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第五十六話 フェンネの憂い

第五十六話です^^

主人公は出てきませんが、このお話で第二章は最後になります。

ちょっと設定紹介じみたお話になってしまっていますが、よろしくお願いします!


 大陸中央に位置するシーナ山脈の一角に精霊教の総本山、アスナガルタがある。麓は精霊教徒が参拝に訪れるため一般開放されているが、上層部には結界によって守られた聖堂があり、そこには精霊教の中でも上級職以上の資格者でなければ踏み入ることを許されていない。


 聖堂内部の一室で、枢機卿フェンネは一仕事を終えた後の日課である、紅茶を飲みながら過ごす束の間の休息を満喫していた。


「はぁ、最近は心労を癒すいとますら、ありませんからねぇ」


 他の教徒たちの前では決して見せない、力の抜けきった表情でフェンネはため息を吐く。


 この内界を取り巻く状況は徐々に悪化してきている。フェンネは停滞こそが内界の人類がより長く生存できる道だと考えているが、その考えに異を唱える者たちが、昨今、急速に力をつけ始めているのだ。


 ロムルス帝国は先進的な魔導研究にさらに拍車をかけ、大陸内でも最高水準を誇る魔法技術大国となった。そして、周辺国への侵略を繰り返している。

 ランス王国は強力無比な伝統ある騎士団をさらに拡張しているだけでなく、噂によると裏ではあまりに危険ゆえロムルス帝国から追放された魔法使いたちを囲い込み、怪しい研究をしているという。現状では対外政策には消極的だが、その静けさが逆に不気味である。

 エール連合国は、各地に散らばるタスニタ人たちを一つにまとめ上げ、大陸最強の陸軍を作り上げている。また経済力をとっても優れた商人が多く、国の規模の割に大陸への大きな影響力を有している。


 三大国家は共通して、国力の増強に努めており、その目的はおそらく大陸の統一と外界への侵攻だろう。

 契約者である、ロムルス帝国とランス王国の指導者は、精霊から聞かされてこの世界の現状を知っている。だからこそ国力の増強という選択肢を取っているのだろう。いずれ訪れる大災厄に対抗するために。


「ですが、無理なのです。人類の負けは決まっているのですから。なら、限りある時間をできるだけ引き延ばすために善処すべきだというのに……」


 とりあえず喫緊の課題としては積極的に対外戦争を仕掛けているロムルス帝国への牽制であろう。そのためには西の大国であるランス王国に働きかけ、ロムルス帝国が慎重にならざるを得ない状況を作り出すしかない。


「となると、次の行き先はランス王国ですか……あの国はあまり好きではないのですけれど」


 フェンネは何度目かのため息を吐き、紅茶をあおったところで、いきなり部屋の扉が強く叩かれた。


「失礼します! フェンネ様、一大事で……フェンネ様?」

「ゴホッ、ゴホッ」

「うわ! フェンネ様が一大事だ! い、医務官を呼んできます!」

「ま、待って……わたくしは大丈夫ですから」


 入ってきてすぐに飛び出していこうとする少年を、フェンネは慌てて呼び止める。


「本当に大丈夫ですか? なんか吐血してませんでした?」

「……それは紅茶です。血ではありませんよ」

「なんだ、驚かせないでくださいよ」

「それはこちらの……いえ、ところで一大事とは?」


 フェンネはすぐに取り繕うと、少年に要件を尋ねた。

 

「えーと、さっき掃除をしていたら、精霊石に新たな名前が刻まれてました」

「え……それは、見間違いではないのですか? 新しく誰かが『塔』に入ったという情報はわたくしの下へは来ていませんよ?」


 各地の『塔』に配置しているフェンネ子飼いの異端審問官たちから、新たな『塔』の挑戦者が現れたという話はない。ならば、『塔』に新たな名前が刻まれたなんていう話は、この少年の見間違いの可能性が高い。


「でも僕はしっかりとこの目で見ましたよ。第六の『塔』の契約者のところにクロンって名前が刻まれているのを」

「第六の『塔』……? まさか!」


 フェンネは立ち上がると急いで精霊石の安置されている間に向かった。第六の塔とはつい先日フェンネが訪れた空間を司る精霊イスカリオルが守護している『塔』のことである。もしかしたら、精霊はあそこに転がっていた男と契約してしまったのではと、嫌な予感がフェンネの頭によぎった。


