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第六十七話 足手まとい

第六十七話です。

よろしくお願いします!

 襲い掛かってくる無数の魔物たちの牙を躱しながら俺はサヤに尋ねる。


「他に、何か使える魔法はないのか?」

「私は精神干渉系の魔法しか使えないのよ! でもこいつらには、それが効かなくて……」


 もしかしたら文字通り獣のごとく単純に向かってくるこいつらは、干渉するほどの大層な精神など持ち合わせていないのかもしれない。だから、サヤの精神干渉系の魔法も全く効果がないのかもな。


「じゃあ、剣技だけでこいつらを何とかするしかないな」

「む、無茶言わないで! こんな数相手じゃ、まともに攻撃なんてできないわよ!」


 必死になって攻撃を躱しながらサヤが叫ぶ。

 いや、俺は別に攻撃もしようと思えばできるけどな。


「じゃあ、おまえは完全にただの足手まといというわけか」

「え……?」

「さんざんデカい態度取っておきながら、勘弁してほしいな」

「う……」


 今まで向けられてきた態度に対する意趣返しのつもりで冷たく言い放つと、サヤは悔しそうに唇を噛みしめた。


「……なら、私のことなんて放っておけばいいじゃない」

「は……? いいのか? たぶんおまえ死ぬぞ?」

「……ここで、死ぬなら、私は所詮それまでの存在だったってことよ」


 サヤは覚悟を決めたような強い瞳で俺のことを見返してきた。その強く気高い瞳には何故か放っておくことのできない輝きを感じた。見つめられると、心の底から湧き上がってくる感情に魂を震わされる。


 サヤはあえて俺から離れるように魔物の群れに斬り込んでいった。しかし、いかに決意を固めたところでそう簡単に剣の実力が上がるというものでもない。獣種の魔物が放つ爪や牙による攻撃が、容赦なくサヤの身体を抉る。その度に鮮血が舞った。しかし、サヤは歯を食いしばり、剣を振り続ける。


 なんなんだこいつは……。

 なんでそんなになってまで、戦い続けるんだ。

 

 俺は空間魔法で全方位の敵の動きを完璧に把握し、無駄なく的確に、自分の周りにいた魔物たちを一掃する。やはり、俺からすればこの程度の敵なら、全くたいしたことは無かった。正直なところ、『塔』で最初に戦った亜人種の魔物の方が、この獣種の魔物より十倍は強い。


 一通り獣種の魔物を片づけると再びサヤの方へと視線を向ける。戦いながらも空間魔法による感知で生きていることは確認していたが、すでにサヤはボロボロになっていた。美しい金色の髪は自身の血がこびり付いて赤く染まり、生意気そうだった顔つきは苦しそうに歪められ、乱れた呼吸が肩を激しく上下させている。

 それなのに、先ほどはあれだけ俺に魔物を押し付けようとしてきたのに、俺が足手まといだと言ってからは、全くそんな素振りを見せなくなった。今も限界は近いはずなのに、俺に助けを求めようともしない。


 本当に、死ぬまで一人で戦うつもりなのか。


 もしかして、足手まといだって言ったことをそんなに気にしているのか。だとしたらこいつは、とんだ意地っ張り女だ。どれだけプライドが高いんだよ。それは命を懸けるほどのものなのか。


 俺には到底理解できない話ではあるが、何故か一人で戦い続けるサヤの姿には心を打たれるものがある。先ほども感じた、放っておけないという気持ちが俺の中で徐々に膨れ上がってきているのがわかる。


 俺はやっぱり、こいつのことを助けたいんだろうか。


 あれだけ邪険に扱われたのに、先の二次試験の時のように、俺の心は何故かサヤを救いたがっている。

 足が、サヤの下へ向かいたがっている。

 手が、サヤを助けるために剣を振るいたがっている。


 するとサヤが、ついに獣種の魔物の攻撃を躱しきれずにまともに喰らって吹き飛ばされた。地面に転がったサヤは起き上がらない。そこへ獣種の魔物たちがここぞとばかりに、うつぶせに倒れたままのサヤに殺到する。


 このままではサヤは獣種の魔物たちに無残に喰い殺されるだろう。

 だが俺は、そんな光景を黙って見ていることはできなかった。


 空間の固定化を使い、一瞬だけ獣種の魔物たちの動きを止めると、俺はサヤの前に走り込んで、魔物たちを迎撃する。

 さすがに倒れたままのサヤを守りながら戦うのは至難の技だったが、空間魔法による感知をフルに使って、サヤに飛びかかろうとする魔物を優先的に始末していく。そうすることでなんとかサヤを守り通すことはできたが、自分に襲い掛かる魔物への防御が手薄になり、何度か攻撃を受けてしまった。結局すべての魔物を始末し終えることには俺も全身に無視できないほどの裂傷を負う羽目になった。


「ふう……やっと終わったか。ずいぶんてこずったが、依頼数分は始末できただろ」


 周りに転がる獣種の魔物の死体は三十を優に超えている。後は依頼書に書いてあった確認用の討伐部位である尾を斬り取ってギルド本部に持っていけば報酬がもらえるわけだな。

 

 あたりに散らばった魔物の死体をもう一度見回す。

 こいつらから全部尻尾を切り取るのか。それはそれでめんどいな。


「そうだ。サヤ、大丈夫か?」

 

 俺は倒れたままのサヤに声を掛ける。しかし、反応は返ってこない。

 身体をゆすっても反応なし。

 仕方なくひっくり返してみると、わき腹のあたりに折れた魔物の爪が突き刺さっていて、そこから血が流れ出ていた。


「マジかよ。これ、ひょっとしてマズい状態だったりするのか?」


 流れ出る血は止まらず、サヤは荒い呼吸を繰り返している。

 どう見ても、重傷だ。


 俺は一瞬、辺りに散らばっている魔物の死体を見て、考える。

 これ、討伐部位を全部切り取っている時間はないよな……。


「仕方ない。イスカリオルにはもう少しだけ皿洗いでもしていてもらおう」


 俺はサヤを抱き上げると、魔物の爪が刺さった患部を押さえて、これ以上血が流れ出ないようにしながら、急いでこの場を後にした。

次話は金曜日に投稿予定です!

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