第六十九話 偽名が……
第六十九話です。
よろしくお願いします!
「――で、なんでおまえはついてくるんだよ」
「私が何しようが、私の勝手でしょ。あんたに命令される筋合いはないわ」
宿屋を出て、再び森に向かおうとすると、サヤがついてきた。安静にしていろと言われているのにも関わらず、魔物と戦う気満々で。
「もう、どうなっても知らないぞ」
「私のことは私が責任を持つから、放っておいて」
そこまで、自分のやりたいようにやらせろと言うのならもう何も言うまい。というか何を言っても効く耳持たないだろう。
再びアルティリスから出ると、俺は昨日の森へと向けて歩いて行く。その後ろを、少し離れた距離からサヤが付いてくる。
本当、どうしたものか。放っておけと言われても、実際にサヤが魔物にやられそうになっていたら見殺しになんて出来ないから俺は助けてしまうだろうし、そもそもサヤの実力では複数の魔物を同時に相手するというのは少々荷が重い。
一対一ならサヤでも勝てると思うのだが、獣種の魔物は単体で現れることは無い。以前にビスカに訊いたところによると、魔物は基本的には集団で人を襲うらしい。例外もいるが、それは知性を持っている種類の魔物のみだと聞いているから、今回の獣種の魔物は該当しないだろう。だから、必然的に今回は一度に大量の魔物を相手にしなければならない。
考え事をしながら進んでいくと、昨日魔物と戦った場所にたどり着いた。討伐した魔物は幸いそのまま残っていたが、半日経った所為か鼻がもげそうなほど強烈な腐臭が漂っている。
「最悪……」
鼻をつまんだ状態でサヤが魔物の死体を剣でつつく。するとサヤの剣の先に腐った魔物の血と肉がこびり付いた。
「う……ちょっとこれ、拭いてくれない?」
「断る。自分で拭け。……いやまて、剣がもう汚れたって言うんなら、おまえがその剣で討伐部位を切り取ってくれ」
「はあ? 嫌に決まってるでしょ! こんな汚いの、もう触れたくない!」
「そんなんでよく、魔物狩りのギルドに入ろうなんて思ったな……」
テコでも動かない構えを見せるサヤ。俺はため息交じりに討伐部位である魔物の尻尾の回収を始める。
鼻から空気を吸ってしまうと、魔物から漂う腐臭が脳みそにまで染みこんでしまいそうな気がして、俺は顔に布を巻いて口で呼吸をしながら作業する。
俺が無言でひたすら尻尾を切り取っていくと、サヤが俺の様子を見ながらそわそわし始めた。
俺が何かと思い視線を向けると、サヤは顔を背ける。
いったい何だ……?
作業に戻るとまたしてもサヤは俺のことをじっと見てくる。
「……やっぱりおまえもやりたいのか?」
「べ、別にそんなんじゃ無いわよ。ただ、ちょっと手持ちぶさたなだけで……」
「おまえ、俺に借りを作りたくないとか言ってなかったか? これ、どう考えても俺に借り作ってるよな」
「う……。だって、そんな臭いの私には無理だもん」
「……わがままな奴」
俺が作業を再開しようとすると……。
「で、でも、どうしても手伝ってほしいって言うんなら。手伝ってあげてもいいけど……」
サヤが躊躇いがちにこちらに視線を向けてくる。
結局手伝いたいのかそうでないのか、どっちなんだよ。めんどくさい奴だな。
サヤの方を見ると、俺のことをじっと見つめている。
俺が無視して作業に移ろうとすると、サヤが不満げに顔を引きつらせた。
……ああ、手伝いたいのか。
「……じゃあ、たのむわ」
「し、しょうがないわね!」
サヤは口では嫌々といった風を装いながら、何故か手際よく顔に布を巻いて尻尾を切りにかかる。しかし――。
「うっ……」
「おい、吐くなよ」
「は、吐かないわよ! ……っぷ」
どう見てもヤバそうなんだが……。
しかし、サヤは嘔吐きながらもなんとか持ちこたえて、尻尾切りを再開する。
あれだけ文句を言っていたくせに、作業を始め出すと、思いの外真面目にサヤは取り組んでいた。俺はますますサヤという少女のことがわからなくなった。サヤの行動に一貫性が見いだせない。
「これ、まとめて入れておく袋がほしいわね」
数本の魔物の尻尾を手にしたサヤがそんなことを言った。
気軽な感じで、俺に。
そういえばこいつ、前は俺に対して気軽に話しかけるなとか言っていたよな。それなのにこいつは俺に普通に話しかけてきてるよな。いつからだ? こいつが俺に普通に話しかけてくるようになったのは。
「……聞こえてないの? これ、切ったやつはどうすんのよ?」
「……そこら辺に置いておいてくれ。俺がまとめて持って帰るから」
「そう。わかったわ」
サヤは持っていた魔物の尻尾を一所にまとめておくと、再び作業に戻った。
いつからかと考えてみれば、魔物に襲われた頃くらいから、普通にサヤは俺に声を掛けてきていたな。でも、あれは緊急事態で焦っていたからということも考えられる。なら、宿屋で目を覚ました時くらいからか。……なるほど。となると、さすがに命を助けられておきながら恩人を無視し続けることはでき無くなったってところか。あれだけ不遜な態度を取っていたサヤでも、それくらいのまともさはあったという訳だな。
二人がかりで行ったからか、思っていたよりも早く魔物の尻尾を集めることが出来た。その数は三十三本。依頼数は見事に達成していたことになる。
「さて、それじゃ、この尻尾をっと……」
俺は手のひらサイズの小袋を取り出すと山のように積み上げられていた魔物の尻尾を次々と収納していく。
「え……? 何よその小袋は。今、明らかに許容量以上のものが入っていたわよね?」
「ん、ああ……これは、空間拡張の魔法を施した小袋だからな」
「空間拡張……?」
サヤが疑念に満ちた顔をする。
「なんだよ?」
「……あんた、名前なんだっけ?」
「クロ、だけど」
「それ、偽名よね?」
「え……?」
「あんた、本当はクロンって名前でしょう?」
「な、なんで……」
「今この大陸で空間魔法を使える人物は一人しかいないのよ。……あんた、指名手配中の契約者クロンなのね」
サヤは剣を引き抜くと、俺に向かってその切っ先を突きつけてきた。
やべえ、油断しすぎて契約者だってバレてしまった。
しかも、顔まで見られてしまった。
今までは、名前がバレてても顔をほとんど知られていないから特に困ったことは無かったが、顔がバレたとなると、いろいろヤバくなるぞ……。
俺は、向けられた剣を見据えながら、どうしようかと考えた。
次話は明日投稿予定です!




