第七十一話 ボロ宿
第七十一話です。
よろしくお願いします!
俺は正体がバレてしまう危険を考慮して、空間魔法を使わずに、小屋にあった袋に包んで魔物の尻尾を担いだ。
サヤは当然ながら魔物の尻尾を一切持たず、荷物を全て俺に押し付けた上で容赦なくせかしてくる。
「早く行くわよ」
「別にそんなに急ぐ必要も無いだろ」
「あるわよ。この嫌な臭いが染みついちゃう前に水浴びがしたいの」
「染みつくって……おまえ、臭いが染みつくものは全部俺に押し付けてるよな?」
「う、うるさいわね。気分の問題なの!」
サヤはぷいと顔を背けると歩き出してしまった。仕方なく俺も急いでサヤの後を追う。
俺はサヤに正体を知られてしまったがために、家来にさせられてしまった。一応はアルティリスにいる間という期限は定められているが、それがいつになるのか、具体的な日時は魔導誓約書には明記されていなかった。
俺には時間が無い。
だからこんなところで、金髪少女の子守をしている暇なんて本来はないんだ。
どうにかしてこの状況を打開しないと、俺は俺がすべきことを出来ない。
ギルド『鮮血の五芒星』の建物に戻り、討伐部位を渡して依頼の報酬を受け取る。そのすべてをサヤが懐にしまい込んだ。
「おい。報酬は半々だろ?」
「あんたは私の家来でしょ? だからお金は私が管理するわ。あんたには必要なときに必要な分だけ渡すわよ」
「それじゃ困る」
「どうして」
「借金がある。それを返さないといけない」
「……いくらよ」
「飯屋で銀貨三枚と、おまえの治療費が銀貨十枚、宿代が銀貨五枚……」
「今回の報酬、銀貨二十しかないんだけど」
「ギリギリ足りるな」
「仕方が無いから十五枚あんたにあげるわよ」
「え……足りないんだけど」
「飯屋の借金は知らないわよ。というかここら辺で銀貨三枚っていったい何食べたのよ。ここら辺って飲食店の相場は銅貨三枚くらいでしょ」
マジかよ……。確かにうまかったが、あの店、相場の十倍の値段だったのかよ。イスカリオルの希望なんて訊く聞くんじゃ無かった。
「とりあえず、銀貨十五枚分の借金を返したら、次の依頼を受けるしか無いか……」
「今日はもう宿を見つけて休むわよ」
「次の依頼は?」
「また明日で」
サヤが少し険しい顔をして腹の辺りを押さえていた。そこは確か昨日獣種の魔物に爪で貫かれた箇所だった。そういえば、サヤの怪我はまだ完治したわけではなかったんだった。もしかしたらまだ痛むのかもしれない。残念だが、今日はもう休んだ方がいいか。
「悪いな、気づかなくて」
「え……?」
「傷、痛むんだろ?」
「こ、こんなの全然平気よ。ただ、今日はもういいかなって思っただけ」
意地っ張りなサヤは顔を背けるとさっさと歩き出した。どうやら弱いところを他人に見せたくない性質らしい。
俺たちは雑多な町並みを進みながら、今日の宿を探す。
「昨日のところは、ここら辺にしてはちょっと高いのよね」
「そうなのか」
「そうよ。この街の宿の相場は銀貨三枚だもの」
こいつ、意外とこの街のこと詳しいんだな。
この際、宿選びはサヤに任せた方がいいだろうと考え、俺は黙って後をついて回った。
いくつかの宿を見た後、サヤは通りの外れにある見た目がボロい宿に入っていく。魔物の尻尾狩りの時は汚いのが嫌とか言っていたくせに、泊まるところは、こんなボロい宿でいいのだろうか。
中に入ると案の定、内装もボロくて、崩れたりしないか心配になる。
「素泊まりいくら?」
「銀貨一枚さね」
受付の老婆が億劫そうに奥から出てきて、そう答えた。
「入浴は出来るのかしら?」
「一応水は出るよ。お湯がいるなら自分で沸かしておくれ」
「わかったわ。――ここにするわよ」
マジかよ。
「おつれさんとは部屋は別々にするかい?」
「そうすると倍かかるでんしょ? 一部屋で結構よ」
マジかよ!?
「おいサヤ。俺はおまえとは別の部屋がいいんだが……」
「却下よ。お金がもったいないわ」
こいつと同じ部屋とか全く休める気がしないんだが……。というかこいつは俺と同じ部屋でいいのか。普通はおまえの方が、一人がいいと主張するもんじゃ無いのか。
二階に上がり、指定された部屋に入るとまずその狭さに驚く。ベッドが三つ並ぶかどうかと言う狭さで、しかもテーブルすら無く室内にはベッドが一つあるのみだった。しかも全体的にほこりっぽくて部屋が汚い。
「き、機能的でいい部屋ね」
「おい、笑顔が引きつってるぞ」
こんな汚くて狭い部屋に、しかも俺たちは二人で泊まらなければならない。地獄だった。
「と、とりあえず汗を流してこようかしら……」
「あっそ。俺はまだいいや」
サヤが出て行った後、俺はベッドに寝転んだ。なんかかび臭くて寝心地は最悪だった。絶対疲れとれないだろこれ。
こんなんなら、もうちょっと高くても、ここよりいいところに泊まった方が、しっかりと休めて、次の依頼でも力を発揮できると思うが。
茶色いシミが付いた天井を眺めていると、床の方からサヤの悲鳴が聞こえてきた。
何かあったのか?
というか床板薄いな。この宿本当に大丈夫か。
俺は様子を見るために一階へと降りて、浴場の方へと向かう。なんと浴室は男女共用らしく、入り口が一つしか無かった。俺は躊躇いがちに中をのぞき込む。狭い脱衣所には誰もいない。そのまま奥に進んで行こうとした次の瞬間、浴場の扉が開き、サヤが出てきた。もちろん浴場に入っていたわけだから、その身には何一つ纏っておらず、色白の肌を惜しげも無く晒しだしていた。
「きゃあ!?」
サヤは俺に気づくと短く悲鳴を上げてその場でうずくまった。そして、恥ずかしそうに顔を紅く染めながら上目遣いに睨み付けてくる。
「な、なんであんたが、ここにいるのよっ!」
「いや、なんかおまえの悲鳴が聞こえたから様子を見に」
俺がそう言うと、てっきり必要ないとか、今すぐ出て行けとか怒鳴られると思っていたのだが、意外にもサヤは怒りを沈め、躊躇いがちに尋ねてきた。
「もしかして、私のことを心配して来てくれたの……?」
「そうだけど」
「そう。……えーと、服を着たいから外に出てもらえないかしら」
「あ、ああ。わかった」
俺は何故か態度がずいぶん軟化したサヤに疑問を抱きながら、浴場の外に出た。
※本文中の硬貨について
銀貨1枚≒1000円
銅貨1枚≒100円
くらいのイメージで書いています。
次回の投稿は明日の予定です!




