第五十五話 精霊イスカリオル
第五十五話です^^
よろしくお願いします!
目を開けると、何度目かの既視感のある光景が視界に映りこんでくる。
一面が真っ白な空間。ここは確か『塔』の最上階だったはず。
精霊の転移魔法でどこかに飛ばされたはずだが、一体どうなっているんだ?
「気が付いたかの?」
聞こえてきた声の方へ振り向くと、少女姿の精霊と目が合った。
「えーと、俺はどうなったんだ……」
「転移魔法で他の者は皆、大陸各地へと飛ばした。お主は別だがな」
「俺は別……どういうことだ?」
他の奴らはみんな転移魔法で飛ばされたのに、何故俺だけここに残されたんだ。この精霊は何を考えている?
「さて、まずはどこまで覚えているか訊いておこうかの」
「どこまで覚えているか……?」
「ここで、精霊教の使徒と戦ったことは覚えておるか?」
「精霊教の使徒……そうだ! 俺は確か、ビスカと一緒に異端審問官と戦って……あれ、結局あの後、どうなったんだ?」
「なるほど。戦ったとこまでは覚えていて、終わりについては記憶にないということか」
「あんた、何か知っているのか? ビスカと異端審問官はどうなったんだ? 教えてくれ」
「……お主がやられて気絶した後、タスニタ人の小娘が異端審問官を倒しておったな。その後、儂の魔法で『塔』から追い出したが」
「なに……」
ビスカがセシルを一人で倒したのか。どう見てもセシルの方が強かったように思えたが……。
「でもそれなら、なんでビスカだけ『塔』の外に飛ばして俺だけ残したんだよ」
「そんなもの、儂がお主だけに用があったからじゃ」
「俺に用……?」
「そうじゃ。単刀直入に訊こう。お主、精霊ウェルドの契約者とはどういう関係じゃ?」
「は……?」
何言ってんだ? 精霊ウェルドの契約者……? そんな奴との関係といわれても、そもそもそんな奴、全く知らないんだが。
「お主の体内に仕込まれている気色悪い魔法は、間違いなくウェルドのものじゃ。始めは儂に何かしらの手を講じてくるためのものかと思ったが、これだけ待っても、うんともすんとも反応せんところを見ると、目的は別にあるようじゃ」
「ちょっと待て。俺の体内に魔法……?」
どういうことだ? そんなものを誰かに仕込まれた記憶なんて全くない。となると記憶を失う前に何かあったのか……?
「どういった効果の魔法なのかは儂にはわからぬが……まあ、本人も知らぬようならこれ以上は探りようがないの。それにこの場で発動する類のものでないのなら、儂には関係ない。もうお主に会うこともないだろうからの」
「まあ、確かに俺は『塔』にはもう二度と近づかないだろうからな」
「そうではない。……お主はおそらく数年以内に死ぬだろうからの」
「数年以内に死ぬ? そんな馬鹿な……」
まあ、今回みたいな冒険じみたことを続ければ近いうちに死にそうな気はするけど、さすがに今回ほど危険なことはもうしないさ。できる限り安全に記憶を取り戻す旅をするからな。
「何故かは知らぬがお主の身体からは存在の力が徐々に乖離し始めておる。微量ではあるが、そもそもお主は存在の力が異常に少ないようじゃからの。おそらく数年以内に存在の力が霧散して死ぬじゃろう」
「な……?」
俺の存在の力が乖離していってる? 存在の力っていうのは確か魔力とかの源にもなる生命力のことだよな。それが無くなってしまったら……
「いや、でも存在の力っていうのは使っても回復するものなんだよな?」
そうじゃなきゃ、魔法使いなんてすぐに存在の力が尽きて死んでしまうではないか。
「確かに存在の力は回復する。じゃが、お主の身に起こっておる存在の力の乖離とは、存在の力が溜まる、いわば器のようなものが欠けていっているような状態のことを言っておるのじゃ。ゆえに回復するといってもその上限は徐々に少なくなってしまいには……というわけじゃ」
「そんな、馬鹿な……」
