第三十七話 白亜の塔
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道中で、俺は現在の状況を軽く整理していた。
まず、俺たちがなすべきことはこの大陸中で禁忌とされている、『塔』の攻略だ。正確には『塔』を攻略すると宣言したミスリク王国の王女をてっぺんまで送り届けること。
護衛としては王女がもともと連れてきていた護衛兵が七人と道の途中であらかじめ待機していたと思しき護衛兵が途中で合流してその数は二十人になった。
そして俺たち剣闘奴隷が、ビスカやハイマン含めて十五人。但し、潜入した俺らを除くとビスカ以外にはそれほど腕の立ちそうなものはいない印象だった。『塔』を攻略するというのならもっと強そうなやつを選抜すべきだとは思うが、そうしなかったのはやはり、全滅すること前提の人選という事なのだろうか。
日の出ているうちに総勢三十五プラス一人の移動ともなれば、いやでも人目についてしまうところだが、幸い俺たちが進んでいるのは森の中で、人のとおりもほぼない。というのも――。
「こうも歩きづらいものなんだな。なるほど俺たち以外に人が見当たらないわけだ」
「まあ、僕らが進んでいるここって、道じゃないからね」
「普通こんなところ、通ったりしませんよ。魔物狩りにでも行くのなら話は別ですけど」
どうやらあえて、目立たないように道なき道をすすんでいるらしい。そして、何よりこのまま森の中を直線に突っ切る方が『塔』へも近道になるようだ。
「皆の者、歩く速度を上げよ! 夕刻までには『塔』の麓までいかねばならない」
護衛兵と共に先頭を行くエドナ・ミスリクは振り返ると、後に続く奴隷たちに檄を飛ばした。
というか、あの王女様はいったい何なんだ。朝から悪路を行く奴隷たちはすでに疲れの色を見せ始めているのに引き換え、王女様は下手したら戦いを生業にしている剣闘奴隷たちよりも歩みが軽快だ。いまだ疲れを感じさせない。とても温室育ちとは思えなかった。
「さすが姫将軍。なんかもう率いる姿が様になっているよね」
「姫将軍って、あの王女のことか?」
「ああ、そうさ。エドナ王女様は女性でありながら、王族の責務と称していつも戦場に出ていかれて、実際に指揮を取ることもあった。それでついた呼び名が姫将軍さ」
なるほど。だから、相応の強さも身に付けているというわけか。
それに周りを固めている護衛兵たちも皆それなりに強そうではある。その中でも常にエドナ王女の傍らに控えている赤い鎧を身に着けた男からは並々ならぬ威圧感を感じる。おそらく相当できるのだろう。何度か王女がその男のことをムガートと呼んでいるのを聞いた。
「なあ、あの王女の傍にいるやつって」
「ああ、ムガート将軍のことだね。彼はヴァルナク将軍と並んでミスリクの双璧と言われた武人さ。ヴァルナク将軍が巧みな指揮をする知の将軍だとすれば、ムガート将軍は圧倒的な力を持つ武の将軍だね。たぶんミスリク王国で一番強かったんじゃないかな」
ミスリク王国で一番強かった将軍? そんな奴が何故こんなところにいるんだ。ミスリクの敗戦とともに奴隷となった兵士も多かったし、ヴァルナク将軍も剣闘奴隷になっていたくらいだ。それなのに帝国はなんでそんな奴を野放しどころか、王女の傍に置いているんだ?
