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第四話 厨房という名の処刑場へ

第四話です。よろしくお願いします^^

「あらあら、残念ねぇ」


 屋敷の前で報告をすると、リスタは楽しそうに笑みを浮かべながら俺のことを蹴り飛ばした。

 顔面に痛みが走る。そして血の味がする。どうやら口の中が切れたらしい。

 三分の二あたりまで終わらせたところで、強烈な眠気に襲われて、そこからのことは記憶にない。気付いたら奴隷小屋に戻って眠ってしまっていた。そして、朝目覚めるとリスタが報告を求めてきたので、ありのままを話したら、こうなった。かなり本気で取り組み、十分な成果は上げたと思ったが、全部でない限り働きは一切認められないらしい。結局のところ、リスタの目的は庭の雑草を除去して庭を綺麗にすることではなく、言いつけを守れなかった奴隷に罰を与えることだったのだろう。昨日のメルカの話は案の定だったというわけだ。


「こいつを厨房に連れていきなさい」

「はい」


 リスタの命令を受けて、お付きの奴隷らしき者が二人、俺を両サイドから拘束して、歩き出す。

 始めから詰んでいたのではどうしようもない。俺は諦めの境地に至り、特に抵抗することもなくされるがままになる。


 連れてこられた先はどう見ても厨房ではなく拷問部屋だった。拘束具に始まり、痛々しい金属具などが所狭しと並べられている。


「拘束しなさい」

「はい」


 奴隷によって俺は板の上に磔にされる。身動きはほとんどとることができない。これから俺は殺されるのかと妙に冷静に状況を判断する。それにしても不思議なことに何故か死に対する恐怖がまったく湧いてこない。自分でもさすがにおかしいなと思うが、記憶を失うとこんな精神状態になるものなのだろうか。


「……気に食わないわね。なんで取り乱さないのかしら?」

「取り乱したら助けてくれるのか?」

「いいえ。喜々としていたぶるわ」

「だろうな。だからさ」

「ふーん。つまり、それがあなたの最期の抵抗ってわけね」

「さあな」

「チッ。あなた、やっぱりむかつくわね」


 リスタはそういいながら、手に持っていた小さめのナイフを俺の太ももに振り下ろしてきた。ひんやりとした金属が肉を突き破り骨にあたる感触が生々しく伝わってくる。途端に激痛が走り、うめき声が漏れる。


「あらぁ? そんなみっともない声出しちゃうと、お姉さん、うれしくなっちゃうわよ?」

「く……。この屋敷の人間はそろってイカレてやがるな」

「そこに私を含められるのは心外よ」


 不意に割って入る声が一つ。

 入口のドアがいつの間にか開けられていて、そこにはメルカが立っていた。


「なぁにメルカ。今お楽しみなのよ。邪魔しないでくれる?」

「さすがに言いつけを守った奴隷をおもちゃにするのはどうかと思うけれど」

「はぁ……?」

「外、雑草は全部なくなっていたわ。そこの奴隷がやったんでしょう?」

「そんなはずないわ! あの量を一日で片づけるなんて不可能よ。それに昨日の夜見たときは……いいえ、こいつも報告で、三分の二までしか終わらなかったと言っていたし」


 リスタはお付きの奴隷の一人を庭に向かわせた。そして数分後に帰ってきた奴隷の口から雑草がすべてなくなっていたことを聞かされると、リスタは一瞬悔しそうに唇をかんだ。が、すぐに素の表情に戻ると俺に対して問う。


「本当にあなたがやったのかしら?」

「さあ、記憶にないが」


 するとすかさずメルカが口をはさんでくる。


「あなたは記憶障害を抱えていて、時折記憶がとぶんでしょう。そのせいで覚えていないのでは?」

「そういえば昨日も夜通し作業をしていたが、途中から眠くなってしまって記憶があいまいだな。気が付いたら奴隷小屋で眠っていたし」

「なら、実際にはやり終えていたんでしょう」


 本当にそうだったんだろうかと首を傾げる俺に対して、メルカがやや強引に話を持って行った。


「……そういうこと。あなた、私のおもちゃを奪う気なのね?」

「これはまだお義父様の所有物のはず。義姉さんのものではありません」

「チッ。しょうがないから今回だけは見逃してあげるわ。そう。あなたはこういうのがいいのね?」

「別に、そういうわけではないわ」


 リスタは俺のことはもう完全に無視して部屋の外へと出て行ってしまった。

 もちろんお付きの奴隷たちも一緒に。

 そして俺は、メルカと二人、部屋に取り残された。


「なあ、なんで助けてくれたんだ?」

「気になったからよ」

「ん、俺に好意があるのか」

「違うわよ! 興味があるの。少しずれた感性とか不自然なまでに薄い存在感とか……いえ、なんでもないわ」

「なんだよ。意味ありげに途中で切るなよ。気になるだろう」

「なんでもないわ。そんなことより、あなたの名前は?」


 そういえば次に会った時に聞くから考えとけとか言っていたか。そんなこと考えてる余裕はなかったし、残念ながら本当の名前を思い出せてもいない。


「まだ考えていない」

「そう。じゃあ……クロン」

「はい……?」

「あなたが名前を思い出すまで、私はあなたのことをクロンと呼ぶことにするわね」

「別に構わないが。ちなみに由来は?」

「……私が昔飼っていた犬の名前よ」


 犬の名前か。まあ、名前なんて別にどうでもいい。犬から取ったというが、むしろただの奴隷に過ぎない俺にはぴったりの名前かもしれない。現に俺はこの家に使える犬だしな。


「しかし、俺もやるもんだな。まさかあの広い庭の雑草、すべて抜き切ってるとは」

「は……何を言っているの。そんなわけないじゃない。あなたが抜き切れなかった雑草は私が魔法で全部抜いたのよ。……まさかあなた、さっきは本気で自分が雑草を抜き切っていたと思っていたの?」

「まあな。でも、そうだったのか。ならあんたが俺の命の恩人ってことになるのか。何というか、助かった」

「なんか、軽いわね。そういえば、何か考えがあるのかと思えば、普通に義姉さんに殺されそうになっていたわよね」

「だから、特にそんなものはないって言ったろう」

「なのにあんな能天気でいたの?」

「まあな」

「……あなた、だいぶ変な人ね」

「俺もそう思う」


 メルカがクスリと笑う。


「まあ、次は助けないから、あとは自分でなんとかしなさい」

「またよろしく頼む」

「だから、もう助けないってば」


 メルカはプイと顔を背けて拷問室から出て行ってしまった。

 

 これでひとまずの危機は去った。

 メルカは、姉と違ってだいぶまともそうな人物だな。

 俺に危害を加えてくることはなさそうで安心した。

 

 とにかく記憶を取り戻すことを考えなければならないが、今回の件からもリスタには気を付けておいた方がいいだろう。何故かやたら俺を殺そうとしてくるようだし。それ以外は特に気にしなくてもいいだろう。現状メルカも敵ではないようだ。クライフ伯爵に至っては全く接点がないのでわからない。まあ取り合えず日々の雑用をこなしつつ、記憶を取り戻すために情報収集をしていくか。

 そんな感じで今後の指針を決める。

 ではまず手始めに――




 ――って、俺は手足を拘束されたままなんだけれど、これからどうすればいいんだろうか?



次話の投稿予定は2016年12月3日(土)です。


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