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第四十話 『塔』の中

第四十話です。

よろしくお願いします^^

 俺たちは『塔』の中への侵入を果たした。そのはずだったんだが……。


「ここって『塔』の中なんだよな?」

「それにしては、なんかおかしいですよね? ここって、どう見ても……」


 目の前に広がっていたのは荒廃した街並みだった。

 瓦礫の散乱する通りに、半壊した建物。まともな家屋は一つもなく、人の営みを感じることはできなかった。

 どう見ても崩壊した街だった。

 おまけに、見上げればちゃんと空がある。

 とても、『塔』の中とは思えなかった。


「それにほかの連中の姿も見えないな。というかハイマンもいないし」


 ここにきて、すぐにあたりを見回してみたが、エドナ王女はおろか、奴隷たちの姿すら見つからなかった。そして、一緒に『塔』の中へと入り込んだハイマンの姿も見当たらない。

 いったい何がどうなっているのやら……。


「先輩、どうしますか?」

「そうだな。とりあえず、あたりを探索してみるか」

「そうですね」


 瓦礫の街を探索しながら、そういえばと思い、先ほどの戦闘についてビスカに尋ねてみる。


「さっき異端審問官と戦った時のことだが、あれ、最初の方は本気出していなかったのか?」

「はい。なんか戦い慣れしていそうな相手だったので、戦いながら対策されないように、できるだけ手の内は晒さないように気を付けて戦っていましたが……それがどうかしましたか?」

「いや、なんでもない」


 そんなこと考えて戦っていたのか。これはビスカも十分戦い慣れしているな。まあ、当然か。なにせ戦闘民族だからな。


「それにしても、どうして皆さんいないんでしょう? 置いて行かれちゃったんでしょうか」

「いや、もしそうだとしてもほぼ同時に入ったハイマンがいないのはおかしい」

「それも、そうですね」


 これは何らかの『塔』による作用と考えて間違いないだろう。

 魔法か何かによって俺たちは別々の場所に分断されてしまったわけだ。となればここからの選択肢は二つ。


「他の奴を探してみるか? それとも、先へ行く道を探すか」

「きっと皆さんも先に進んでいるはずです。なら、わたし達も先へ進めば、その先で会えるんじゃないですか?」

「それもそうだな」


 それに、ハイマンなら心配いらないだろう。なら下手にここら辺にとどまって皆を探すよりは先に進んだ方が効率的か。


「どっちみち、周囲を探索することには変わりないか。しかし、上に登れるようなものなんて見当たらないけどな」


 なにせ、この空間には空がある。そして、見渡す限り、その空へと延びていくようなオブジェクトは確認できない。


「もしかして、転移魔法……」

「転移魔法?」

「はい。大昔の魔法の中に、離れた場所を一瞬で行き来できる魔法があったと聞いたことがあります。そういったものがもしかしたらこの『塔』にもあるのかなと思ったんですが……」


 なるほど。俺は馬鹿正直に上に登る階段なんてものがあるのだと考えていたが、魔法という可能性もあるのか。


「考えてみれば、俺たちがここに飛ばされたのもその転移魔法かもしれないしな。来たとき、どこにも入り口らしきものが見当たらなかったし」

「そういえば、いきなり道の真ん中に立っていましたね。じゃあ、やっぱり……」


 転移魔法か。

 しかし、転移魔法がどういうものなのか知らないから、見つけるのも相当骨を折りそうだ。


「先輩、今何か聞こえませんでした?」

「え……? いや、聞こえないが」


 しかし、ビスカが警戒心に満ちた表情を浮かべ、立ち止まり、耳を澄ませる。

 ただならぬビスカの様子に、俺もできるだけ音を立てないように気を付けて、周囲を警戒しておく。

 すると、


 ――ギシッ。


 確かに、瓦礫を踏みしめる音が聴こえてきた。

 その足音は徐々に大きくなっているように聞こえた。


「何かが、近づいてくる……?」

「先輩、すぐに隠れてください!」


 ビスカが慌てた様子で半壊した建物に入るよう促してくる。

 俺は言われるがままにビスカの後に続いて、建物の影に身を隠した。


 そして現れる音の主。

 通路をのっそりと歩いてくるのは赤黒い巨体だった。

 2本の足で地を踏みしめ、人のような風貌でありながら体長は2メートルを優に超えている。特徴的なのは頭部に一つだけ付いたギョロ目と明らかにバランスの悪い丸太のような上腕、そして自らの頭ほどもある大きな口だ。


「あれが、魔物なのか」

「そうだと思います。わたしが見たことがあるものとは違いますが、おそらくあれは亜人種だと思います」


 亜人種。

 確か、例外的に知能を持っている魔物だったか。

 見た感じ、そんなに賢そうには見えないが……。


「あ……」


 ビスカが微かな声を漏らし、亜人種の魔物から視線を背ける。


「どうした?」

「あの、魔物が引きずっているものが……」


 魔物が引きずっているもの?

 俺は気づかれないように注意を払いながら、だらりと地に這うほどに発達した魔物の腕に視線をやる。


「うっ……! あれは、奴隷の誰かなのか」


 魔物の腕に足を掴まれ、ボロ切れのように引きずられているのは血だらけの奴隷だった。耳を澄ませば微かに苦痛に満ちたうめき声まで聞こえてくる。まだ、かろうじて生きているのか。


「助けに、行きますか?」


 ビスカが緊張した面持ちで尋ねてくる。


「まだ生きているなら、助けるべきだろう」

「でも、確実に罠ですよ。ああやってわざと生かしたままにしているのは、仲間が助けに来るのを誘っているんです」

「だろうな。でも、あの奴隷はたぶん俺たちよりも前にここに来たはず。なら、他の奴らがどうしたのか知っているかもしれない」

「……そうですね。じゃあ、戦いますか」


 ビスカは、あの奴隷を助けることにあまり乗り気ではないように感じる。やはり罠を警戒しているのだろうか。


「あくまで、あの奴隷の方を助けるだけですよね?」

「そうだな。でもそのためにはあの魔物を倒さないと」

「いえ、奇襲して魔物があの奴隷から手を放したら、すぐに回収して逃げましょう」

「え……? まあ、それができるなら、無駄な戦闘は避けるに越したことは無いが」

「決まりですね」


 珍しくビスカが自分一人で何もかも決めてしまった。そして、執拗に魔物との戦闘を避けようとしている。もしかして、ビスカは魔物と戦うことを恐れているのか……?


 そんなビスカの態度の意味を、俺はすぐに知ることになる。

 


多忙につき、暫く月曜日の更新はお休みさせていただきます。

申し訳ないですm(__)m

次回の更新予定は水曜日です。

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