第六十八話 理解不能
第六十八話です。
よろしくお願いします!
魔物退治に出かけた翌朝。宿屋に借りた部屋では、一つしかないベッドの上でサヤが寝息を立てている。
魔物の死体を放置して、すぐさまアルティリスに戻って医者に見せたのがよかったのか、サヤは無事一命をとりとめていた。死んでさえいなければ、治癒術師の魔法によって傷を回復させることが出来る。ただ、一応傷は塞がったとはいえ、完全にというわけにはいかないし、体力だってかなり失われてしまっているから二、三日は安静にするようにと言われていた。
これではサヤは魔物狩りの依頼をこなすことはできないだろう。こうなっては後でもう一度森に入って一人で獣種を狩るしかない。ただ、都合よく三十体も出てきてくれればいいが……どう考えても依頼対象に設定されていたのって、さっき殺したあの集団の事だろうし……まだ、あれほどの数があの森にいるのだろうか……いてくれないと、依頼が達成できないんだが。
まあ、昨日殺した魔物たちの死体がまだ残っていれば、改めて狩る必要は無いんだけど……。
でも、森には他にも魔物ではない普通の獣もいるだろうし、死体が転がっていたら喰われてしまっているかもしれないからな。あまり期待はできない。
「うっ……ここは?」
俺が依頼について考えていると、どうやらサヤが目を覚ましたらしい。
「ここは、宿の中だ」
「は……? どういうこと?」
「おまえは、森での戦闘中に獣種の魔物にやられて気を失ったんだよ。しかも重傷を負っていたから仕方なく俺が宿まで連れてきて、それから治癒術師の人呼んできておまえを治療してもらった」
「そう……」
サヤはそう言って上半身を起こす。そして、あることに気が付いた。
「ねえ、私の着ているものが変わっているんだけど」
「血だらけで汚かったから着替えさせた」
「え……まさか、あんたが……?」
「安心しろ、俺じゃない。着替えさせたのは治癒術師のおっさんだ」
まあ、おっさんがおまえを着替えさせてるのを、俺は傍で見てたけど……それは言わなくてもいいだろう。世の中には知らなくてもいいことがたくさんあるからな。
「おっさんって……それはそれで、嫌なんだけど……」
サヤが不機嫌そうな顔をする。
「それで、依頼はどうなったのよ?」
「ああ、途中で放棄した」
「は……? 何やってんのよ!」
「仕方ないだろ。おまえが死にかけてたんだから」
「……私の事なんて、放っておけばよかったのに」
「そんなことできるかよ」
「どうしてよ……あんたにとって私なんて、ただの邪魔な足手まといなんでしょ」
サヤが力なく呟いた。その時、一瞬見せた辛そうな顔が気になった。やっぱり足手まといだと言ったことを気にしているんだろうか。
「……悪かったよ」
「え……?」
「足手まといなんて言って悪かったな。俺も、あんな数を相手にして、テンパってたんだ。だから、ついそんな言葉が口をついてしまったんだ。別にあの時はおまえが特別足を引っ張っていたわけじゃない」
「そう……なの?」
「ああ。だから足手まといなんて言ったことは忘れてくれ」
とりあえずそう言っておいた。実のところ普通に足手まといではあったが、それをあえて口にするのは大人げなかったと思う。たぶん年下であろう少女に対してそんなことでは、やっぱり男として駄目だろう。
俺が足手まとい発言を撤回すると、てっきり前みたいに不遜な態度で何か言ってくるかと思いきや、サヤは何故か安心したように顔をほころばせた。そして、何かを決心したように頷くと、サヤは俺に向き直る。
「……悪かったわね」
「は……?」
「足手まといじゃなくても、私が魔物にやられてしまったせいで、依頼に支障をきたすことになってしまって」
「ああ、いや、別にいい。また狩ればいいだけだし」
「そう。なら行きましょう」
「え……?」
サヤはベッドを出ると傍に立てかけてあった自身の剣を腰に着ける。
「行くってまさか、今からか?」
「そうよ。だって依頼の期限は明日までのはずでしょ?」
「いや、そうだけど、おまえは無理だろ。まだ傷だって完全に塞がったわけじゃないし、体力だって」
「構わないわ。……これ以上あんたに借りを作りたくないし」
どうやらサヤは今から本気で魔物狩りに行くつもりらしい。そんな身体で来られても、おまえを守りながら戦わなきゃいけなくなるし、普通に迷惑なんだが。むしろ俺に対する新たな借りが増えることになるだけなんだが。
「おまえは休んどけよ。その身体じゃ無理だ」
「大丈夫。私はやれるわ」
自信満々に言い放つサヤ。こいつ、本気でそんなこと思ってるのか。絶対にまた足引っ張るだろうが。
「……いや、邪魔だから。わざわざ言わせないでくれ」
「え……邪魔? だって、さっき足手まといじゃないって……」
「あれは……いや、怪我をした今のおまえじゃさすがに足手まといなんだよ」
「でも……」
まだ食い下がろうとするサヤに俺は苛立ちを覚えていた。こいつ、本当に何を考えているんだ。最初のころは俺のことを下賤なやつとか言って蔑んできて、魔物だって俺に押し付けようとしてきたのに、今度は求めてもいないのに、一緒に戦おうとしてくる。こいつの思考回路が意味不明なんだが。
いや、待てよ……。
「おまえが気にしてるのは報酬か?」
「え……?」
さすがに全部俺が一人でやったら、報酬を自分はもらえなくなるのではないかと思って焦っていたのか。なるほど、それなら納得できる。
「そんなに焦らなくても報酬は半々にしてやるよ」
「ちが、私はそんなことを気にしてたんじゃ……」
「じゃあ、とりあえず俺は魔物狩りに行くから、おまえはベッドで寝てろよ」
俺はそれだけ言い残すと、何か言おうとするサヤを置いてさっさと宿から出ていった。
次話は明日投稿予定です^^




