第六十五話 七三
第六十五話です。
よろしくお願いします^^
「よし、おまえら。オレに付いてこい」
ダイナスが俺と金髪少女に呼びかける。
「なんだ?」
「早速これからおまえらには依頼に行ってもらう。魔物退治だ」
「え、いきなり魔物退治に行くのか」
「そうだ。……あと、『鮮血の五芒星』に入るんなら、オレにはため口を利くな」
「わか……りました」
俺は頷き、試験場から出ていくダイナスの後に付いていく。俺の後には金髪少女が続いた。
ギルド本部の会館に戻ると、ダイナスは受付に向かった。
「おい、今新人に任せられる依頼はあるか?」
「おお、頭、帰ってたんすね。依頼は……簡単なのが一つと、あと新人にはちょっと厳しいかもしれないのが一つあるっすね。
「じゃあ、厳しい方をこいつらに受けさせてやってくれ」
「了解しやした」
受付の男が俺と金髪少女の方へ向き直る。
「ギルドカードを作るから名を名乗んな」
「俺は……クロ」
指名手配されていることを考えて、本名を名乗るのは避けておいた。とは言ってもあんまり本名と変わらないけど。
「おまえは?」
「……サヤ」
金髪少女は受付に尋ねられて、サヤと名乗った。なんか変わった名前だな。もしかしたら、俺と同じように偽名なのかもしれないな。
「よし、じゃあこれからは依頼を受けるときにはこいつを持ってこい。それと今回の依頼はもうおまえらが受領したことにしておいたからな」
そう言って、手渡された手のひら位の大きさのカードを見てみる。ギルド名と名前が書かれたシンプルなカードだった。
「じゃあ、行ってこい」
ダイナスは俺たち二人に向かってそう言った。
「行ってこいって……私はまだ依頼をもらっていないんだけど」
「は、おまえら二人で今の依頼をこなすんだよ」
「え……? なんで私がこいつと一緒なのよ!」
サヤが不満そうに口をとがらせる。
「新人には厳しい方の依頼にしたからな。危険かも知れんし、二人で挑んでこい」
ダイナスがギルマス命令だと言うと、サヤは依頼を二人で受けることに渋々了承した。
マジか……こいつと組んで魔物狩りに行かなきゃいけないのかよ。
まあ強さ的には……魔法さえ使ってくれればそれなりに戦力にはなると思うけど、正直俺に取っては足手まといなんだよな。
「……何よ?」
俺が嫌そうな顔をしていたのがバレてしまったのか、サヤに睨まれた。いや、思い返してみれば、こいつには睨む以外の視線を向けられたことが無いから、これは別に普通のことか。
「別に。まあよろしく」
「……仕方が無くあんたと組むけど、必要以上に話しかけてこないで。あと、私の足を引っ張らないで」
足を引っ張らないでって、それはこっちの台詞なんだが……と言いたいところだけど、ただでさえ雰囲気が悪いのにこれ以上悪化するようなことは言わないでおこう。俺、大人だから。
俺たちは渡された地図に書いてある場所へと向かう。その間、俺たちの間では一切会話なし。これ、戦闘時の意思疎通とか大丈夫なんだろうか。
まあ、二人で受けろとは言われたが、二人で協力しろとは言われなかったし、俺一人で魔物をやってもいいが……あれ、でもそうなると報酬ってどう分けるんだ?
「なあ、ちょっといいか」
俺は報酬の分配について話そうと思ったんだが、案の定サヤは俺のことを華麗に無視しやがった。
「報酬の分配の件だけど……」
「……七三」
「は……?」
「私が七で、あんたが三」
「なんでそうなるんだよ? こういうときは普通半々だろ?」
俺は抗議するが、サヤからの返事は無かった。
こいつ、自分の言いたいことだけ言ったら後は無視かよ。ほんとやりづらい。魔物と戦う前からげんなりする。というか七三とかおかしいだろ。百歩譲って七三だとしても強さ的に俺の方が絶対に多く魔物を狩るんだから七は俺の方だろ。
結局、報酬についても七三と言ったきりサヤには無視され続けたまま目的地付近にやってきた。
ここはアルティリスから数時間歩いた先にある、ランス王国とサイロン公国の国境沿いに位置する森の中である。街中に植えられているような人工樹とは異なり背の高い木々が乱雑に生い茂る深い森。その先に今回の依頼の討伐対象である魔物がいるらしい。詳細はギルド本部で依頼書をサヤにひったくられてしまったので、詳しく読み込めていない。
「どんな魔物を狩ればいいんだ?」
「獣種の魔物三十体とあるわ」
「そうか。じゃあ報酬の割合的に俺が――」
「あんたが二十一体で、私が九体狩れば終わりね」
「おい! それ割合が逆だろ!」
しかし、またしてもサヤは自分の主張だけ口にすると、後は無視。俺の声には一切反応しない。
抗議する俺を一切気に掛けず、サヤはそのまま森の中へと踏み込んでいく。
仕方が無いので俺もサヤの後に続き森の中に入って行った。
ざくざくと枝葉を踏みしめ、歩いていると、視界の先に小さな小屋が見えてきた。もしかしてこの森って人が住んでいるのか?
「調べてみるか?」
俺が尋ねるとサヤは特に返事も無く小屋の方へと歩いて行く。本当うんともすんとも言わねえな。
俺、もうこいつとは絶対一緒に依頼受けたくないわ。
小屋の中にはつい最近まで人がいたような形跡があった。しかし、肝心のその人はどうやら今はいないらしく、小屋の中は無人である。小屋の中には弓などの狩猟道具が置いてあることから、ここの家主は狩りを生業にしているのだろうと考えられる。
というか、勝手に入っちゃったけどいいんだろうか。
サヤの奴は干してあった果物に手を伸ばして勝手に喰ってる。いやいや、それはさすがにまずいだろう。家主帰ってきたら怒られるぞ。
すると、唐突に小屋の扉が開かれた。
その音に反応してサヤはさっと手に持っていた果物を後ろに隠す。さすがに悪いことだという認識はあったんだな。でも、もう手遅れだと思うけどな。扉が開いた瞬間には、サヤが果物を食ってるところは、ばっちりここの家主らしき男の目に映っていただろうし。
扉を開けて帰ってきた家主の男は、目を見開いた状態で固まっていた。
そりゃそうか。家に帰ってみたらいきなり見知らぬ男女がいて、しかも女の方が果物を勝手に喰ってるんだもんなあ。そりゃ、驚いて固まっちゃうのも無理ないよな。
「あの、実は俺たち、ここら辺の魔物を狩るように依頼を受けた者でして……え?」
俺が弁解しようと言葉を述べていると、家主の男はいきなりうつぶせに倒れた。
「あの、大丈夫ですか……って、おいおい、マジかよ」
家主らしき男は、すでに死んでいた。背中には何かに抉られたような痕があり真っ赤に染まっていた。そして、小屋の外を見ると血の跡が道の奥まで続いている。
「いったい何があったんだ……?」
その答えは、時を置かずして、小屋の外にのっそりと現れる。
四つ足で大顎に凶悪な牙を並べた大量の獣種の魔物たちが、こちらをじっと窺っていた。
次話は明日投稿予定です。




