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第五十話 狂争薬の力

第五十話です。

よろしくお願いします!

 俺は躊躇なくセシルの方へと突っ込んでく。

 狂争薬の効き目はすさまじく、痛みが消えるどころか、スピードもパワーも通常時よりも倍以上に引き出されているような感じがする。


 俺の接近スピードが予想を上回っていたのか、セシルは驚愕の表情を浮かべ、慌てて青龍刀を身体の前に構えて、俺の短剣による攻撃を防ぐ。


「……それは、反則」

「何言ってんだよ。おまえだってタスニタ人であるビスカと互角以上の力を持っていて、魔法まで使える反則級の強さを持っているくせに」

「……それでも、己の分を超える力には手を出していない」


 己の分を越える力か。確かにこれは薬によって無理やり引き出した力だ。でも、生き残るために、そして、仲間を守るためには必要な力だ。仲間を守るためなら俺は、どんな力にだって縋るさ。


 先ほどの速すぎて躱せなかったセシルの一撃も今ならば目で追えるし、躱すこともできる。逆に俺の短剣の動きに、セシルはぎりぎりついてきているといった印象だ。薬一つでここまで状況を覆せるとはな。始めから使っていれば、ビスカに怪我をさせなくても済んだかもしれない。少し判断をミスったかな。


 以前ウィレムと戦った時は、記憶にまで縋っても自分だけで勝てる気はしなかったが、今は違う。このまま攻め続ければ、俺はセシルに勝てる。そして、ビスカを守り通すこともできる。


「……ぐっ!」


 俺の放った蹴りがついにセシルを捉えた。それなりに深く一撃を打ち込んだ感覚があった。


 セシルが腹を押さえて、後ずさる。と、同時に牽制の火球を放ってくるが、俺は余裕で躱し切り、さらに距離を詰めた。


 横薙ぎに振り抜いてきた青龍刀を短剣でいなしつつ、しゃがんで躱し、セシルの足を取る。

 尻餅をついたセシルを俺は上から押さえつけるようにして動きを封じ、首元に短剣を突き付けた。


「勝負ありだな。もう俺たちを襲わないと約束するなら命までは取らないが」

「……そんな約束はできない。――する必要もない」

「は……?」


 セシルがわずかに口の端を上げる。

 なんだ。この状況で何か状況を覆す手でもあるっていうのか。


「……そろそろ、かな」

「は? いったい何を言って――ッ!?」


 唐突に息が詰まる感覚に襲われ、続いて俺の口から大量の血が溢れだす。

 そして、急激に手足から力が失われて、俺はセシルの上に倒れ込んだ。


「な……んだ。これ……」

「……その薬。戦うためのものじゃないんでしょ。金髪から聞いた。帝国の悪名高い戦技研が戦場で自害するために死に場所まで逃げ切るための薬だって」


 そういえばそんなことをメルカが言っていたような……。


「……その薬を誰からもらったのかは知らないけど、逃げるために使うように言われなかった?」

「言わ、れてたな……」


 しかし、効果時間がこんなに短いものだったとは。痛みはまだ戻ってこないけど、身体が全く動かない。

 セシルが俺を突き飛ばして起き上がる。


「……無様。分を超えた力に縋るから余計な苦しみを味わうことになるの。もっとも、もう感覚なんて飛んでしまっているだろうけど」

「でも、ハイマンも……これを使って、おまえと」

「……あの金髪は私を助けるために使ったの。なんでかは知らないけど」

「なに……」


 いったい何をやってんだよ。まあ、こいつも美少女ではあるし、らしいといえばらしいけど。そうか、だからこいつは俺たちをハイマンと会わせるまで護衛まがいのことをしていたのか。


「……じゃあ、さようなら」


 セシルが青龍刀を仰向けに転がって動けない俺に向かって容赦なく振り下ろしてくる。

 

 クソ……結局俺はこんなところで死んでしまうのか……。


 目を瞑り、最後の瞬間を待つ。

 

 感覚が、とうに死んでしまっているからなのか、セシルの青龍刀がこの身を切り裂く感覚がいつまでたってもやってこない。

 痛みも感覚もなくなってしまうと、自分がいつ死んだかもわからなくなるものなのか。

 そんなことを考えていると、不意に耳慣れた声が鼓膜を震わせる。


「……先輩、まだ、死んじゃだめですよ。三人で打ち上げ、するんですから」

「え……?」


 目を開けると、俺を庇うように立ちはだかり、セシルの青龍刀を受け止めるビスカの姿があった。


「ビスカ……」

「闘技場では、わたし、先輩に守ってもらいましたからね。今回は、わたしが先輩を守ります」


 ビスカは青龍刀を受け止めていた短剣を力いっぱい振るうと、セシルを後方に弾き飛ばした。


「俺よりもダメージを受けていたはずなのにそんな力がどこに……」

「先輩が戦ってくれてる間に回復しました。それに、今度はわたしが先輩のことを守らなきゃと思ったら不思議と力が湧いてきたんです」

「なんだよ、それ……」

「とにかく、先輩は休んでいてください。……あれは、わたしが殺りますから」


 ビスカが俺に背を向け、セシルに対峙する。


「……その姿。厄介な」

「あれ、もしかしてこの状態のこと、何か知ってるんですか?」


 ビスカとセシルが何やら話しているが、どうやらもう耳の方がうまく機能していないらしい。そして、視界もぼやけ始めた。俺もビスカとともに戦いたいが、もう限界らしい。


 意識が断たれる直前。俺はぼやけた視界の先に、赤く燃え上がるような光を身にまとったビスカの姿を見た。


次話の投稿は明日の予定です!

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