第1章 エピローグ 『ここから…』
数年に一度の大雨だった。近くの駅まで水が入り、辺りはびしょ濡れだったらしい。
そんな大雨の日に坂本葵の葬式は行われていた。
生きていた頃の彼女とは正反対の天気だった。
もしかしたらこの雨は葵の涙なのか…
そんな下らないことを考えていた。
葵の死は、通り魔に襲われた。ということになっているらしい…、まぁその通りなのかもしれないが。一通り終わると、黒崎龍平は彼女の家の庭を眺めていた。彼女の家は一軒家でそれなりに大きい家なのだ。ぼんやり眺めていると、赤城隼人がやって来た。
「おはよう龍平君…、よく寝れた?」
少しこちら側を気遣ってくれているようだ。
「あまり寝れていません…、寝ていてもあのことが鮮明に蘇りますから…」
うつ伏せのまま、少し泣いていた。
自分の力の無さに…、想いを伝えられなかったことを今さら後悔していた。
「ここの庭は、綺麗だね…」
赤城隼人も庭を眺めていた。
「赤城さん…、あの木見えますか?」
そう言って、木に指を指した。
「見えるよ…、何かあるの?」
「あの木の下で、俺は葵のことが好きになったんです…」
風で揺れる彼女の長くて綺麗な髪。透き通るくらい潤んだ目。甘くかわいらしい声、明るくて優しい性格。その全てに恋をした。
「つまり、あの場所は君にとっての始まりの場所なんだね…」
「はい…」
だが、始まりの場所に彼女がいないならそれは無意味なのだ。もう…、この世界に何を求めたらいいのかも分からなくなっていた…
「龍平君…、もう一度あの場所から始めたら?」
唐突に言い出された。
「どうゆうことですか?」
「それは君が分かってるでしょ?、ここから君の物語を始めなよ…」
俺の中の何かが動いたのか、気がつくとその場にいた。まだ雨は降っていたのでびしょ濡れになったけど…、それでもここから始めようと思ってしまった。
「葵…、あの日約束しただろ?、奴をぶっ殺すって、今からやるのは単なるわがままだ。聞いてくれ、俺は…お前のことが好きだよ…」
そして空に手をかざし、叫んだ。
「いつか必ず…お前を生き返らせる!」
黒崎龍平が赤城隼人達の仲間に加わったもう1つの理由。それは、
死者の蘇生だった…
やがて、少年は罪を犯す。だが、その事はまだ誰も知るよしがなかった。




