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第三十八話 想定外の戦い

第三十八話です!

よろしくお願いします^^

 夜になるとあたりは闇に包まれる。今日は新月の夜だったようで月明かりすら存在しない。『塔』を囲む城壁のかがり火のみが闇の世界を照らし出す。少し離れた森にいる俺たちの存在にはおそらく誰も気づいていないだろう。この暗さなら、おそらく門の近くに行くまでは見つかる心配はない。

 百メートルはある距離を岩陰や茂み利用しながら詰めていく。

 門は固く閉ざされている代わりに、見張り番などはいないようだった。もしかしたら、城壁の上にはいるのかもしれないが、壁際まで寄ってしまえば上からはそうそう見えない。


「これより、奇襲をかける。護衛兵の者が壁を登り、内側から門を開くので、奴隷諸君は先陣を切って中に突撃して道を切り開け。精霊騎士どもは、おそらくほとんどが武装を解除して休んでいるだろうからたやすいはずだ」


 事前にエドナ王女が立てた作戦はシンプルで、身軽な護衛兵が城壁をよじ登り、侵入して城壁を開ける。そして、奴隷を先頭に突撃して、少数の見張りを行っている精霊騎士を倒している隙に、本体であるエドナ王女と護衛兵が『塔』に入る。そして、それを見届けたのち、救援の精霊騎士が来る前に奴隷たちも『塔』の中に逃げ込むというものだ。まあ、早い話奴隷は精霊騎士の足止めをしろというものだった。


 ハイマンが言っていた話のとおりだとすると、塔の守りは百人前後。それを四方にある門に分けて配置しているのなら単純計算で二十五人だが、休んでいる精霊騎士がいることも考えれば半分もいないはずだ。奴隷の人数が十五人だという事を考えれば人数的には無理な作戦ではない。後は精霊騎士がどれだけ強いのかにもよるが。


 さっそく護衛兵数人が身軽になって城壁を登り始める。小型のナイフのようなものを城壁のわずかな隙間などに突き刺して足場にしながらどんどん上がっていく。


 そして、あと少しで登り切るというところでその護衛兵は、城壁にピタリと身を寄せて動きを止めた。よく見ると見回りの兵が城壁の上を歩いてきていた。


 見張りの精霊騎士が何やら訝し気な様子で近づいてきて、城壁をのぞきこみ、壁に張り付いた護衛兵を発見した瞬間、いきなり首のあたりを押さえて苦しみながら、落下した。そして、落ちてきた精霊騎士を下にいたものたちが布を広げて受け止めて、落下音を抑える。


「今のはどうなったんだ?」

「吹き矢を使って精霊騎士を倒したみたいですね」

「そうか。……というか、こんな暗い中でよく見えたな」

「はい。目はいい方なんで」


 ビスカは得意げに胸を張る。暗闇でもわかるくらいに無い胸を……。


「……先輩? わたしの胸に何かついてますか?」

「いや、むしろ何もついてないというか」

「ひょっとしてケンカ売ってますか? 準備運動がてら買いましょうか?」

「……スマン。暗くてよく見えなかっただけだ」

「まったく、先輩は目が悪いみたいですね。奴隷から解放されたら真っ先に治療をお勧めしますよ」


 つい最近見たのがメルカの胸だったせいで、つい大きさに目が行ってしまった。今まではこんな事はなかったのに、最近なんかいろんな影響を受けて自分というものが、わからなくなってきている。メルカにも変わったと言われたし、やっぱり俺は最初に比べて変わってきているのだろうか。


「門がなかなか開かないねえ。もしかしてさっきの人は失敗したのかな」

「そういえば、城壁を越えてから時間が経つな」


 すでに護衛兵が城壁を越えてから十分近くが経とうとしていた。もし、失敗していたとしたらどうするんだ。敵に俺たちのことがばれたとなると、ここに駐屯している精霊騎士全員を相手に戦うことになる。そんなことになれば『塔』に入る前からかなりの犠牲者が出るぞ。

 

 不安感が募り始めたころ、ついに門がおもむろに開き始める。

 これは……どっちだ?

