第六十六話 獣種の魔物
第六十六話です。
よろしくお願いします^^
俺はすぐさま小屋の扉を閉じた。
「何……?」
サヤが訝し気な顔を向けてくる。
「その男はいきなり倒れて、どうしたわけ?」
「死んでる」
「え……?」
「でもって、外は大量の魔物に囲まれていた」
正確に数えられたわけではないが、かなりの数だった。あれは三十とか普通に超えてるんじゃなかろうか。それならそれで、一気に依頼を完了させられて楽なんだが、その反面、一度にあの数を相手にするとなると問題がある。
サヤをどうしようか。
あの数に一斉に向かってこられたら、こいつ、死ぬんじゃね。
正直剣技はたいしたことないし、試験で使っていた魔法は一対一の時用みたいな感じだったんだよな。
ああ、でも路地裏で数人まとめて倒していた魔法があったな。それがいったいどんな魔法なのかわからないが、それを使えば何とかなるかもしれないか。
そんなことを考えていると小屋のそこかしこから、ぶつかるような音がし始める。おそらく魔物がこの小屋の壁を突き破ろうとぶつかってきているのだろう。
サヤが小さく悲鳴を上げて、剣を抜く。
「ど、どうするのよ? こんな狭い小屋の中に入ってこられたら、まともに剣なんて振るえないわよ!?」
サヤは焦った様子で、先ほどまでことごとく無視してきた俺に問いかけてくる。
少し怯えたような様子を見てると、ちょっといい気味だなと思う。
だけど、やっぱり何故か、サヤが困ったような顔をしていると何とかしなくてはという感情が湧き上がってくる。うーん、解せない。
俺はとりあえず、空間魔法の初歩である空間の固定化によって小屋の壁の強度を上げてみたが、やはり俺だけの力では大した強化になっていないようだ。度重なる魔物の攻撃によって、壁が軋む。
もう、この小屋はそれほど長くはもたないだろう。
「ちょっと、黙ってないで、何か考えなさいよ!」
「とりあえず外に出れば、多少は戦いやすくなるんだよな」
そこで俺はふと、あることに気付く。
壁を突き破ろうと続けられている魔物たちの攻撃が、何故かサヤの傍にばかり集中している。というか、俺のいる扉側からは魔物が攻撃を加えてきている気配がない。
俺は気になって扉を一瞬だけ、わずかに開けて確認する。やはりそこには魔物の姿はなかった。
「どういうことだ?」
「何? 何か思いついたわけ?」
「いや、外にいる魔物たちが何故かおまえの方ばかりに集まっているんだが」
「はあ!? なんでよ!?」
「俺が知るかよ。おまえ何か匂ってるんじゃないのか?」
「あんた、し、失礼ね! そんなわけないでしょ! ここに来る前に水浴びだってしてきたし」
そういえばこいつ、依頼受けてからすぐに、一時間後に門に集合とか一方的に告げて姿をくらましやがったが、あれは水浴びしに行っていたのかよ。
しかし、だとすると何故だ。
「魔物はうまそうな方に寄ってくるのか」
「馬鹿なこと言ってないで早く何か考え――ひっ!」
サヤが叫んでいる途中で、ついに壁の一部が破られて、魔物の凶悪な顎が垣間見えた。たまらずサヤは悲鳴を上げる。
「でも、なんでなんだろうな」
「そ、そういえば私、以前に、聞いたことがあったわ。魔物は存在の力を感知して襲ってくるって……」
「なるほど、そういう事か」
俺は存在の力が圧倒的に少ない。何なら余命数年を宣告されるレベルで、だ。イスカリオルによって多少は存在の力を安定させてもらったので、以前よりはましになったが、それでも未だ俺の存在の力はだいぶ薄い。それに今は圧倒的な存在の力を内包しているイスカリオルを連れていない。だから、魔物どもは俺ではなく、より存在の力が濃いサヤの方に向かっているのか。
「ともあれ、こっちに魔物がいないのは罠ではなく、単に存在の力が俺より濃いサヤの方に集まっているからってことだったんだな」
「そんなことが分かったからって、何だっていうのよ!」
「いや、こっちががら空きだから、外に出られるぞって話し」
「そ、それを早く言いなさいよ!」
言うが速いかサヤは駆け出し、何なら俺を突き飛ばして小屋の外に躍り出た。
っておい。おまえが先に出たら……。
案の定、小屋を攻撃していた魔物たちが、外に出てきたサヤの方へと群がっていった。
「いやっ、何なのよ、こいつらっ!?」
あとから出てきた俺には見向きもせずにサヤを攻撃しまくる獣種の魔物たち。
多勢に無勢のため、すぐさま劣勢になるサヤ。
獣種の魔物は凶悪な大顎の他に、鋭い毛並みと爪が武器となっており、サヤは大顎による攻撃は死に物狂いで躱しているが、多数の魔物が繰り出す爪などによる攻撃までは躱しきれず、徐々に傷つけられていく。
「このままじゃ、さすがにマズいか」
俺はサヤに近づきながら、俺に背を向けている魔物たちを次々に仕留めていく。
てっきり亜人種の魔物のように硬いのかと思いきや、そういう事もなく、普通に俺の安物の剣でも刃が通った。防御力はたいしたことがないようだ。
というかこいつら、単体での強さはそれほどでもないな。まあ、大顎による攻撃力と数の多さは厄介だが。
俺は涙目になりながら必死に戦っているサヤの下へ駆けつける。
「苦戦してるのか? 得意の魔法を使えばいいじゃないか」
「もう何度も使ってるわよ。でも、こいつらには何故か効かないのよ!」
「効かない?」
魔物には魔法が効かないのか?
いや、そんなことは無いだろう。『塔』でも異端審問官は亜人種の魔物に魔法も使って攻撃していた気がするが……。
「こっちにばかり来る魔物に、あんたの方に行くように思考誘導の魔法をかけたのに、全然効かないのよ!」
「そんな魔法かけてたのかよ! 最低だな!」
俺に魔物を押し付けようとしていたのかよ。
こいつ、本当にブレないな……。
しかし、魔法が効かないとなると、こいつ、マジでただの足手まといなんだよな。
どうしたものか……。
二十体以上いる魔物を見ながら、俺はどうやってこいつらを始末しようかと思考を巡らせた。
次話は水曜日に投稿予定です。




