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第七十七話 精霊ウェルドの魔力

第七十七話です。

よろしくお願いします^^

 ダイナスから話を聞いた後、俺とサヤは軽めの依頼をこなしてから帰路についた。向かう先はやはりあのボロ宿である。


「報酬で銀貨五枚も手に入れたんだから、もっとマシなところに泊まらないか?」

「馬鹿言わないで。それでも私たちの全財産は今、たったの銀貨六枚なのよ。少しは貯蓄しておかないといざという時に困るわ」

「まあ、それはそうだが……」


 ここ数日一緒に行動してみてわかったことだが、サヤは意外としっかりした性格らしい。おまけに金については結構きっちりしている。もしかして、むかしは貧乏だったのだろうか。全くそうは見えないけど。


「でもあの宿じゃ鋭気は養えそうにないぞ? 寝心地もよくなかったし」

「わ、私は全然大丈夫だったわよ? ぐっすり眠れたし」


 今ちょっと強がったな。一瞬不満そうな表情が出ていたぞ。


「でもそうなると、また二人で一つのベッドに寝ることになるのか……」

「……嫌なの?」

「いや、別にそういうわけじゃないが……」


 即座に否定してしまったが、その後で今朝のことを思い出す。


 サヤの奴、自分に変なことをするなと言っておきながら、自分は寝ぼけて俺にひっついてくるんだよな。しかも朝はそれで気づかずにサヤの胸を思い切り揉んでしまったし。あれは本当に柔らかかったな……って、そうではなくて、こんなことを続けていたらいずれサヤにもバレてまずいことになるのは目に見えている。

 

 なんとか対策を考えなくては……。


 しかし、何も思いつくことなくボロ宿にたどり着いてしまった。サヤは早速上着だけ脱いでベッドに入った。


「あれ、今日は水浴びに行かないのか?」

「だってここ、泥水しか出てこないんだもの」


 それからサヤはハッとしたような表情になり、俺に向き直る。


「私、けっこう汗掻いちゃってるから……その、あんまり近づかないでね」

「じゃあ、俺は床で寝た方がいいか?」

「べ、べつにそこまではしなくていいけど……出来るだけ端っこの方で寝て」


 サヤはそれだけ言うと自分もベッドの反対側の端に寄って、こちらに背を向けたまま眠ってしまった。


「さて、俺も寝るとするか」


 サヤに言われたとおり、ベッドの端っこギリギリのところで寝転がる。背後からはすぅすぅとサヤの寝息が聞こえてくる。というかサヤの奴、なにげに寝るの早いよな。


 俺はなかなか眠れずにいると、頭の中にイスカリオルの声が聞こえてきた。


『少し話をしたいのじゃが、いいかの?』

「別に構わないが」

『ふむ。では――』


 目の前に光の粒子が集まったかと思うと、次の瞬間にはイスカリオルが顕現した。


「わざわざ出てきて話す必要があるのか?」

「話すだけなら無用じゃ。しかし、少し気になったことがあっての」

「気になったこと?」


 イスカリオルはベッドの反対側に回り込むと、すやすやと眠りについているサヤに顔を近づけていく。


「やはり、臭うな」

「そりゃ、今日は水浴びできなかったからな。サヤも気にしていたし、あんまり匂いを嗅いでやるなよ」

「そうではない。……この娘っ子から微かにウェルドの魔力を感じる」

「なんだって。ウェルドっていったら……」

「うむ。お主の体内によくわからぬ魔法を仕込んだ精霊じゃの」


 俺の体内にはウェルドの魔法が仕込まれている。それが『塔』でイスカリオルに目を付けられた原因の一つでもある。だが結局、いったいどんな魔法なのかは同じ精霊であるイスカリオルを持ってしてもわからなかった。


「もしかしてサヤの体内にもウェルドの魔法が?」

「いや、そうではないみたいじゃ。これはなんというか、娘っ子の魔力にウェルドの魔力が混じっている様な感じかの。この娘っ子は精神干渉系の魔法を使っておらなんだか?」

「使っていたな」

「おそらくそれはウェルドの魔力のおかげで使えておるのじゃろう。精神干渉系魔法はあの陰湿な精霊の得手とするところじゃからな」


 サヤが精神干渉系の魔法を使えていたのはウェルドの魔力があったからだったのか。しかし、どうしてサヤの魔力に精霊ウェルドの魔力が混じっているんだ。


「まさかサヤも契約者というわけではないよな?」

「ウェルドの契約者はランスの王であろう。まあこの娘っ子が『塔』を攻略したランスの王であるというのなら、そうなのじゃろうが……」

「……いや、それはないから、違うか」


 サヤがランス王国の王である訳がない。世間に疎い俺ですら、ランス王国の王は男だということくらい知っている。そもそも、王が護衛も連れずにこんなところをうろついているわけがないしな。それにサヤの実力ではとてもじゃないが『塔』の攻略なんて出来ないだろう。


「まあどちらにせよ、ウェルドと関わりがあることは確かじゃな。この娘っ子には用心しておいた方がよいぞ」

「……そうだな。まだ、精霊ウェルドとその契約者とことを構えるのは無理だからな」


 俺の記憶を取り戻す上で一番大きな手がかりを持っているだろうと思われるのは、俺の体内に魔法を仕込んでいる精霊ウェルドに違いないのだが、『塔』を出てそれを知って、真っ先にウェルドに接触を図ろうした際は無謀だとイスカリオルに諫められた。

 ウェルドと接触するということは同時にその契約者とも顔を合わせることになる。いきなり戦いになるとは限らないが、相手は俺に謎の魔法を掛けてきているくらいだ。さすがに友好的な邂逅にはなり得ないだろう。だからせめてまともに戦えるくらい強くなってからでないと、ウェルドに接触を図るのは無謀だった。

 そのためイスカリオルとの修行がてら、別の手がかりの場所を巡ってみようとしていたわけだが……。


「よりによって、サヤが精霊ウェルドの関係者だったとは……」


 規則正しく肩を上下させながら、安らかに眠るサヤを見て、そこまで危険な風には見えないけどなと思ったが、そういえば精神干渉系の魔法でいいようにやられてしまったことを思い出し、油断は禁物かと思い直す。


 すでに一度やらかして、正体がばれるというミスをしてしまっているため、俺はなおさら気を引き締めた。


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