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復讐鬼  作者: 中村淳
第4章 『黒鬼討伐』
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第4章 39話 『大罪』

彼の変化に最初に気付いたのは櫻子だった。

ミゼルの能力を受けてしまった龍平はその場に倒れてしまった。


「龍平!、龍平!、起きてよ…」


そんな彼女の願いは最悪の形で叶うことになった…


『暫くしたら起きるよ、と言っても鬼化したことを忘れてるから、自分が何でこんなところにいるか分からなくなってるだろうね』


「龍平の記憶を返して!」


櫻子は、ミゼルに弓矢を向けていた。

つまりは、何時でも射てるということだ。


『止めときなよ、折角助かるんだから命は粗末にしないほうがいいよ』


「それでも…私にだって…闘わないといけないときがある…それが、今なの!」


『余計に分からないな、君は彼のことが好きなんでしょ?、今の彼には君の恋敵のことが消えてるんだから、彼のことは簡単に手に入れられるよ』


「私は、こんな勝ち方じゃ嫌なの!」


淡々と冷静に話していたミゼルは少し戸惑っていた。


『まぁ、いい。とにかく彼の記憶を戻したいなら僕に勝つしかないよ』


「分かった…<風よ、…」


櫻子が能力を発動させようとした瞬間だった。

一度は消えた筈の黒崎龍平の鬼の波動が突然、龍平から発せられていた。


『ど、どうゆうことだ。可笑しい…あり得ない…そんなことはありえない!』


その現象を櫻子は喜んではいなかった。

何故なら、以前の龍平の鬼の波動とは比べ物にならないほどの禍々しい波動を発していたからだ。

そして、龍平の方にも変化が見られ始めた。

真っ黒だった髪の毛の一部分が紫色に変色し始めた。


『今のうちにとどめを…』


「そうはさせない!」


そのまま櫻子は弓矢を放った。

風を纏わせた弓矢は避けなければ深手を負うのでミゼルは直ぐ様避けた。

この一瞬のおかげで、黒崎龍平は完全復活を遂げた。

だが、もしかしたら、あのままミゼルがとどめを刺してしまった方が良かったのかもしれない。

そう思ってしまう程の豹変ぶりだった。





深手を負ってしまった雪村の意識が回復するのを早苗はずっと待っていた。

敵が襲ってきたらまずいので、近くのコンテナの中に隠れていた。


「雪村、早く起きて!、もう!、いざって時は役に立たないんだから」


しかし、このままでは、まずいのも事実だった。

もし、仮に師団クラスの敵が襲ってきたら、自分では太刀打ち出来ないのだ。

こんな時に自分の無力さが憎い。

だが、憎んでいる場合ではない。

弱いなら弱いなりの闘いかたをすればいいのだ。


「さてと、とりあえずあゆなちゃんと合流しないとな」


そう思っていると、コンテナの壁が壊され、敵が襲いかかってきた。


「もう!、こんな時に!」


直ぐ様、応戦しようとしたが、自分が刀を抜く必要はないと知り、少しホッとした。

何故なら、


「<氷柱よ、彼の者達を貫け>」


襲いかかってきた敵全てをあゆなの氷柱が貫いたのだ。


「大丈夫!、早苗ちゃん!、ごめんね!、遅くなった」


「いいよ、いいよ、そんなことより雪村が大変なの」


その後、雪村が深手を負ってることを説明すると、あゆなは少し落胆してしまった。


「雪村なら、この状況を何とかしてくれるって思ったんだけどね。まぁ、しょうがないか」


「こんな深手を負うなんて、雪村もまだまだってことだよ」


「そうだね」


そのまま二人は、雪村を連れ、どこか違うところに身を潜めようとしたが、それは出来なかった。

最悪の男の出現により、彼らは窮地へと追い込まれてしまう。


「逃がさねぇぞ、雪鬼。<鎖よ、彼の者を束縛しろ>」


突如、背後から声がし、その声の主の狙いがあゆなであると分かると、早苗はあゆなの前に立ち、鎖を全て捌こうとした。


「あゆなちゃん!、走って!、こんなやつ私が相手で充分だよ」


早苗は刀を抜き、鎖を破壊しようとした。


「小娘のおもちゃじゃ斬れねぇよ」


その男の言葉通りだった。

早苗は向かってくる鎖に斬りかかったが、刀が鎖と衝突した瞬間、その鎖の異常な重みに耐えきれず、後ろへ飛んでいった。


「早苗ちゃん!」


後を追おうとしたが、男により、それは邪魔されてしまった。