「それにしても、ムガート将軍が参戦してくれていれば、ミスリク王国も半月で滅亡することもなかったかもしれないのになあ」
「ちょっと待て。あいつは戦争に参加しなかったのか? ミスリク王国の将軍だったんだろ?」
「ちょうど北西の小国に遠征に出ていたんだよ。その隙に帝国は電撃的な侵攻作戦でミスリク王国を落としてしまったのさ。それで、ムガート将軍は自身と兵たちの自由の保障を条件に武装解除して帝国に降伏したんだ」
主力が国を離れているうちにミスリク王国は帝国に攻められたのか。それで人手不足を補うために、傭兵やらを大量に雇って、その中に俺もいた。俺が戦場にいた背景はそんなところなんだろうな。でも何故俺がそんな負け戦に参戦していたのかは全くの謎だ。
「でもまさか王女様の傍にいるとは思わなかったなあ」
自由になった後、どのような手段を使ったのかはわからないが、ムガート将軍はエドナ王女の下に合流して、力を貸しているようだった。
さすがの俺たちでも疲れ始めたころ、空が赤く染まり始めるころには森の終わりが見えてきていた。そして、木々の隙間から見える先には天を貫かんばかりにそびえ立つ白亜の塔が確認できた。
「あれが『塔』か……」
「そうさ。この大陸を守る要だよ」
大陸中を覆う結界を維持している七つの塔――もうすでに三つが機能停止しているが――森を抜けた先にあるのがまさにそのうちの一つだ。
「先輩、見てください。『塔』の麓に何かあります。城壁みたいな……」
ビスカの言う通り視線を下げると、『塔』を囲むようにしてぐるりと壁があり、まるで城塞のような様相を呈していた。あの城壁を越えて中に侵入するだけでもかなり大変そうなんだが……。
「見た目はあんなだが『塔』を守備している精霊騎士は百人ぐらいしかいないって聞いたことがあるよ。そもそも、あそこに精霊騎士がいるのは『塔』をある特定の国ではなく精霊教が管理しているという事を知らしめるためにいるようなものだから」
『塔』は大陸を守る要であり、そこにいる精霊の力は人知を超えたものである。そのため、特定の国が『塔』を保有してしまうと、間違いなく『塔』を攻略して精霊の力を自国のものとしようと考えるだろう。現に二つの国が精霊の力を手にしてしまっている。そこで、これ以上精霊の力を手に入れるものが現れないように、『塔』はどこの国にも属さない精霊教が管理することになったのだ。
「じゃあ、精霊騎士ってのがいるのは別に『塔』に入るやつを防ぐ目的ではないのか」
「いや、一応来るものを防ぐ目的もあるよ。『塔』に近づく目的は、何も『塔』の攻略だけじゃないからね」
「どういうことだ?」
「前に『塔』には強力な魔物が多いって話をしたよね。要はその魔物を目当てに来る人がいるってことさ」
「魔物を目的に?」
「そう。強力な魔物であれば、いい素材が取れるからね。強い武器が作れるし、売れば金になる。そういうのを目当てに忍び込もうとする人も多いみたいだよ。最近は精霊騎士もそういった手合いの対応ばかりしているんじゃないかな」
「そうなのか」
『塔』いる魔物からはいい素材が取れるというなら、この機会に少しばかり手に入れておけば、奴隷から抜け出した後にための資金にできそうだな。今はもう銀貨一枚しか持ってないし。
森を抜ける直前でエドナ王女が待機の指示を出す。全員がその場にとどまり、森の中で身を隠すことになった。その間にエドナ王女は護衛兵に命じて、城壁の調査をしている。
その間、俺たちは配給された干し肉を食べて一時休息となった。
「そういえば、魔物ってどんななんだ?」
俺は干し肉をかじりながら二人に尋ねた。そういえば俺は魔物というやつを見たことがない。
「僕も実際に見たことはないからなあ。大陸の中央部にはあまり魔物は出ないし」
「そうなんですか。わたしは、剣闘奴隷になる前は魔物狩りのギルドにいましたので、見たことはあります」
ビスカが魔物について教えてくれる。
「あれは基本的には知性がほとんどなくて、手当たり次第に人を喰らいます」
「人を喰うのか。でも普通の獣も人は喰うよな?」
「魔物は人しか襲いません」
「そうなのか?」
「はい。どうして人しか襲わないのかはわかりませんが……あと、魔物にはいくつか種類がいて、それぞれ特徴があるのですが、共通している性質はいずれも群集であることですね」
「たくさん集まっているのか?」
「はい。例外はありますが基本的には数体から数十体、多い時には数百体が群れになっています。しかもその群れを統率するような個体はいませんし、全個体が死ぬまで向かってきます」
「それは、厄介だな」
群れていて、しかもそこにリーダーがいないとなると、全滅させるまで戦わないといけないという事になるのか。
「ちなみに例外というのは?」
「亜人種や、龍種と呼ばれる魔物は例外的に知性を持っています。それに単独で移動したりすることもあります」
なるほど。人型や龍の魔物は知性を持っているのか。どちらも厄介そうだ。
魔物について話を聞いていると、情報収集を終えたらしきエドナ王女が全体に聞こえるような声を響かせる。
「調査の結果、東門が最も手薄であるという事が分かった。ゆえに我らは夜の闇に紛れて東門を強襲し、他の守衛地から応援が来る前に突破して『塔』へと乗り込む。奴ら精霊騎士たちは条約で塔の中まではこないため、全力で『塔』へと駆け込め。以上だ」
エドナ王女の話が終わると、奴隷たちには剣と盾が配られる。どちらもあまり出来がいいとは言えなかったが、ないよりはましだろう。当然ながら鎧は配られることなく、奴隷の装備品はそれだけだった。
装備を整えたのち、夜を待って、俺たちはついに禁忌とされる『塔』の攻略へと本格的に挑むこととなる。
次話の投稿は明後日の予定です。




