第五十八話 城塞都市アルティリス
第五十八話です。
よろしくお願いします^^
森を抜けて半日ほど歩くと、ようやく都市が見えてきた。あれはランス王国の国境にある城塞都市のひとつ、アルティリスというらしい。途中で出会った行商人の話によると、もともとは軍が駐屯するための砦のような場所だったらしいのだが、サイロン公国と戦争をする機会が全くやってこず、集めた物資などを少しずつ解放していくうちに人が集まるようになって一つの都市となったらしい。そのため、あまり洗練された造形とは言えず、継ぎ足しが目立つ城壁や、雑多なつくりの街並みが特徴的な都市らしい。
「治安もあまりよくないらしいな。最近ではならず者も増えていると言っていたし」
「なに、心配いらんじゃろ。儂もおるし」
「いや、それはそれで、別の意味で心配なんだが」
いくら精霊とはいえ見た目は完全に童女だ。童女を連れて治安悪い街を歩き回るなんて周りからどんな視線を向けられることやら。
「なあ、おまえ、街にいる間は俺の中に入っておかないか?」
「なんじゃ、儂と一つになりたいのか?」
「その言い方はやめろ」
うっかり誰かに聞かれでもしたら、変な誤解をされるだろうが。
「まあ、お断りじゃ。なにせ儂は外の世界を直に見て回りたくてわざわざお主のようなよくわからん小童と契約したのじゃからな」
「小童って……」
見た目が俺より幼いガキに言われたくない。まあ、実際には俺なんかよりもめちゃくちゃ年増なんだろうけれど。人間換算したらいったい何百才なんだろうな。前に五百年前にあの森の家にいたって話していたから、少なくとも五百才を超えていることは間違いないだろうけど。
アルティリスの門は大きく開かれたまま、人々が自由に出入りしていた。俺たちも人の流れに紛れて、何食わぬ顔で都市の内部に入り込んでいく。
「言っておった通りごちゃごちゃしておるの」
「そうだな。人も多いし……ガラの悪そうなのも一定数いるな」
ふと街角に視線を向けると、レザーの防具に剣を腰に下げた男が、槍を抱えた禿げ頭の男と口論している。いずれも悪人面で、その言い合いは一体どっちが悪いのか、はた目からは判断がつかなかった。巻き込まれるのを恐れて周囲の人も彼らを避けるように歩いていく。
少し歩けば別の場所でもガンを飛ばしてきただのなんだのとつかみ合いのケンカをしている奴らもいる。どうやらここは、話に聞いた通りなかなかに治安が悪い街らしい。
「原因はあれかの」
「ん、あれってなんだ?」
イスカリオルが視線を向けた先には大きな建物があった。よく見るとガラの悪そうな男たちが出入りしたりしていた。
「あれは魔物狩りギルドじゃろうな。あそこに所属する人間は乱暴者が多い印象じゃ」
「なるほど……そういえばあんな感じの建物がやけにこの街には多いよな」
先ほどからちらほら、それらしき建物は俺も見かけていた。
「でも魔物狩りギルドってそんなにたくさんあるものなのか?」
「以前はあまり必要なかったから少なかったはずだが……しかし最近は内界をうろつく魔物が増えておるから、それに伴って魔物狩りギルドも増えたんじゃろう」
「そういう事か」
ちなみに魔物が増えたのはどうやら俺の所為らしい。この大陸にある『塔』を攻略した人数が四人に達したとき、残された『塔』からは魔物が溢れ出すらしい。そのため今大陸各地では『塔』の周辺各国がその対応に追われているようだ。
「で、魔物が溢れている状況を解決するために俺の命を狙っている奴がいるんだったっけ?」
「そうじゃな。精霊教を筆頭にランス王国とロムルス帝国ではお主のことを指名手配くらいはしておるじゃろう」
「ランス王国とロムルス帝国か。いずれも契約者がいる国だな」
「それ以外にも大国に同調する国はいくらでも出てくるはずじゃ」
どうやらこの大陸には俺が安住できるような居場所はどこにもないらしい。まあ、記憶を取り戻すために世界中を旅する予定だから別に構わないけどな。
「じゃが、まだ顔はほとんど知られておらん。力さえ使わなければバレることもないじゃろう」
「それならいいが」
顔がバレたらいよいよ俺は逃亡生活を送る羽目になるわけか。あまり時間がないし、そんな事態になるのだけは勘弁だな。
「ところで、儂はお腹がすいたのじゃが」
「ああ、そうだな。まずは何か食べながらこれからの方針でも考えるか」
「賛成じゃ。儂はやわらかい肉が食べられる店を所望するぞ」
「相変わらずだな。もしかして顎が柔なのか?」
「硬いより柔らかい方が噛んだとき幸せな気分になるじゃろう。ただの好みじゃ」
「ああそう」
俺はイスカリオルの希望に沿うような柔らかい肉を置いていそうな店を探す。とは言っても柔らかい肉が売っているかどうかなんて店に入ってみない事には知りようがないので、最終的には柔らかい肉が置いてそうな雰囲気の店に入ってみるだけだが。
「なかなかよさそうな店じゃの。おお、うまそうな肉じゃ」
「おいおい、他のお客さんの食事をのぞき込むな」
イスカリオルがアホみたいに他の客が食べている鍋の中を覗き込むもんだから、腕を引いて注意した。幸い客の方はイスカリオルのことを言葉遣いが少しおかしなただの子供だと思っているようで、笑って済ませてくれた。
「おまえ、ちょっと落ち着け」
「すまぬ。つい、いい匂いがしたから」
「子供かよ……」
超超超後期高齢者だよなおまえ。それとも、もしかして見た目同様に中身の方も全く成長していないのか。
「じゃあ、頼むぞ。さっさと席に着け」
「うむ。ようやく久々に人間が作る食べ物を食べられるのう。楽しみじゃ」
まあ、俺も料理なんてできないから、あの家では狩りでとらえた獣を切って焼くか、切って鍋で煮るかしかしなかったからな。まともな料理は俺も久々だ。
そして、イスカリオルの望み通りのやわらかい肉も食すことができ、森の外に出て初の食事は大満足だった。
だったのだが――。
「それじゃ、お代は銀貨三枚ね」
「あ……」
そういえば、俺の全財産って確か……。
懐を探って久々に取り出した硬貨袋の中にはやはり銀貨が一枚しか入ってなかった。
ヤバい……いきなりやらかした……。
やっとの思いで自由になり、森からも抜け出して、これから大冒険というときに、俺はどうやら無銭飲食をしてしまったようだ。
……えーと、どうしよう。
俺が硬貨袋をのぞき込んだまま固まっていると、店主の表情が次第に強張っていった。
次話の投稿は水曜日の予定です。




