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第四十七話 再会

第四十七話です。

よろしくお願いします!

※2月10日に内容の追加を行った関係で初投稿時よりも少し長くなっています。

「――先輩、起きてください」

「……ん」


 肩をゆすられ、俺は意識を取り戻す。目を開けると視界には心配そうにこちらを見つめるビスカの顔が映った。

 俺が起きたのに気付くとビスカは安心したように表情をほころばせた。


「俺は、どうなったんだ? 確か魔物にやられたような気がするんだが」

「わかりません。わたしも魔物の攻撃を受けて気を失ってしまって、気が付いたらここにいました」

「そういえばここは……?」


 俺があたりを見渡すとそこは真っ白の空間だった。廃墟もなければ木々も生えてない。無機質な白い空間が広がっていた。そして……。


「もしかして、みんなここにいるのか?」

「どうやら、そうみたいです」


 少し離れたところに点々と人が倒れていた。見覚えのある奴隷たちや、護衛兵たち。そして、ハイマンの姿もあった。俺は駆け寄ってハイマンを起こす。


「おい、ハイマン。しっかりしろ」

「ん……やあ、クロン。なんだ、君も死んでしまったのかい?」

「え……?」

「僕は確か、魔物に下半身を喰いちぎられて……そこからの記憶はないんだが、たぶん死んだんだろうなぁ。だからここは死後の世界だと思うんだが」

「まあ、俺もたぶん魔物に殺されたとは思うが……」


 という事は、ここは死後の世界なのか。というかそんなものがあるのだろうか。だが、実際に俺たちは死んでこんなところで目覚めたわけだから、そうとしか言いようがないのも確かか。いや、でも俺は本当に死んでしまったのか? 


「やっぱりわたし達、死んじゃったんですか」

「なんだ。ビスカも死んでしまったのかい? これじゃあ三人仲良く地獄めぐりでもすることになりそうだね」

「あ、わたし、死んだら天国に行くと思いますので、お別れですね」

「いやいや、思えば僕だってそんなに悪いことはしていないはずだから、天国に行けるはず……だと思うんだけどね。……自信はないけど」

「えぇ……本当ですか。なんか女性関係でやらかしていそうなんですけど」

「うっ……! な、なんで、そう思うんだい?」

「いや、何となくですけど。強いて言うなら見た目と雰囲気ですかね」

「くっ……それは偏見だと言えないのが辛い!」


 ビスカとハイマンは馬鹿なことを言い合っているが、俺たちはまだ死んだと決まったわけではない。


「他の奴も起こしてみよう。どうやらエドナ王女もいるみたいだし」

「そうだね。とりあえず僕らの雇い主はエドナ王女なわけだから、彼女に指示を仰ぐのが妥当か」


 俺たちは手分けして床で気絶している者たちを起こしていった。

 あれ、そういえばセシルの姿が見えないような……まあ、いいか。この場にいないならむしろありがたい。ハイマンと会うまで期間限定で味方と言っていたから、今あったらたぶん敵として戦う羽目になるだろうし。