俺はいつからそんな状態に陥っていたというんだ。いや、間違いなく記憶を失う前に何かがあったはずだ。その何かの所為で俺はこんな身体になってしまったんだ。となれば早急に記憶を取り戻して、一体何があったのかを知らなければならない。そして、この状態を治す術を見つけないと、俺はすぐにでも死んでしまうもしれない。
「俺は……あとどれくらい持つんだ?」
「さあの。明日かもしれんし、一月後かもしれんし、一年後かもしれん。儂にも正確な時間はわからん。じゃが、そう長くないことは確かじゃ」
「……クソったれ」
俺は、間に合うのか。
「まあ、一つだけ、すぐには死ななくて済む方法はあるがの」
「それは、本当か! どうすればいいんだ?」
「なに、儂と契約すればよい。そうすれば存在の力の乖離くらいは防げるからの。ただ、それでもすでに劣化した存在の力の器はどうにもならぬから、五年以上は保証できぬが」
「五年……か」
だが、言い換えれば最低五年は生きられるという事だ。それだけ時間があれば、記憶を取り戻して、こんな身体になった原因を見つけ、その解決策も見つけられるかもしれない。少なくとも明日をもしれぬ状態でいるよりもずっとましであることは確かだ。
「だが、あんたは人間とは契約しないんじゃなかったのか」
「お主は……いや、儂は気まぐれでの。お主となら別に契約してもよい。どうせ死んだら『塔』に戻れるし、お主なら他の人間よりは早く死ぬであろうからの」
「はは……って、正直その理由は笑えないけどな」
こんな、何もわからないままで死んでたまるか。
俺はいったい誰なんだ。どうしてこんな状況に陥っているんだ。記憶を取り戻して、俺が誰なのかを知ることができるまで、俺は死ぬわけにはいかない。
それに、もういちど三人で、打ち上げをするって約束もしたしな……。
そんなことを思っていると、右手に紐のようなものが結び付けられていることに気が付く。
「これは……?」
「ああ、お主が気を失っている間に、タスニタ人の小娘が何やら結び付けていたの」
「ビスカがこれを」
おそらく髪留めの紐だろう。
あいつ、髪留めの紐はすぐに駄目になるから、困るとか言っていたのに俺の腕に巻き付けてどうするんだよ。これは……ちゃんとまた会って、返さないとな。
やっぱり俺は、すぐに死ぬわけにはいかない。死ねない理由がいくつもある。だから……。
「本当にあんたと契約すれば、俺は、少しは長く生きられるんだな?」
「まあ、多少はの。それに儂も少し内界の様子を見てみたいからの。お主が生きられる時間くらいなら付き合ってもよい。……気になっていることもあるしの」
「気になっていること?」
「今は話すつもりはない。いずれ話さねばならないだろうが」
「……? そうか。じゃあ契約してくれ」
「よかろう」
精霊は俺に向かって手をかざす。
「――我は空間を司る精霊イスカリオル。『塔』を攻略せし器に、人類を守護する人柱たる力を授けん」
イスカリオルが口上を述べると、俺の身体が光に包まれる。
「これは……?」
「儂の存在をお主の器に落とし込んでおるのじゃ。心配せずともじきに終わる」
イスカリオルの言った通り、光は次第に薄くなり、空間に滲むようにして消えていった。
これで契約とやらは済んだのだろうか。感覚的には特に何の変化もないようだが。
「これで、お主はこの世界で四人目の精霊契約者になったわけだ」
「そうか。実感はないけど……」
「これから嫌でも実感することになるじゃろう」
「え……?」
イスカリオルがにやりと不気味な笑みを浮かべる。
「では、行くとするかの」
「行くってどこに?」
「とりあえず、『塔』の外に決まっておろう」
「外……って、おい!」
特に行き先を決めないまま、イスカリオルは転移魔法を発動した。
足元にいきなり出現した魔法陣が俺とイスカリオルを効果範囲に収める。
「そういえば五百年ほど昔に住んでいた家がランス王国の郊外にある。まずはそこへ行ってみるかの」
「五百年!? そんなのとっくに無くなってるだろう!」
「行ってみなければ分からぬではないか」
勝手に行き先を決められて、俺はイスカリオルが発動した転移魔法に成す術も無く巻き込まれた。
次話は明日投稿予定です。