 精霊石の間にたどり着くと、確かにそこには第六の『塔』の契約者の名前としてクロンという名が刻まれていた。


「このクロンというのは……ビスカさんを呼んできてくれますか?」


 傍についてきていた少年に頼んで、フェンネはこの精霊石の間にビスカを呼び出した。


「何か用ですか?」

「一つ伺いたいことがありまして。あの『塔』でわたくしが助けたあの男の名は何というのですか?」

「先輩の名前ですか? クロンですよ」

「――ッ。やっぱりそうでしたか」

「先輩がどうかしたんですか?」

「……どうやら、あの精霊と契約してしまったようなのです。つまり、わたくしたちの敵になってしまったというわけです」

「え……? 先輩が……敵」


 フェンネがクロンのことを敵だと断じた瞬間、ビスカの表情があからさまに強張る。


「……わたしは、先輩と戦う気はありませんよ」

「そんな顔をしないでください。そもそもあなたを精霊契約者とぶつけるつもりはありません」

「じゃあ、フェンネさんが直接戦いに行くんですか?」

「今、居場所がわかっていればそれが一番なんですけれど、さすがにもう『塔』からは出ていってしまっているでしょうから、わたくしでもどうしようもありません」

「なら、何もしないんですか?」

「いいえ。大陸中で賞金付きの指名手配を行います。もちろん精霊教でも捜索をして、発見次第わたくしが始末しに行きます」

「……それは、わたしがさせません」


 ビスカが強い意志を秘めた視線でフェンネを射抜く。


「わたくしもあなたの仲間を手にかけたくはありませんが、人類を守るためには仕方がないのです。契約者が四人になると『塔』が活性化して、次の段階に進んでしまいますから」

「次の段階?」

「はい。『塔』の内部の魔物たちが『塔』の外へ出てきてしまうのです」

「え、それじゃあ……」

「内界にも多数の魔物が跋扈するようになります。まあ、外界の魔物と比べると大したことはありませんが」

「なんで、『塔』がそんなことを……」

「来たる外界での戦いに備えるための機能です。内界の人類の力を底上げするためのものだとわたくしは解釈しています」


 『塔』はただの結界維持装置ではない。契約者の数に合わせて、段階を追って人類に試練を下す機能がある。ただ、そのことは精霊から教えられるため、『塔』を攻略した契約者にしか知るすべはない。


「ただ、いくら大したことはないといっても、魔物の力は、一般の方たちにとっては恐るべき脅威に違いありません。そんな魔物たちが大量に解き放たれることになるんです。ですから、わたくしは『塔』の活性化を止めるためにも、新たに出現した精霊イスカリオルの契約者を倒さねばならないのです」

「それは……でも……」


 確かに魔物が大陸中に溢れてしまったら、多くの被害が出てしまうだろう。だが、だからといってビスカは、クロンを敵として倒すなんてことに頷けるはずもない。


「わたしに、いったいどうしろっていうんですか……」


 力だけではどうしようもない事態に対して、ビスカは無力だった。


「ビスカさんはこの件からは外しますね。今は力を使いこなすための鍛錬に集中してください」

「でも……」

「他に何か手段があったとしても、今のあなたでは力不足です。……今はとにかく、強くなってください」


 フェンネに下がるように言われて、ビスカは何も言うことができず、この場から立ち去った。


 力なく肩を落としたビスカの後姿が見えなくなったところで、フェンネは呟く。


「もしあなたが力をつけてしまったら、わたくしを倒すという選択肢に思い至るかもしれませんね。そうならないとよいのですが、その時は……」


 フェンネは一瞬悲しげな顔をしたが、傍にいた少年に声を掛けられると、すぐに普段通りのにこにこと笑みを浮かべた顔を取り繕った。


第一章、第二章の見直し、ホームのあらすじ加筆変更、次章のプロット作成のため、

第三章は2月25日(土)からの投稿とさせていただきます……。

申し訳ありません<m(__)m>


第三章からは主人公が強くなって、本格的な冒険譚になっていく予定です。

引き続き、よろしくお願いします^^


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