「む、ここはどこだ? 一体、どうなっている」


 意識を取り戻したエドナ王女があたりを見回しながら眉を顰める。


「ムガート、無事であったか」

「はい。どうやらそのようで。しかし、ここはどこなのでしょうか」


 起き上がった護衛兵たちが続々とエドナ王女の下へ集まっていく。


「ここがどこだか、わかるものはいるか?」


 エドナ王女が問いかけるが、答える者はいなかった。


「私はここに来る前、おそらく魔物と思われるものに殺されたように思うのだが、その寸前で不覚にも意識を失ってしまった。誰か、私の死ぬ瞬間を見たものはいるか?」

「恐れながら僕、いえ、自分は見ましたが……」


 ハイマンが王女の問いかけに答える。というか、ハイマンは王女と一緒にいたのか。


「ほう。して私はどのように殺された? やはり頭から喰らいつかれたか」

「それが、途中で光に包まれて消えてしまわれたので、てっきり魔法か何かでお逃げになったのかと……その直後に自分も死にまして、確かめることはできませんでしたが」

「なるほど。死ぬ直前に光に包まれた、か。それは気になるな。もしかしたら、私達はまだ死んではいないのかもしれないな」


 王女とハイマンの話を聞いていると、確かに死ぬ直前に光に包まれたというのは気になる。それってもしかして転移魔法なのではないか。


「まだ死んでいないとしたらここは『塔』の中ってことですか?」

「かもしれないな。でも、そうなると次の魔法陣が見当たらないのはおかしい」


 この白い階層は、実はそれほど広くない。四方には見える範囲で壁がある。しかし、次に至る魔法陣はどこにもなかった。

 同じことを思ったのか、何もないこの部屋を見回して、エドナ王女も首をかしげている。


「探しても無駄じゃ。次の階に至る魔法陣は設置してないからの」


 不意にどこからかそんな声が聞こえてきた。

 そして、部屋の中央で空間が不自然に歪むと、そこから白銀の髪に白いワンピースを着た少女が現れた。腕を組みながら俺たちを見下ろす少女は、当たり前のように宙に浮いていた。なんだそれ。今度は宙に浮く魔法か。というか、今度の敵はあの少女なのか。


 広間にいる者たちが皆、警戒心をあらわにして、少女を仰ぎ見る。


「貴様は何者だ? また、魔物の類か?」


 エドナ王女が宙に浮く白い少女に問いかけると、少女はにやりと笑みを浮かべた。


「この可憐な姿を指して魔物とはあんまりじゃのう。儂がこの『塔』において結界の維持をしておる精霊じゃ」

「なに? 貴様が精霊だと……」


 エドナ王女は怪訝な表情をした。おそらく少女が精霊であるという事をいまいち信じられていないのだろう。俺だって、はいそうですかとすぐに信じる気にはなれない。


「本物か?」

「証拠を見せてやろう」


 少女がぱちんと指を弾くと、広間にいたものたち一人一人が薄い透明な直方体の中に閉じ込められる。


「なんだこれは?」

「空間魔法の一種じゃ」

「空間魔法だと……!?」


 このガラスケースみたいなのに閉じ込めるのは空間魔法なのか。まだ魔法の種類とか全然わからないけど、こんな魔法もあるんだな。

 俺は暢気にそんなことを考えていたが、他の奴らは、その多くが当惑した様子だった。

 一体、どうしたというのだろうか。

 

「空間魔法は大昔に使える者がいなくなったはず……」


 エドナ王女がそんなことを呟いていた。

 でも、現に今、空間魔法が使われているじゃないか。


「今、大陸で唯一空間魔法を行使できる存在がいるとすれば、空間を司る精霊である儂だけじゃ。これで信じるには足るじゃろ」

「……貴様が精霊であることは認める」


 エドナ王女が少女を精霊だと認めると、少女は再び指を鳴らして、空間魔法を解除した。


「しかし、何故精霊がこんなところにいるのだ? 我々はまだ『塔』を攻略していないぞ」


 エドナ王女が疑問を投げかけると精霊は思いもよらない答えを返してきた。

 

「ああ、面倒じゃから全員まとめて最上階に集めた。よってお主たちの塔攻略はここでしまいじゃ」

「え、これで終わりなのか……」


 なんかあまりにもあっけないような。いや、まあ二つ目の階であっけなくやられてしまった俺が言うのもなんだけど。


「本当は五十くらいの階層を用意してあるんじゃが、そんなもの、やっても意味ないからの」

「それは、どういうことだ?」


 エドナ王女が精霊に向かって問いかける。


「そんなの決まっておろう。儂は初めからここにいる人間とは契約を結ぶ気がないという事じゃ。だから、せめてもの慈悲で早々に帰ってもらうために、大サービスでいきなり十階から始めさせてやったのじゃ。ちなみにその次の階は、『塔』の外ではあるが、四十五階相当の魔物が出る場所に送ってやったぞ」


