第八十一話 謎の女
ひさしぶりの投稿です
よろしくお願いします(^^)
「どういうこと……?」
サヤが困惑の表情を浮かべる。
俺たちは青いスカーフを右腕に巻き付けて、完全に偽装していたはずだ。それなのに何故俺たちは今、『深淵の魔剣』のメンバーたちに完全包囲されてしまっているんだ。
「実はメンバーは全員の顔を覚えていたとか……?」
「そうではありませんよ。……まあ私は覚えていますが」
ぐるりと取り囲む『深淵の魔剣』のメンバーの中から、アイザックが歩み出てきた。細身で知的なめがね男。うちのボスとは正反対な容姿をしている。だがこれでもギルドの頭を張る人物だ。それ相応の強さであることは間違いない。
顔を覚えていたという可能性を否定されたサヤはアイザックに食ってかかる。
「だったら、なんで私たちがあんたらのギルドを探っているって気づいたのよ?」
「おや、あなたたちは我が『深淵の魔剣』を探りに来ていたのですか?」
「え……?」
「私はただギルドメンバーではない者が紛れ込んでいるという報告を受けて、念のため逃げられない様に包囲しただけですよ? 何故あなたたちがここにいるのかという目的までは知りませんでした。なるほど、何かを探りに来ていたのですか」
アイザックが大げさに頷いた。まるでサヤを小馬鹿にしているかのように。
「サヤ、おまえ……」
「う、うるさいわね。こんな風に包囲されてたら何もかもバレてるって思っちゃうじゃない!」
サヤの抗議はまあわからないでもない。それよりもどうして俺たちがいたことがバレたのかということの方が気になる。
気になるのだが、どうやらそんなことを気にしている場合ではないらしい
すでに『深淵の魔剣』のメンバーはおのおの武器を構えている。アイザックの号令さえあればすぐにでも俺たちに襲いかかってくるだろう。
もはや後には引けない状況であることを悟ったサヤは剣を抜き放った。
「やるしかないわね。……期待してもいいのよね?」
不安と期待の入り交じった表情でサヤは俺のことを見つめた。
期待というのは俺の精霊契約者としての力のことだろう。確かにイスカリオルの力を使えばこの場はどうとでもなる。しかし、ここでその力を使ってしまうと俺の正体がこの場にいるすべての人間に知れ渡ってしまう。出来れば使いたくはないところだが……。
「何を探っていたのかは知りませんが……今この場であなた方の口を封じてしまえば問題はありませんね」
アイザックの雰囲気が変わる。
抜き身の剣のごとき鋭い視線が、俺とサヤに向けられた。
その威圧感は、これまで戦ってきた強敵にたちに勝るとも劣らない力を秘めていた。己の剣技のみで果たして太刀打ちできるのか。万が一出来たとしても、さすがにサヤを守りながらとなると状況は厳しいかも知れない。……仕方がないか。
「……イスカリオル、起きてくれ」
『なんかようかの?』
「まずいことに、精霊の力を使わないと勝てそうにない戦闘になりそうだ」
『戦闘? この人間たちと戦うのか?』
「ああ。しかもサヤを守りながらな」
『なるほど。それは確かに精霊の力がいるかもしれぬの』
イスカリオルが目覚めたことにより体中に魔力が巡っていくような感覚が生まれる。
『で、ざっと見たところ2対100くらいの戦力差じゃが、霊装でも使う気かの?』
「場合によってはそれも仕方ないだろう」
『となれば、今後は本格的な指名手配書が出回ることになるの』
この場で精霊の力を使えば確実にそうなるだろう。だが、使わなければ勝てないのならそうするより他に仕方がない。
俺も覚悟を決めて剣を構えると、アイザックは部下たちに命令を下した。
「侵入者二人を始末しなさい」
すると武器を構えて臨戦態勢を取っていた『深淵の魔剣』のメンバーたちが一斉に向かってきた。四方八方から押し寄せる敵に対して俺とサヤは早々に防戦一方になる。無数の剣と槍が迫り、交錯し、火花を散らす。俺はやはり剣技のみでは厳しいと判断して、空間魔法による探知を行う。逐次全方位の敵の動きを把握しながら、ところどころ魔法で敵の動きを止めて守りつつも、的確に反撃を加えて一人、また一人と敵を戦闘不能に追い込んでいった。徐々に倒れていく『深淵の魔剣』のメンバーたち。だがアイザックは命令を出したきり、戦闘に加わってくる気配はなかった。
下っ端相手ならいかに多数だろうと俺は問題ない。しかし、サヤの方へと一線をやると、すでにぎりぎりの戦いをしていた。俺は隙を見て大ぶりの攻撃を放って敵をはじき飛ばし、サヤの元へと合流する。
「おい、大丈夫か?」
「ちょっと厳しいわね……」
苦しげな表情のサヤは左足をかばうような仕草を見せた。どうやら乱戦の折、敵の振るう刃がかすめて傷を負ってしまったらしかった。
「そろそろ終わりにしますか」
そういってアイザックが俺とサヤの元へ向かった歩きだす。俺はさすがにこのままではサヤを守り切れないと判断して、いつでも精霊の力を行使できるようにした。しかし、俺とアイザックがぶつかる直前、不意に人混みの中から何者かが割って入ってきた。
「それ以上は後にした方がいいと思うんだがね」
赤茶けた長髪を揺らしながら現れたのは若い女性だった。スラリとした長身は女性にしては高い方で、立ち姿も妙に堂々とした雰囲気を醸し出している。
「誰ですか? 貴女も私のギルドの者ではないようですが」
「ああ、そうだね。今の私は訳あってサイロン公国軍の一部隊を指揮している将だからね」
「サイロン公国の……?」
アイザックがいぶかしげな視線を向けるがその女は全く気にした風もなく話しを続ける。
「さあ、私が誰かなんて事よりも重大な問題が進行中なんだが、話してもいいかい?」
「……なんでしょうか?」
全くお構いなしに話しを進めようとする女に辟易しながらも、アイザックは次の言葉を促した。
「この城はまもなく魔物の大群による襲撃を受けることになる」
「え……?」
この場の誰もが一瞬、何言ってんだこの女はと思ったが、次の瞬間には場内の塔に設置してある、敵襲を知らせる鐘が鳴り響いた。
この状況で敵襲と言えば、それは間違いなく魔物の襲来を意味している。
事態を把握したアイザックは一瞬だけ俺たちの方へ視線を向け、迷うような表情をしたが、すぐさま部下たちに臨戦態勢を取るように指示を出した。そして、俺たちの包囲から次々と『深淵の魔剣』のメンバーたちが離れていく。
どうやら俺とサヤはひとまず助かったらしい。
辺りが徐々に対魔物の戦闘ムードへと入ってく。
「さあて、噂にきく魔物狩りギルドがどれほどのものか、楽しみだ」
謎の女がぼそっとそんなことを言っていたのを俺は聞き逃さなかった。
こいつ、いったい何者なんだ。
しかし、正体を探る暇もなく、アクナ城内は臨戦態勢の様相となった。
ついに大規模の魔物群との戦いが始まる。
次話はまた時間があるときに投稿する予定です。
あまり期間をあけないで、出来るだけ近いうちに投稿したいと思います。




