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第七十六話 サイロン公国の現状

第七十六話です。

よろしくお願いします!

 通路の先にある一室から微かに声が漏れ聞こえてきた。サヤはその部屋の扉の前に立つと、ゆっくりと顔を近づけていき、耳をそばだてる。


「どうやらこの部屋で話しているみたいね。ダイナスの野太い声が聞こえてくるわ」

「そうか。で、なんか魔物の移動についての話はしているのか?」

「ちょっと待って……」


 サヤは手を上げて俺に制止を促すと、そのまま室内の会話を聞き取ることに集中した。

 さすがに俺まで扉に耳をくっつけて中の話を聞くわけにも行かず、サヤの気が済むまで待ちながら、誰かが通りかかったりしないかを注意しておいた。


「え……?」

「どうした?」


 サヤがなにやら険しい表情を浮かべたので、何事かと問いかける。


「今、魔物の異常な行動についてのなんとかって……」

「ダイナスたちがそう言っていたのか?」

「うん。やっぱり何か知っているのかも……」


 そう言ってサヤがさらに聞き入ろうと扉に寄りかかったとき、いきなり扉が開けられた。


「きゃっ!?」

 

突然扉が奥へと引き開けられた拍子にサヤは室内へと倒れ込んだ。


「サヤ!」

「おいおい、おまえらこんなところで何やってんだよ?」


 扉を引き開けた体勢のままダイナスが呆れたような表情で見下ろしてきた。

 サヤは目に見えて慌てた様子で、へたくそないいわけを口にした。


「えーと、その、お手洗いに行こうと思ってて……」

「この通路の先にトイレはないぞ」

「じゃ、じゃなくて、ちょっと通りかかっただけで……」

「この先はオレの自室しかないが、何か用か?」

「それは……」


 早くもいいわけに無理が出てしまっていた。さすがに見てられないので助け船を出す。


「俺たちは明日のことでちょっと聞きたいことがあって」

「聞きたいこと? オレにか?」


 ダイナスに向けられた視線に対して俺は頷いた。


「魔物戦争への介入って、具体的にどういう依頼なんですか?」

「ああ、おまえらはうちに入ったばかりだったか。それでもここ数ヶ月で魔物の数が激増していることくらいは知っているよな?」

「それはまあ。ここだとたしか、近場にある第一の『塔』が発生源なんですよね?」

「そうだ。で、その『塔』があるサイロン公国では、魔物の大量発生以来、各地で魔物の大群との戦いが行われている。それはオレたちが今までやってきたアルティリス周辺に流れてきた魔物たちとの戦闘とは規模が違う。まさしく戦争と呼ぶべきものだ」


 ダイナスの話によると、現在サイロン公国では数千から数万単位の魔物が領土内を侵攻しており、いくつもの城塞都市が攻め滅ぼされているそうだ。押し寄せる魔物の規模はアルティリス方面の比ではなく、国を上げて掃討作戦が実行されているが、それでもサイロン公国の軍は魔物の勢いに押されているのだという。


「サイロン公国は周辺国に救援を求めなかったんですか?」

「そりゃ、求めただろうぜ。でも、無理だったんだろう」


 サイロン公国は北にランス王国があり、東にトリア王国、南東にはエール連合国と国境を接している。しかし、サイロン公国は元々ランス王国から強引に独立建国したため、ランス王国とは仲が悪く、公的には援軍要請が出せない。東のトリア王国はミスリク王国滅亡後、ロムルス帝国と国境を接するようになったため、気軽に軍を動かすことが出来ない状況にあった。そして、友好国であるエール連合は現在、サイロン公国同様、自国内にある『塔』から出現する魔物の対処に追われており、援軍要請は断られてしまっていた。


「じゃあ今サイロン公国は孤立無援の状態なんですか?」

「公的な援助はないな。ただ、うちの国から魔物狩りギルドが参戦して、一応援助はしていたんだぜ」

「あれ、でも『鮮血の五芒星』はついさっきサイロン公国の救援要請を受諾したみたいな感じに見えたんですけど」

「それは間違いじゃねーよ。うちのギルドはこれから参加するんだ」


 ダイナスは不満げにそう言った。何でも今日までの間、サイロン公国への救援依頼は何故か『深淵の魔剣』に独占されていたらしい。それで、何度も抗議しているうちに『鮮血の五芒星』もようやく依頼の受諾が王都の政治首脳部に認められたらしい。


「最初からうちも加わっていれば、いくつも城が落とされるなんてこともなかっただろうにな」

「そういえば『深淵の魔剣』が援軍に行っていても城が落とされているんですよね?」

「ああ、何故かは知らんが、魔物にやられっぱなしらしい」


 依頼を独占しておきながら全く手に負えなかったから、『鮮血の五芒星』の参戦も認められたということなのだろうか。でも、あっちのリーダーを見た限り、むしろうちのリーダーよりもやり手の様な印象を受けたんだけどな……。


「それに『深淵の魔剣』には少し引っかかるところもある」

「どういうことですか?」

「それはな……いや、この話はおまえらみたいな新人にする話じゃねーな。明日は早いんだ。さっさと帰って鋭気を養っておけ」


 それだけいうとダイナスは床にへたり込んだままだったサヤを部屋の外につまみ出して扉を閉めた。


「……で、今の話を聞いてどう思う?」


 俺はなにやら考え込んでいる様子のサヤに問いかける。


「まだわからないけど……ダイナスが最後に『深淵の魔剣』には引っかかるところがって言っていたわよね?」

「ああ。結局そのことについては話してくれなかったが」

「最初に依頼を独占していたことといい、その後魔物にいいようにやられてしまっていたっていうのも気になるわ」

「そうだな。もしかしたらこっちよりも『深淵の魔剣』の方を調べた方がよかったのかもな」


 『深淵の魔剣』か。リーダーはアイザック・ターナーと言っていたっけ。うちのリーダーよりもやり手に見えたし、もし魔物の不自然な移動に何か関わりがあるのであれば、油断ならない相手になりそうだ。


いろいろ国名を出してしまってごちゃごちゃしてきたので、近いうちに地図みたいなものでも作ろうかと思っています。

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