 最初がいきなり十階で、その次が四十五階? そんなのむちゃくちゃだ。いきなり飛びすぎだろ。


「もっとも、ちと理不尽が過ぎた気もしたので、死ぬ直前に『塔』に呼び戻して回復してやったがのう。どうじゃ、気前がいいじゃろ?」

「そんなわけがあるか! 始めから契約するつもりがなかっただと! ふざけるな! それでは何のために無理を押して、私はここまでやってきたというのだ」


 エドナ王女が精霊に向かって叫ぶ。その目には憤りの色がありありと浮かんでいた。確かに最初から契約する気がなかったというのは、それこそ理不尽極まりない。まるでゴールのない迷路に挑まされたようなものだ。


「そちらの都合など儂は知らぬ。というかどのみちおぬしらでは五十階までたどり着くことはできなかったじゃろう。四十五階相当の場所で、半日と持ったものはおらなんだのだからのう」

「それは……でも、私は!」

「くどい! ……これ以上言うならこの場にいるものを皆殺すぞ?」

「く……」


 精霊が一瞬垣間見せた威圧的な瞳に射抜かれてエドナ王女はそれ以上のことを口にすることはできなかった。それに精霊の言う通り、俺たちの力ではおそらく『塔』の頂上にはたどり着けなかっただろう。四十五階相当だという魔物相手ですら、全く歯が立たなかったんだ。それよりさらに五つも上の階を越えていくなんてできるはずがない。どのみち契約はできなかったんだ。仕方ないさ。


「もう言いたいことはないみたいだのう。ではお主らには早々にここから出ていってもらうわけじゃが、内部の情報を外に持ち出されるのは困るので、『塔』に入ってから今までの記憶は封印させてもらうぞ。あとお主たちのことは転移魔法で世界各地に適当に飛ばすからの」

「な……ちょっとまて」


 記憶を封印は別にいいにしても、バラバラに飛ばす? 

 そんなことされたら、ビスカやハイマンとも離れ離れになってしまうではないか。


 俺が声を上げると精霊がギロリと睨み付けてきた。


「……文句は聞かぬ。儂のいう事は絶対じゃ」

「う……」


 精霊の視線に射抜かれ背筋が凍る。見た目はただの少女なのに、発せられる威圧感は先ほどの魔物をはるかに上回り、本能的なレベルで恐怖を喚起される。口にしようとした言葉は音を失い、ただ虚しく空気が漏れ出るのみだった。


 だが、それでも。飛ばされてしまう前にやっておかなければならないことがある。


「……ちょっとだけ、ちょっとだけでいい。時間をくれないか?」

「時間? まあ、多少待つくらいなら構わんぞ。別れを済ませる時間くらいならのう」

「……それは、どうも」


 別れか。このまま離れ離れになってしまうなら、当然それも必要だ。でも、それ以上にこの場で済ませておかなければならないことがある。


「エドナ王女様。約束通り俺たち奴隷を解放してください」


 俺は、ビスカを助けるためと、そして、何より奴隷から解放されるためにここまでやってきた。ここで言っておかないとこれまでの苦労が水の泡になる。


「……そういえば、そうであったか」


 うなだれた様子のエドナ王女は顔を上げると、特に躊躇することもなく懐から奴隷の魔導誓約書を取り出した。そして実にあっさりと、その権利を次々と放棄していった。


「あ、もしかして今のって……」

「ん、どうした?」

「なんか、今まで心に張り付いていた重りのようなものが外れた感覚がありました」

「僕も今それを感じたよ。きっとそれが誓約書の縛りから解放されたってことなんだろうね」


 なるほど。二人はもう奴隷から解放されたってことか。俺はまだそんな感覚は感じていないな。

 そう思ってエドナ王女の方へ視線を向けると、最後の一枚を見つめたまま固まっていた。もしかしてあれが俺の魔導誓約書なのか。そんなじろじろ見てないで早く俺も解放してくれよ。


 しかし、エドナ王女は魔導誓約書の権利を放棄することなく俺の方へ視線を向けてきた。


「……おまえが、クロンか?」

「ん……? そうですが」

「――ッ! 貴様が、ヴァルナクを……」

「え……?」


 エドナ王女の怒りを湛えた瞳がまっすぐ俺に向けられていた。

 


次話は明日投稿予定です。

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