「逃がさねぇって言っただろ、雪鬼…いや、中条あゆな」


「私のことを知ってるの?」


「ある程度はな、まぁ、それは後で教えてやる。今は、大人しく捕まれ」


あゆなは、その男の風貌を眺めていた。

身長は雪村より10センチは高く、顔立ちも整っていたが、あゆなはこの男を人間としては見てはいなかった。

それは、彼の両目が人では発することは出来ないであろう冷たさを発していたのだ。

冷酷という文字が世界で一番似合う。

彼の目を見た者は全てそう言うだろう。

それほどまでに、彼からは人としての温かみを感じることは出来なかった。


「大人しく捕まるつもりはない」


「そうか、まぁ、お前の意思は関係ないがな」


そのまま鎖はまた、あゆなを捕らえるべく放たれた。

先ほどは一本だったが、今回は四本放たていた。


「<氷よ、壁となり我らを護れ>」


あゆなは、氷の壁を造り、鎖を凌ごうとした。

だが、あゆなはこの男の実力をまだ知らなかった。


「ガキが大人の手を煩わせるんじゃねぇよ」


次の瞬間、氷の壁は突如消えてしまった。


「どうゆうこと…」


「さぁな、大人しく捕まってろ」


氷の壁の謎の消失により、一瞬反応が遅れてしまった。

この時点で、あゆなが鎖を防げる確率は0に近かった。


「あんまし、僕らのお姫様を苛めないでよ」


あゆなに向かってくる鎖を全て、紙一重で斬り伏せた後、雪村はそう言った。


「しっかし、僕が寝てる間にとんでもない人が現れてるよ。本当に最悪だよ」


「雪村、ありがとう」


「どういたしまして」


雪村進一の復活はこのメンツからしたら、かなり心強かった。

しかし、彼の身体は闘うのには少し荷が重かった。


「死神か、まだ生きていたんだな。あの時、ころしておけばよかったよ」


「そう言う貴方こそ、まだ生きてたんですね工藤さん。僕も後悔してますよ、あの時息の根を止めておかなかったことを」


雪村の表情は、少し怒りを滲ませていた。

だが、あゆながその怒りの理由を知るのはもう少し後のことだ。


「俺の任務は、雪鬼の捕獲だ。俺の邪魔をするなら今度こそ殺すぞ死神」


工藤は、とてつもない殺気を放ちそう言ったが、雪村は堪えてはいなかった。


「僕の仲間を捕まえるつもりなら、僕はあんたを殺すよ」


雪村は工藤と同じ位の殺気を放ち、そう宣言した。





「龍平…なの?」


起き上がった彼に櫻子はそう聞いた。

そう聞かなければならないほど、彼は豹変していた。

紫色の髪と、顔に浮かんでいる黒い模様。

そして、穏やかだった表情が今では何も感じられなくなっていた。


「そうだよ…僕は黒崎龍平だ…罪深いね」


「龍平じゃ…ない…」


彼女は、そう感じた。

事実、今立っている彼は既に別人だった。


「人が犯す罪の中で一番罪深い罪は何だと思う?」


龍平は、穏やかな口調で、そう訊いてきた。

その問いに櫻子は、答えることは出来なかったが、ミゼルはこう答えた。


『最も罪深いのは、人を殺すことだ…』


人の命を奪うのが最も罪深いとミゼルは答えた。

だが、龍平の答えは違っていた。


「僕はこう思う。無知であること…それがこの世で最も罪深い大罪だと思う」


更に彼は続けてこう述べた。


「人が人を殺した時に、知らなかったからでは通用しない。それは、その事を教えなかった周りと自分が悪い。人の物を盗ってはいけないことを知らない子は知らず知らずの内に物を盗る。他にも、普通の人が知らないであろう法に触れることは、沢山ある。でも、それをしてしまった時に、知らなかったからでは通用しないだろ?」


長々と語った後、彼はこう答えた。


「ミゼル・アルト・バーナード、君が犯した罪を今から裁こう」


『裁かれるようなことは何もしていないが』


「この僕の眠りを妨げた…知らなかったこととは言え、万死に値する。死をもって償え」


龍平は、ミゼルとの距離を縮めた。

だが、その速度が尋常ではなかった。

櫻子はおろか、ミゼルですら彼の動きを眼で捉えきれてはいなかった。

そのまま龍平は、ミゼルの右腕を彼の身体から切断した。


『そ、そんな…速すぎる…』


「言っただろ、無知がこの世で最も罪深いと…」


罪深き、大罪人を断罪すべく、龍平は刀を振るい始めた。

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