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第四十九話 まだ『塔』は終わらない

第四十九話です!

よろしくお願いします^^

 精霊が魔法を行使すると、この場にいた全員が白い光に包まれていく。

 俺はハイマンとビスカに視線をやる。二人とも力強く頷いた。また会おう。言葉にしなくても視線だけで、俺たちは約束を確認し合う。そんな関係を心地よく感じる。いつの間にか、言葉を交わす必要がない、そこまでの仲になっていたんだなと思うと感慨深い。


 二人には、また会えると確信できる。

 根拠はなくても何となくそう信じられた。


 そして、白き輝きがいっそう増していき、視界を覆いつくした。


○○○


 目を開けると目の前には真っ白い空間が広がっていた。


「って、あれ。まだ『塔』の中じゃないか」

「あれ、先輩……?」


 傍には同じくきょとんとしているビスカの姿があった。しかし、それ以外の者はいなかった。ハイマンもエドナ王女の姿も見当たらない。


「どういうことだ?」


 俺は精霊の方に視線を向けると、精霊は可愛らしい少女の顔を不機嫌そうに歪めて俺の方でも、ビスカの方でもない、誰もいない空間を見つめていた。


「儂の魔法行使を邪魔しおったな」


 精霊がそう言うと、空間の一部が歪み、そこに見覚えのある姿が浮かび上がってきた。それはここに来てから姿を見なかった異端審問官のセシルだった。


「なんだおまえ、無事だったのか。今までどこにいたんだよ?」

「……ずっとここにいた」

「ずっと? ならなんで姿を隠していたんだよ?」

「……目的を果たすための機会をうかがっていた」

「目的?」

「……そう。――あなたたち二人を始末すること」


 言うが速いか、セシルは俺の方へ飛び込みながら青龍刀を振り下ろしてきた。

 俺はかろうじてその一撃を躱すとセシルから距離を取る。


「なんで俺たちを始末するんだよ。もう精霊と契約することは無くなったんだから、殺す必要はないだろう」

「……確かに精霊と契約することの阻止は必要なくなった。でも、あなたたちは知ってはいけないことを知ってしまった」

「知ってはいけないこと?」

「……外界では、人と魔物が戦っていること」

「そんなの、他の奴らだって……」


 いや、待てよ。確か精霊は四十五階相当の魔物がいる『塔』ではないどこかに飛ばしていたと説明した。つまり他の奴らはあそこが外界だという事に気付いていないのか。


「いや、でも、俺たちだって記憶は封印されるって、言っていたじゃないか。なら――」

「……封印するだけで消すわけじゃない。何かの拍子に思い出してしまうかもしれない」

「それは、そうかもしれないが」


 駄目だ。セシルは完全に俺たちを始末するつもりでかかってきている。そして精霊は我関せずといった状況でただこちらを静かに見下ろしていた。


「ビスカ。どうやら別れる前に一仕事こなさなくちゃいけないらしい」

「そうみたいですね。ハイマンさんはいませんけど、二人でなんとかしてみましょう」


 俺とビスカは戦闘態勢に入る。

 構えるのは短剣。セシルからの貰い物だが、今はこれしか武器がないので仕方がない。

 

 まず、ビスカがセシルに向けて駆け出した。短剣と拳を併用して絶え間なく攻める。しかしセシルは大きな獲物を持っている割には軽快にビスカの攻撃を躱していく。そして隙を見ては反撃を行って、なかなかビスカに懐までは攻め込ませない。

 それどころか魔法も織り交ぜ始めたセシルに対して、ビスカは次第に防戦一方になっていく。


「代われ、俺がやる!」

「すみません、お願いします」


 ビスカがセシルに対してやや大きめの攻撃を行い牽制したところで、俺が前に出る。一応あの時のように短剣を逆手に持ち替えて戦ってみたが、いまいちピンと来ない。何というか短剣ではあの時のような自然と体が動くような感覚はえられなかった。思い出しながら、逆手剣術を振るうが、やはりどこか精細を欠く。セシルにも俺の攻撃はあっさりとかわされてしまっていた。こんなことでは勝てない。やはり短剣では駄目なのか。

 

 二人がかりで攻め続けるが、ただの一撃さえもセシルには届かない。


「……もうだいたい分かった」

「は? 何言って――ッ!?」


 二対一でほぼ拮抗していた打ち合いが、唐突にセシルによって崩された。

 いきなり、今までとは比べ物にならない速さで横薙ぎに振られた青龍刀を躱し切れず、俺もビスカも短剣で受けるが、その勢いは亜人種の魔物に勝るとも劣らないものだった。たまらず吹き飛ばされて、俺たちはそろって地面に叩き付けられる。勢いのまま転がって、ようやく止まったときには全身に痛みが走った。特に最初に地面に接触した左腕は激痛で、動かすことができない。


「く……そ……」

 

 セシルはやはり強い。

 頭まですっぽりと隠していたローブを脱ぎ捨てると、露わになる素顔。深い緑の短髪に青色の瞳という珍しい色合いだった。何よりも目立つ容姿をしている。確かに影に潜み、標的を討つという異端審問官であれば、ローブでその容姿を隠したくなるのも頷ける。そして声の高さから女だという事はわかっていたが、見た目が思っていた以上に若い。年もおそらく二十はいってないだろう。


「……無駄な抵抗をしないなら、楽に殺してあげる」


 セシルがゆっくりと近づいてくる。


「……まあ、もう抵抗なんてできないと思うけど」


 確かに全身に激痛が走り、正直なところとてもじゃないが戦える状況ではない。なんか『塔』に来てから、一撃でやられるパターンが多すぎて嫌になる。ビスカの方を見ると、床に転がった状態でうめき声を漏らしている。俺よりも先に青龍刀による一撃を喰らったためその分ダメージもでかいのだろう。身体が頑丈なはずのビスカが立ち上がれないとなるとそれこそ、俺が先に喰らっていたりしたらもう死んでいただろうな。


 で、このまま何もしなければ俺はすぐにでも殺されてしまうだろう。

 こうなったらもう仕方がない。切り札を使うか。


「……何をするつもり」


 俺が懐から何かを取り出したのを見て、セシルが訝し気な表情をする。


「なに、ちょっとズルをしようかと思ってな」

「……それは!」


 俺は、メルカからもらっていた狂争薬を飲み込む。

 途端に体中が燃えるように熱を帯び、今まで感じていた激痛がまるで焼き尽くされてしまったかのように消え去る。そして、異常に身体が軽い。さすがに折れてしまったらしい左腕は動かせなかったが、痛みはなく邪魔にもならなそうだった。


「……金髪が持っていたものと同じ薬」

「そうか。ハイマンもこれを使ってお前と戦っていたのか」


 そして生き延びたわけだ。

 なら、俺も何とかなるかもしれないな。


 ゆっくりと立ち上がると、俺は再び青龍刀を握りしめ警戒心をあらわにするセシルに向けて、短剣を構えた。


次話の投稿予定は金曜日です。

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