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第七十三話 サヤの目的

第七十三話です。

よろしくお願いします!

 俺は意識が覚醒し始めると同時に、鼻腔をくすぐる甘い香りに疑問符を浮かべた。


 なんだこのいい匂いは?


 深呼吸をすると胸の奥まで幸せな気持ちで満たされる。

 そして次に、顔面を包みこむこの暖かくて心地よい柔らかな感触はなんだろうと疑問符を浮かべた。


 なんだこの柔っこいものは?


 手を伸ばして握って見ると、不思議なことに手がゆっくりと沈み込んだ。


「んぅ……」

 

 頭の上から、なにやら悩ましい声が漏れ聞こえてくる。

 なんだろうと思って、ゆっくり目を開けると、視界にはサヤの胸を握りしめる自分の手があった。そして、サヤは俺が胸を握りしめたのが原因か、身じろぎをし始めている。

 俺は一瞬で現状を理解し、ついで今が非常にまずい状況にあることを悟って、即座にベッドから飛び起きた。


「ん……あれ?」


 のっそりと目を覚ましたサヤは、目をこすりながら、自分しか寝ていないベッドを見て首をかしげる。

 そして、何故か慌てたように辺りを見回した。すぐにベッドの傍で突っ立っている俺に気づき、安堵の表情を浮かべる。


「……あんた、なんでそんなところで突っ立っているのよ?」

「いや、ちょっと寝苦しくて身体が痛かったから、ほぐしていたんだよ」

「……? そう。でも、約束は守ってくれたみたいね」

「え……?」

「衣服も変に乱れてはいないし、私に変なことはしなかったのね」

「ま、まあな……」


 俺が首肯すると、サヤが少し嬉しそうな顔をしていた。

 しかし俺は、気づいていなかったという事情があったとはいえ、サヤの胸に顔を埋めてしまった。それだけで無く、その胸に思い切り手を沈み込ませて柔らかな感触を存分に味わってしまうという罪を犯したわけで、間違いなくサヤが言う変なことをしてしまっているのだが……。

 そんな風に約束を守ってくれて嬉しいみたいな顔をされると、罪悪感で俺の胸が痛む。

 

「そ、そういえば怪我の方はどうだ?」

「そうね。だいぶよくなってきたと思う」

「そうか。それはよかったな」

「まあ、ね」


 罪悪感からの気遣いだったのだが、サヤはどうやら普通に俺が気遣っていると思っているようで、なんだか照れたような顔をしていた。


 これは、なんというか精神衛生上よくないな。こんな風に罪悪感に苛まれたのは初めてだ。


「あんたになら、話してしまってもいいかしら」

「え……?」


 サヤはベッドに腰掛けると真剣な顔つきで俺のことを見つめてきた。

 急に変わった雰囲気に応じて、俺もひとまずは罪悪感のことは置いておいて、サヤに尋ねる。


「話すって何をだ?」

「私がこのアルティリスに来た理由よ」

「魔物狩りのギルドに入るためじゃなかったのか?」

「違うわよ。魔物狩りのギルドに入ったのはあくまで目的を果たすための手段よ」


 サヤはどうやら何か別の目的があって『鮮血の五芒星』に入ったらしい。

 その真剣な顔つきと口ぶりから、まさか俺のように金稼ぎのためと言うわけでは無いと思うが……。


「最近魔物の動きが妙なのよ」

「魔物の動きが妙?」

「サイロン公国の『塔』から出現した魔物が、アルティリスを目指すこと無く、サイロン公国の城を次々と落としているのよ」

「それのどこがおかしいんだ? 魔物は人の魔力に反応するんだろ? だったらこっちよりも近いサイロン公国の城を落としていくのも普通のことでは無いのか?」

「確かに一つ目や二つ目に滅ぼされた城はアルティリスよりも近いわ。けどそれ以降はどう考えても『塔』からはアルティリスの方が近い。なのに、魔物たちはまるで吸い込まれるかのようにサイロン公国の城を攻めるのよ」

「なるほど……それは、確かに変だな」


 城が攻め落とされればしばらくは、その一帯から人は避難してサイロン公国の生存圏はその分後退するはず、にもかかわらずサイロン公国の方にばかり魔物が侵攻するというのは、もしかしたら人為的な何かがあるのかも知れない。


「私はその原因を調べるためにこのアルティリスに来たの」

「でも、それなら直接サイロン公国に行けばよかったんじゃないのか?」

「サイロン公国には魔物狩りギルドは存在しない。魔物退治に関してはうちの国のギルドに完全に依存しているの。だからこそ、魔物関係のことに関してはこのアルティリスのギルドが関わっているのではないかと思って潜り込んだのよ」

「そういうことか」


 サヤはサイロン公国で起きてる魔物の異変について、この街のギルドが関わっているのでは無いかと考えて、ギルドの一つに潜り込んだらしい。


「相手はギルドというでかい組織になるかも知れない。だから、指名手配犯であるあんたを家来にしたのよ。いざという時の戦闘力として期待して」

「契約者としての戦力だよりという訳か」

「そういうこと」


 なるほど。俺を家来にした理由はわかった。確かにギルドと戦うことになったらこいつ一人じゃ間違いなく返り討ちに遭っておしまいだろう。まあ、俺が加わったからと言ってどうにか出来るとは限らないが。それに正体がばれると困るから、出来れば戦闘は避けたいし。


「で、あんたは何で魔物狩りギルドなんかに入ったのよ?」

「借金返済のため」

「え……?」

「借金の形に連れを人質に取られたから、返済の資金を稼ぐために」

「連れが人質? 何で早く言わないのよ! それは早く返済しないとあんたの連れが売られちゃうじゃない!」

「まあ、そうだが……おまえに言っても仕方が無いと思って……」

「あんたはもう私の家来なんだから、そういう大事なことは報告しなさいよね……はいこれ」


 サヤは俺に銀貨三枚を手渡してくる。


「いいのか?」

「事情が事情だもの。仕方が無いわ。これで昨日の報酬は銀貨一枚になっちゃうけど、この宿にならもう一泊できるし……」


 そう言ってサヤは俺に銀貨三枚を握らせた。そして、早く連れを解放するように促してくる。

 俺はサヤに礼を言って、宿を飛び出した。


 もう三日も経っているが、イスカリオルはおとなしく待っているだろうか……。

 少し心配になり、俺は急ぎ足でイスカリオルを預けてあるの飲食店へと向かった。


多忙のため、空いてる時間で書き上げて、その都度投稿する形にいたしますので、

しばらく更新は不定期になります。申し訳ありませんm(_ _)m

土日はなるべく更新していく予定です。



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