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第四十四話 転移魔法陣へ

第四十四話です。

よろしくお願いします!

 廃墟となった建物から飛び出し、目の前に現れる亜人種の魔物を次々と始末しながら進む。敵のほとんどはセシルが倒してしまうので俺とビスカは割と余裕を持って進むことができていた。


「なんか悪いですよね。やっぱり、わたし達も戦った方がいいんじゃないでしょうか」

「いや、ここはあいつに任せておこう。俺たちはまださっきの戦闘で受けたダメージが回復しきっていないんだ」


 実際には戦おうと思えば戦えるほどには回復していたが、ここで体力を使ってしまうことに抵抗があった。それは何より、今は味方ではあるがいずれは敵となる異端審問官セシルの存在があるからだ。道中の戦闘を見る限り、俺やビスカよりも圧倒的に戦闘慣れしている上に、強さ的にも俺たちが一対一では勝ち目がないくらいには強い。いずれ戦うことを考えると、ここで体力を消耗してしまうことは極力避けたい。

 それにこの場では、のちのことを考えて、亜人種の魔物を倒すよりもセシルの戦い方をしっかりと観察して、把握しておく方がいいだろう。


「……ふぅ。あと半分」


 さすがに二十を超える亜人種の魔物を葬ったセシルは肩で息をし始めていたが、それでもまだ表情には幾分かの余裕を感じられる。


「あと半分って言うのは?」

「……次の階に向かう転移魔法陣のあるところまでの距離」

「やっぱり転移魔法で移動するんですね」


 ここに来た当初、ビスカが予想していた通り次の回に移動するためには転移魔法を使うらしい。そんなこと思いもよらなかった俺は、『塔』に入ったときに一人でなくて本当によかったと思う。


「少し休むか?」


 別に気を使ってやる必要もないが、こんなところで倒れられても困る。魔物にやられない程度には体力を回復してもらう方がいいだろう。だが、そんな気遣いは無用だったようだ。にべもなくセシルは首を振る。


「……必要ない。できるだけ早く次の階へ行く」

「少し休むくらいの時間はあると思うが」

「……ない。もうあれから三日経っている。急がないと追いつけなくなる」

「え……?」


 今、なんて言った。三日経っている?


「どういうことだ?」

「……私が転移魔法陣の傍で金髪の奴隷と別れてからすでに三日が経った」

「もしかして、こっちに来た時間がズレているのか」

「……そう。私は四日前にここに来た」


 場所ではなく時間の方がズレていたのか。しかも、数分とかそんなレベルの話ではなく日数単位で離れている。そして順番もバラバラなのかもしれない。


「俺たちの後から入ってきたあんたが先に『塔』の中に来てたんだな。そういえば他にも精霊騎士たちも『塔』の中まで入ってきているのか?」

「……それはない。精霊騎士は『塔』に入る権限は持っていない」


 『塔』に入るのに権限がいるのか。まあ、その辺は俺にとってはどうでもいいことか。


「……話している時間が惜しい。行く」

「そうだな」


 ハイマンとは三日も時間が離れてしまっているんだ。あいつがのんびり立ち止まっているとも思えないから、急がないと本当に追いつけなくなる。それに、俺たちが合流する前に奴隷たちが、エドナ王女に追いついてしまうという事態も避けたいな。何か問題が起きたときにその場にいないと対処できない。それに、俺やビスカの命は魔導誓約書を手にしているエドナ王女が握っている。もし、俺のいないところで変な気を起こされたらかなわない。


 先に進むにつれ、亜人種の魔物との遭遇率も上がり始めていた。倒しても倒しても次から次へと湧いてくる。さすがにセシルも一人で相手するには辛くなってきたのではないだろうか。


「俺たちも戦うか?」


 ギリギリまで体力温存しておきたいが、敵の物量で押しつぶされて死んでしまっては元も子もないので、いざとなれば俺も戦うつもりだ。


「……仕方ない」


 それだけ言うとセシルは懐から短剣を取り出し、俺とビスカの足元へと放ってきた。これで戦えという事だろうか。

 

 俺とビスカは顔を合わせると互いに頷き、短剣を手にとる。刃渡りは手のひらほどだが、恐ろしく丈夫な作りであることは何となく分かる。最初にエドナ王女から渡されたボロい剣よりは上等な武器に違いなかった。


 すでに俺たちの周りを囲う魔物の数が十体近くになっていた。セシルが進もうとしている方向にいる魔物を優先的に倒そうと俺は駆け出す。


 さっきの感覚を思い出せ。


 身体を羽のように軽く、風を受けて空を舞うように軽やかな動きで、亜人の剛腕による一撃を避けて、すぐさま目玉を切り上げる。硬質な魔物の皮膚とは比べるべくもないほど柔な眼球は刃を掠らせるだけでも、相当の裂傷を与えることができた。動きを封じる程度であれば、なで斬りにするだけで十分に思えた。

 初めは脅威でしかなかった亜人種の魔物も、剛腕による一撃に気を付ければ、あとはいかに弱点である目に一撃を入れるかという問題である。魔物の速さも大体把握できた今となっては、さほど脅威を感じることもなくなっていた。

 

 これが、戦い慣れるという事だろうか。

 俺自身の強さはそれほど変わっていないとは思うが、戦闘はかなり楽になったように感じる。これならいける。


 ビスカの方も振り下ろされる拳に細心の注意を払いながら、隙を見て魔物の眼球を抉っていた。先の苦戦が嘘のように敵を倒せている。


「……見えた。あの建物の中」


 セシルが一体の魔物を地に沈めてから、前方を指さす。その先には傾いた茶色の建物があった。


「……この魔物の群れを抜けたら、すぐに中の魔法陣の中に入って」

「わかった」


 追いすがる魔物を駆逐しつつ、俺たちは茶色の半壊した建物に駆け込む。

 するとすぐに部屋の中央に半径二メートルほどのそれらしき魔法陣があった。


 躊躇なくその魔法陣に踏み込むと、途端に発光を始め、あたりを真っ白に染め上げながら視界のすべてを埋め尽くした。


 全身が微かな熱に包まれるような感覚。かと思えば、徐々に光は薄れていき、目の前には巨大な樹木が現れた。


「え、なんだ?」


 周囲を見回すと、どうやらここは森の中らしかった。木々の足が高く、差し込む日差しは頭上を遮る葉によって遮られており、あたりは薄暗い。


「今度は森の中ですか。『塔』の中って不思議ですね」

「そうだな。というか、外観からはさっきの廃墟もそうだが、物理的にこんな空間が広がっているはずがないんだが」

「きっと魔法の力なんでしょうね」

「だろうな。それ以外考えられない」


 移動だけじゃない。『塔』の内部の空間自体が何らかの魔法によって作られているであろうことは間違いなかった。


「それでここから先はどう行けばいいんだ?」

「……さあ」

「え……?」

「……ここから先のことは私も知らない。言ったはず。金髪の奴隷と別れたのは転移魔法陣の傍だって」

「そういえば、そうだった」


 ここから先の道のりは誰も知らない。手探りで、ハイマンの行く先を負っていくしかない。

 本当の意味での『塔』の攻略はどうやらここから始まるようだ。


次回は水曜日に投稿する予定です。

※多忙につき、しばらく月曜は投稿しませんm(__)m

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