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第五十七話 森の小屋にて

今日から第三章の投稿を開始します。

よろしくお願いします(^^)


※小説ホームのあらすじ修正しました。

 ランス王国南部、サイロン公国との国境付近の森の中には、忘れ去られたように長らく放置されていた小さな木造の家がある。人里離れた森の奥という事もあって、誰かが尋ねてくるという事もない。たまに道に迷った旅人の姿を見かけることもあるが、彼らはこの家に気付くことなく通り過ぎていく。

 まあ、それも仕方がない事だろう。

 何せこの家は外からは見ることができないのだから。


「そろそろ食い物が底をつくんだが」

「ならばまた狩りに行くしかないのう。ちなみに儂は野兎のやわらかい肉が食べたい」

「なら自分で捕まえてくれ」


 『塔』を攻略してはやひと月が過ぎようとしていた。本来ならすぐにでも記憶探しの旅に出ようと思っていたのだが、イスカリオルに引き留められた。

 なんでも俺の存在の力が乖離している現象を止めるためにはある程度の時間を費やして魔法にかけていく必要があるようで、その間は旅に出るなと言われた。

 別に移動しながらでもできるのではないかと思ったのだが、この魔法は割と高度な魔法で集中力が必要なため、気が散るようなことはしてほしくないそうだ。

 まあ、俺の命にかかわることなので仕方なしに了承し、俺は今、イスカリオルが昔立てた山小屋で生活していた。ちなみにこの家、五百年も昔に建てられたらしいが、特殊な魔法が掛けられているらしくほとんど経年劣化している様子はなくて、一応は快適に過ごせている。ただ、食べ物を自給自足で補う必要はあるが。


「儂はお主の延命のために頑張っておるのじゃぞ。野兎くらい喜んで献上せぬか」

「……わかったよ」

「では、儂はお主を延命させるための魔法の続きを行うのでな」


 そう言ってイスカリオルは光の粒子となって俺の中へと溶け込んでいった。

 もう何度も繰り返しているが、未だに身体の中に入られるという感覚には慣れない。イスカリオルに入り込まれると、なんとも言えない異物感を体内に感じて、若干気持ち悪いのだ。


『気持ち悪いとはあんまりではないか』

「しょうがないだろ。この感覚にはまだ慣れないんだから」


 おまけに考えていることが筒抜けというのも、勘弁願いたいところだ。


 俺は家を出ると、家全体を囲んでいた結界の一部を解除して外に出る。この家は外部から見えないように空間魔法を駆使して結界を張っている。そんなことをしなくてもこんな山奥に人なんかほとんど来ることは無いのだが、イスカリオルがどうしてもというので、誰にも見つかることのないように結界を張ったわけだ。


 ちなみに今の俺は魔法を使うことができる。とはいっても契約したイスカリオルが使える空間魔法を使わせてもらっているにすぎないけれど。しかも、実際のところはまだ全然使いこなせていないのが現状だ。これからは空間魔法の方も練習をしていかないとな。


 森の中を徘徊していると、鹿を見つけた。しかし、残念なことに鹿にも俺の姿を発見されてしまっていたようだった。意外と賢いのか、それとも野生のカンが働いたのか、鹿は俺のことを一瞬見ただけで、逆方向へと走り出す。迷いのない、いっそ清々しいまでの逃げっぷりだった。


「もちろん逃がさないけどな」


 鹿なら二、三日は食卓を彩ってくれる、貴重な蛋白源だ。俺的には野兎よりもよっぽど欲している食糧である。


 走って追いかけようとするがさすがにそれは無謀というもので、距離は縮まるどころかすぐに開き始める。


「ここは、空間魔法でも使っておくか」


 俺は逃げる鹿に向けて手をかざす。いくつか覚えた中で、一番簡単な空間魔法を発動した。


「〝空壁〟」


 すると前方を走っていた鹿がいきなり大きな衝突音を響かせて地面に倒れた。そして地面に横たわる鹿はピクピクと痙攣しており、脳震盪を起こしていた。


「目に見えない壁を作る魔法……使いようによってはえげつないなこれ」


 俺は鹿が衝突音を響かせた地点の空間を拳で叩く。コンコンと音が鳴り、何も見えない空間には確かに硬質な何かがあった。これが先ほど発動させた〝空壁〟である。


『今のは出会い頭に〝空檻〟を使えばよかったじゃろうに』


 頭の中にイスカリオルの声が響く。


「いや、俺はまだそれ使えないから」


 〝空檻〟というのは相手を透明の箱状の空間に閉じ込める魔法である。一度『塔』の中でイスカリオルに使われたことがあるから見たことはあるのだが、さすがに見たことがあるだけで再現できるような魔法の才能は俺にはない。


『精進が足らないのう』

「いや、俺今まで魔法なんて使ったことないし、自力でそんな速く会得できるわけないだろ」

『それもそうか。よし、明日から儂がお主に空間魔法のイロハを叩き込んでやろうかの』

「え……? いや、それより早く俺の存在の力の方を……」

『それはもうすぐ終わるから問題ない。それにお主は……もっと強くなる必要があるからの』

「は……?」

『とにかく明日から特訓じゃ。儂が納得するくらいの実力をつけるまでは、この森から出るのは禁止じゃからな』

「な……それじゃ、いつになったら俺は外に出られるんだよ」

『そんなのはお主次第じゃ』


 イスカリオルが宣言した通り、俺は翌日から文字通り朝から晩まで空間魔法のイロハを叩き込まれて、魔法漬けの毎日を送る羽目になった。それでもイスカリオルはなかなか納得せず、ようやくイスカリオルが満足した頃、気が付けばそれからさらに二月ふたつきもの時が流れていた。


「まあ、これくらいできるようになれば、外を出歩いても安心じゃろう」

「いや、絶対ここまでやる必要なかっただろう……」


 ニケ月間の猛烈な特訓によって、俺は化け物の領域に片足を突っ込んでいた。どれくらい強くなったかというと、今度は一人で普通に『塔』を攻略できるんじゃないかってくらいに……。


「精霊と契約しておきながら『塔』を攻略できないわけがないじゃろう。だが、契約者はもう他の『塔』に入ることはできないがの」

「そうなのか?」

「当たり前じゃ。契約者が別の『塔』を攻略できるのなら、とっくにすべての『塔』が契約者によって攻略されておったじゃろう」

「まあ、確かに」


 これだけの力が手に入るのなら、他の『塔』も誰かに攻略されてしまう前に自分で攻略して力を手に入れようと考えるはずだからな。


「あと、これだけ空間魔法を叩き込んでおいてなんじゃが、外ではあまり使わないように」

「ん、どうしてだ?」

「使えばお主が契約者であるとすぐにバレるからな」

「バレたらまずいのか?」

「おそらくお主の居場所が割れれば、契約者の一人がお主を葬りに来る。さすがに今のお主ではまだ他の契約者には勝てぬじゃろうから、見つからないようにするしかない」


 そもそもなぜ俺が他の契約者に狙われるんだと思ったが、その理由は森から出てすぐにわかることになる。


投稿ペースにつきましては原則水、金、土、日で進めていきますが、多忙につき、平日の投稿ができない日があるかもしれません・・・・・・


次話は明日投稿予定です。

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