の記憶は全てなくなり、ミゼルの勝利は確定するのだ。
「残念だけど、もう無理だよ。次、奪われるのは僕の記憶じゃなくて、お前の命だから」
龍平は、番人に向かって走りだした。
そのまま刀で斬りかかった。
『無駄だ、そいつはこちらからは干渉できない』
「今の僕には関係ないって分かってるだろ?」
龍平の刀が番人の腕に当たった次の瞬間だった。
番人の腕が木っ端微塵に切り刻まれていた。
『そ、そんな…』
「このまま、斬り裂くの面倒くさいな、
<消滅せよ>」
すると、時の番人の姿は消滅してしまった。
『な、一体その能力は何なんだ…』
ミゼルと櫻子は唖然としていた。
特に櫻子は、龍平の変貌の方が気になっていた。
だが、そんなことは龍平は気にも留めていなかった。
「この能力は…僕の罪の象徴だよ…」
ミゼルは理解することは出来なかった。
「さてと、早いとこ終わらせないとな…彼女と過ごす時間が減っちゃう…」
そのまま龍平は、ミゼルに斬りかかっていった。
最初は、反応出来ていなかったミゼルだが、段々龍平の動きに目が慣れ、彼の刀を捌けるようになっていた。
『これ以上、黒鬼様の脅威になる前に殺すよ』
今度は、ミゼルが龍平の方へ踏み込み、大鎌を振るった。
最初は、龍平が攻めていたが少しずつミゼルが押し返してきた。
「強いですね。まぁ、彼女よりかは弱いですけど」
『その彼女さんより、僕の方が強いよ』
その言葉が、龍平の逆鱗に触れてしまった。
次の瞬間、ミゼルの視界には、龍平の拳が眼にも止まらぬ速さで迫ってくるのが見えていた。
それを防げず、ミゼルは工場の壁に吹き飛ばされた。
「彼女を…二階堂有栖を…馬鹿にするなよ…お前ごときが敵うわけないだろ…」
龍平の両目は紫色に染まっていた。
ホテルの一室で龍平とミゼルの闘いを見ていた清水遥は笑っていた。
「やっと見つけましたよぉ~、二階堂有栖が死んだ理由を知る人間を」
それが、清水遥の目的の一つだった。
「さてと、そろそろ行きましょうかねぇ~」
『それは、させない』
その声が聴こえてから、間もなくホテルの部屋の扉が斬り壊された。
斬り壊された入口から、黒い法衣を纏った、鬼の仮面を着けた人が姿を現した。
「私の刺客に差し向けるということはぁ~、黒鬼十師団が一番しか有り得ませんねぇ~」
『正解だよ』
一番は、清水博士を止めるようにと黒鬼が放った刺客だった。
「貴方なら、私が二階堂有栖の死の真相を追ってる理由は分かりますよねぇ~」
『死の真相を追うだけならまだいい、だが、お前がやろうとしていることで、この国が滅びるかもしれないんだぞ』
「私は、この国がどうなろうと知ったことではありませんよぉ~、私は有栖姐さんともう一度会いたいだけですからねぇ~、貴方は初恋の人に会いたくはないんですかぁ~?」
『俺だって、会えるものなら会いたいが、彼女はそれを望まない。彼女が、命を懸けて守った、この国を俺は護りたいからな』
「そうですねぇ~、お互い止まれないなら、後は力づくですよねぇ~」
『そうなるな、遥…この国を護るためなら俺はお前を殺す…それが有栖姐さんにしてやれることだからな』
「本当に昔から、私たちはケンカばっかりでしたねぇ~」
『これが、最後のケンカになるな』
お互いに刀を抜き、戦闘体勢に入った。