 味方が開けたのか。それとも敵がこちらに気付いて攻めに来たのか。


 エドナ王女もしばし様子見に徹していたが、敵の姿がないのを見て取るとすぐに命令を下す。


「よし、予定通り門は開かれた。奴隷たちは前進し、行く手を阻むものを排除せよ」


 俺はハイマン、ビスカと目を合わせ、互いに頷き合うと、他の奴隷たちと共に門の中へと走り出した。


 かがり火に照らされた道を駆けていくが、何故か全く人がいない。守りが手薄にもほどがある。せめて見回りの者くらいいてもいいものだが――。


 そんな疑問は、幕舎の密集地を抜け、広間に出た瞬間に解消されることになった。


 なんだよこれ……。


 広間には白銀の鎧に身を包み、槍と盾を装備した精霊騎士が百人以上。隊列を整えこちらを待ち構えていた。


「どうなってんだ……」


 俺だけじゃない。他の奴隷たちも一様に足を止めて、困惑の表情を浮かべていた。話が違うじゃないか、と誰かが呟いた。

 すぐに後方からエドナ王女の一団が追い付いてくる。


「貴様ら、何を止まっている。さっさと……。な、これは……」


 エドナ王女も予想外の事態に言葉を失う。しかし、それも一瞬のことですぐに指示を出す。


「何をやっている。臨戦態勢を取れ。中央を突破して『塔』に駆け込むのだ」

「なるほど。貴女が指揮官か」


 整然とした精霊騎士たちの中から、ひときわきらめく銀の鎧に身を包んだ男が歩み出た。そして、手に持っていた何かを放ってきた。


「お返ししましょう」


 それは、先ほど城壁を越えて中に侵入していた護衛兵の首だった。


「貴様、なぜ我々に気付いた」

「なに、最近は『塔』に近づこうとする賊が多いので、警戒を厳にするようにと指示が入りましてね。大量の武器と一緒に」

「……そうか。グリンドルの仕業か」


 エドナ王女は悔しそうに唇をかんだ。しかし、その目は全くあきらめていない。むしろ怒りによってさらに燃え上がっていた。


「……ムガート。奴らを蹴散らせ」

「御意」


 エドナ王女が静かに命じると、ムガート将軍が前に出た。そして声を張り上げる。


「奴隷どもは俺に続け。護衛兵は王女をお守りしつつ『塔』へ入ることを最優先しろ」


 それだけ言うとムガート将軍は敵に向かって駆け出した。そして、先ほど首を投げ渡してきた精霊騎士に向かって背負っていた大剣を振り下ろす。精霊騎士はそれを盾で難なく防ぐ――ことはできなかった。


「なっ、ぐがっ……!!」


 ムガート将軍の打ち下ろした大剣は精霊騎士を盾ごと両断した。

 精霊騎士だったものは血しぶきをまき散らしながら左右に割れる。


 あまりの光景に精霊騎士たちだけでなく、こちらの奴隷たちも唖然として立ち尽くす。


「何をしている奴隷ども。俺に続けと言っただろうが!」


 立ち尽くしていた奴隷たちはムガート将軍の激に触発されて動き出す。声を張り上げながら、剣を抜き放ち、精霊騎士たちに殺到する。一方の精霊騎士たちは目の前で指揮官らしき男が一刀両断されたのが効いているのか、目に見えて動揺している。


「これなら突破できるんじゃないか」

「そうだね。敵もムガート将軍に怯えてしまっているし、勢いでなんとか『塔』まで行けるんじゃないかな」


 ハイマンも剣を抜いて、敵に突撃していく。


「わたしたちも行きましょう!」

「ああ、そうだな」


 ビスカに続いて俺も、精霊騎士の中に切り込んでいく。

 勢いを得た奴隷と及び腰の精霊騎士がぶつかり、絶え間なく金属音が響き渡る。


 『塔』に入る前から予想外の大乱戦となった。



次話は明日投稿予定です。

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